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年老いて一人暮らし  作者: ほぼ熊
驚嘆
3/8

浸食ソウル

 「ボケる」という言葉は可愛らしい響きがする。なんだか気軽な感じがする。しかし実際はおそろしい。「ボケ」というのは人生最後に用意された最大級の試練だ。


 実際に「ボケた」「認知症」の祖母と暮らしてみるまで、私はボケの世界をまったく理解していなかった。2人の暮らしは1週間程度の短い時間だったけれど、たくさんのことを学ばせていただいた。



 祖母の探し物の話をしよう。

祖母はいつも探し物をしている。はさみ、洋服、バッグ、財布、食器。いろんな物を置いた場所を忘れてしまう。家の中で失くした物が少しづつ増えて、今ではほとんどのものの場所がわからない。

 例えば、朝起きてお気に入りの服を探す。自分や父が探すと2分で見つかる物も、祖母は30分経っても見つけることはできない。床を探したり、タンスを探したりするうちに失くしていた庭ばさみを見つける。探していた靴下を見つける。でもお目当ての洋服は出てこない。やっとのことで失くした物を見つける頃には、別の用事で他の物を探さなくてはいけなくなっている。そんなことが一日中、絶え間なく起こる。彼女に原因はわかるはずもない。しばらくは日々の悪夢から覚めることはない。寝ても覚めてもというやつだろう。


 「情けなくなる」「がっかりする」と祖母は言っている。「めちゃくちゃだね」「バカだね」とも言う。


 自分で探す能力がないと薄々分かっている祖母は、永遠と愚痴を漏らして同情を引こうとする。一緒に探してと素直に頼んで来ないのは、まぁそういう性格なんだと思う。自分の意思表示をはっきりしないけれど、察して欲しいという思春期のような性格なのだ。


 私はそんなアピールを続ける祖母に「大丈夫だよ」とは言わない。ただ静かに見ているだけだ。一緒に探してあげようともしない。問題が無限に再生産されることを知っているから。

 父は一緒になって探してあげている。出来る限り午前2時でも3時でも。そして父は自分の仕事を退職してしまうほど彼女に尽くしている。


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