妄想スパイラル
彼女を語るならば、欠かせないのが被害妄想である。
この「被害妄想」というのは祖母特有の問題ではない。年老いていって記憶が曖昧になったり、当然できていたことができなくなったりしたときに現れるパターンの一つである。他のパターンでは幻覚を見たり、妄想を抱いたり、暴力をふるったり、徘徊したり、性的な逸脱が起こったりなどが代表例だそうだ。祖母のパターンは被害妄想と幻覚だ。
祖母の被害妄想の例をあげてみよう。
・自分が物を動かしたのを忘れて、誰かが自宅に侵入し隠したり盗んだと思う。
そして盗人(自分)対策に普段使う物を押し入れの奥深くに入れたりして盗まれたと思う永久機関へ・・・。悪い人もいるもんだねぇ。
・死んだ祖父の写真が自分と会話してくれないと、「なんでそうやってニコニコしてるだけなの?そうやっていればお金もらえるんでしょ?」と愚痴を言う。そうやってていいもんだか今度市役所に聞いてくるからね。
・庭の畑のカボチャに虫が食っていると、「この穴は虫が食ったんではない。誰かが穴を開けたんだ」と教えてくれる。虫が開けたらこんなにならないもの。
・部屋の電球が切れかけてチカチカしていると、「誰かが電気を付けたり消したりしているんだ」と思う。間違いないよ。
これらの妄想は時を経るたび、繰り返すたび彼女の真実になっていく。その妄想に基づいた妄想が起こり、彼女の思索は降り積もる雪のように私たちの現実を隔てていく。降る雪を止めることは彼女にも私たちにもできない。
介護系書籍には妄想は一概に否定するべきではないと書かれている。父は彼女の妄想を否定する。私は彼女の妄想を否定しないが、その上で黙っていろという。どちらも酷な話だ。
しかし彼女の妄想は毒を孕みすぎている。私たちには受けきれないのだ。エネルギーの行き場が愚痴にしかないからだろう。私は入所による環境の変化で祖母が新しい選択肢を見つけることを願っている。どんな変化だろうと今の彼女よりはいい人格に導いてくれるだろうと。