1
短編『フラグなんていりません!』の続編になります。続きを期待して下さった方の期待通りの展開でなかったらすみません。
あと2ヒロインは転生者でもなんでもないです。普通の子です。
おめでとう!秋島 姫乃(あきしま ひめの)は助言キャラクターに昇格しました!
そんなフレーズが、ファンファーレとともに私の中に聞こえてきた。勿論、比喩である。
***
私が晴れてノーマルEDを達成し、恋咲学園の二年生になって三週間ばかり経った。
その間に私に起きた出来事を掻い摘んで話すと、特に変わりはないの一言である。あえて変わったことと言えば、前回で担任だったホスト教師が隣のクラスの担任だということ。つまり、やたらと目をつけられることがなくなった。
これは大きな進歩だ。目をつけられる理由に身に覚えがないと言えば嘘だが(特に彼の夢を見た日なんかぼんやりしてます)、いくらなんでも用事を頼む頻度が多い。別の委員の仕事じゃないですかそれー!みたいなのとか。完全に雑用係にさせられていたように思う。甘い雰囲気?ないに決まってます。あってもそれはそれで困るので……。
教室に着くと、まだチャイムまで時間があった。教室にはちらほらと私以外の生徒はいるものの、空いてる席の方が目立つ。クラスメートに挨拶を交わしながら、席に向かい机に鞄を置いたところで、目の前に一人の人物が現れた。
「秋島姫乃さん!今日こそは頷いて貰うわ!」
今年から同じクラスになった少女――神宮寺 綾音(じんぐうじ あやね)だ。絵に描いたような溌剌とした少女で、頭の天辺で括り付けた髪を尻尾のように揺らしている。黒々とした大きな瞳は、彼女の内面を表すかのようにキラキラと輝いていた。
私はそんな彼女に笑いかけた。
「おはよう、神宮寺さん。今日も元気そうで何より」
「当然よ。わかりきったことを言ってないで、ここに名前を書きなさい」
さぁ!と朝から溢れ出すパワーを遺憾なく発揮する神宮寺さんは、私に一枚の紙を差し出した。
入部届である。
入部先にはすでにある部の名前が書かれていた。
新聞部。
「……」
そう、彼女は私を新聞部へと勧誘していた。その情熱たるや凄まじく、私がなんと一年生だった頃からだ。『いまは部活とか興味ないんだ』と断り続けていたのだが、彼女は諦めなかった。『あなたには素晴らしい素質がある!私にはわかるのよ』と目を爛々と光らせてそう訴え続ける。
彼女がそこまで私を買う理由に、心当たりがあった。
恋咲学園の人気者たちと、仲が良いからだ。
彼らが壁を作っているわけでは決してないのだが、学園の生徒が彼らを特別視するあまり、出来あがってしまった壁。
その壁をあっさり超えたのが、私である。そこに、神宮寺さんが目をつけたらしい。
私自身は、みんなと同じく向こう側から彼らを目にしていたかったのだが、運命はそれを許してくれなかった。避けても避けても鉢合わせる出会いイベント、と思わしきそれ。諦めて、出会いましたとも。
あまりにも避けつづけていたせいか、八王子先輩なんか『お前か、俺のストーカーは。鏡を見てから出直せ』と仰いました。酷い。誤解です。
因みに、主人公の秋島姫乃は美少女だ。いまだに鏡を見て自分の容姿に驚くほどに。前世が決して可愛いと言えなかったので、尚更。
前世ではせめて化粧で可愛くなろうと、努力した。そんな私を見やり、彼は言った。『俺はお前の顔も好きだけどなぁ…』『え』彼は口にしたつもりはなかったのだろう。思わず目を丸くして彼を見ると、彼は見る間に顔を赤くして『いや、違う!いや、違うってお前の顔が嫌って意味じゃないからなっ、俺は何も言ってないっていう意味の違うであって――ああぁ』混乱した。そんな彼の言葉が胸に染み渡り理解した途端、つられて私も頬を赤く染めて……
「秋島さん?」
「はいっ!?」
怪訝そうな神宮寺さんの声に、我に返る。ああ、いつの間にか昨夜見た夢に思いを馳せてしまった。
落ち着け、私。
「何だか顔が赤いけど、大丈夫?新聞部たるもの身体は大事よ」
「あはは、ちょっとあの……暑くて」
パタパタと手で火照った顔を扇ぎながら、笑ってごまかす。
というか、神宮寺さん。私があたかも部員のような言い方ですが、私はまだ入部してませんよ。まだ。
「まぁ大丈夫ならいいのよ。さぁ、ここに名前を書きなさい」
「はーい」
私が素直に頷いてペンを取ると、教室にどよめきが走った。
そして、『マジかよ』『よっしゃ、俺の勝ち!ノートは頼んだ』『姫乃が折れたわ』『綾音ちゃんの情熱が勝ったか…』というクラスメートの話し声が、あちらこちらから聞こえてきた。私と神宮寺さんが繰り広げる『新聞部へ入る・入らない』の攻防は、クラスでも注目の的で、中には賭事にまで及んでいた男子生徒までいたようだ。
そんな攻防戦はたった今、私の手によって幕を下ろした。
秋島 姫乃と名前を書いたところで、私はそれを神宮寺さんに渡した。彼女はぽかりと口を開けて、名前の書かれた入部届を見やり、やがて勝ち誇ったように笑った。
「ようやく自分の才能を認めたようね。さぁ、行くわよ」
「行くって……?」
「職員室に決まってるでしょう?」
「HRの後で渡せば、」
いいんじゃ……と続けようとした言葉は、神宮寺さんの声にかき消される。
「善は急げ!思い立つ日が吉日!チャンスは逃さない!!以上が新聞部の教訓よ!」
そして私は神宮寺さんに攫われるようにして、職員室に連行された。
――ここで、冒頭のファンファーレに繋がる。
何を隠そう、私が新聞部に入る決意の一端を担った存在が、いたのだ。職員室に。
八王子先輩の話は本当だった。相変わらず私は八王子先輩に出くわす度に絡まれている。そんな中で八王子先輩が『転校生が来る』と言ったのである。『おかしな時期に』とも。
そう、これこそ私が待ちに待った存在。
中途半端も中途半端な時期に突如転校してきた転校生――2のヒロイン。彼女、のおでましだった。




