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君のいない夏の一日

作者: 罰歌

「君がいるものだと思っていたよ」

 彼女は笑いながら言った。腰に届くまであった髪をボブにしてしまったようで、随分と雰囲気が違っている。

 彼女の短い髪が、風で揺れる。

 夏の匂いが、僕達の間を通り抜けていった。

「君が××してから、あたし、髪切ったんだよ」

 知っているよ。それぐらい見ればわかるさ。

 木陰に居るおかげで、随分と涼しいけれど、今はまだ夏だ。蝉の鳴き声が辺りに良く響く。僕はひんやりとした石の上に座って、彼女の話を聞いていた。

「あと、大学受かったよ。すごく騒がしいんだ、毎日」

 へえ。そうなんだ。

「もう、小学生みたいなノリなの。笑っちゃうよね」

 僕達は二人して肩を揺らし、大笑いした。


 しばらくして笑いが落ち着いた頃、彼女が手に持っていた花束を、そっと花瓶に入れた。

「今日のは特に綺麗でしょ?あたしんちのだから、綺麗で当たり前なんだけどね」

 ありがとう。

 でも、自信満々という風に言うが、実際これは君が選んだものじゃないだろう?

「これ、お母さんが作ったと思った?」

 うん。

「残念、これあたしが作ったの」

 え、本当?

「すごいでしょ。あたしも進歩しているのよ」

 そっか、そうだよね。だってもう一年経つんだものね。


 また強い風が僕達の間を抜ける。

 飾られた花を揺らした。二週間に一度の頻度で変えられる花は、いつも他の通行人の目を釘付けにする。僕としては、とても誇らしいよ。


「ねえ、もう一年だよ」

 かなり早かったね。

「あたしね、まさかこんなことになるなんて、想像、してなかったよ」

 そっか、ごめんね。



「君が亡くなって、一年なんて早すぎるよ」


 彼女の揺れる髪の隙間を、涙が落ちた。


 そうだ、今日は僕の命日だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 短くまとまっていて、それでいて心が動かされました。 最後の『彼女の揺れる髪の隙間を、涙が落ちた。』の一文なんて特に胸が締め付けられました。 [一言] 自分バッドエンドが好きでもあり嫌いでも…
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