第9話 男のロマン
きた、きた、きた、春が来た。いや、算数が来た。
へっへっへっ、してやったり。いきなりの足し算を、一発回答で大騒ぎ。
二級建築士を取った時はちょっこし、いや、かなり苦戦したが、ここじゃ天災、転載、天才じゃー。
飛び出していったアンナ。カロリーネに続いてブルーノまで連れてきた。
注目の中、アンナの出す問題をすらすらといてやった。
ぐふふ、みんなの驚く顔がおもしれー。
「さすがはあなたの子です」
カロリーネが抱き上げて頬づりする。
「いやいや、カロリーネが頑張って生んでくれたからだ」
ブルーノが、二人まとめて抱きしめる。
「いいえ、あなたのおかげです」
「いやいや、カロリーネのおかげだとも」
お~い、頭の上でチュッチュはやめろ~。
自分で仕掛けておいて言うのもなんだが、いちゃつくなら他でやれよ。
近いうちに三人目が出来そうな雰囲気だぞ。こりゃあ、勉強習うより疲れるな。
「アン、ほかにもなにかないの?」
二人が出て行った後にアンに告げたが、算数は簡単すぎて逆につまらん。
ところが、持ってきたのは再び家系図だ。
最近のアンは事あるごとに家系図を持ってきやがる。
アイスラー家を覚えたらスースキ王国、そして各貴族ときりがない。
死んだ奴の名前を覚えても仕方ないと思う、それを覚えてしまう俺の記憶力はすごいと思うが、さすがに少々食傷気味だ。
「マンガはないの?」
「マンガでございますか?」
「えっと、絵の描いてある本だけど」
「まだ絵本がよろしゅうございますか?」
「いるか、そんなもん」
「はあ」
おまけに、土木や建築の本はねえとはな。
技術はその家で代々受け継がれるものだと、ふざけた話だ。
どんだけ技術があろうと、構造計算もろくに出来ないもんがえらそうにしてるんじゃねえって話だ。
よし、こうなったらこの屋敷をじっくり調べるか。
「アン」
「はい」
「この屋敷っていつ建てられたんだ?」
「アイスラー家が使うようになってからでも百年は経ちますので、それ以前かと」
「そんなにたつのか、重要文化財級か」
「重要ですか?」
「いい、こっちの話だ」
「はあ」
建築史の方は詳しくないが、言われてみりゃ年季が入ってるな。
まずは平面図でも引くか。
「アン、大きい紙が欲しい」
「はい、どのくらいの大きさでしょうか?」
「うーん、だいたい二メフ×四メフくらい」(一メフ=.五メートル)
「取り寄せてみます」
それまでに、今ある紙で仮図面を引くとして、まずは実測から始めるか。
これだけ古い家なら、隠し部屋の一つや二つは有る筈だからな。
ふふふ、男のロマンってやつだぜ。
貴族の家にメジャーやモノサシは、無いわなあ。
こういう時は、俺がルールだ。違った、俺がメジャーだ。
両手を広げた長さが一ヒロ、広げた手の親指から小指までが一歩と。俺だけのモノサシ完成だぜ。
ロープの代わりに、シーツを細く裂くのは金持ちの特権、と。
端を結んで長い帯を作り、一ヒロごとにインクを入れる。メイドが多いと楽ちん、楽ちん。
まずは廊下の全長を調べ、片っ端から部屋に突入して幅の合計と比べる。壁の厚みを差し引いて……ほら見ろ、随分長さが違う。どの部屋かは、ドアまでの長さを比べればOKと。
あるねえ、隠し部屋が五つも。
家は二階建て、中央ロビーに二つの階段があり、部屋が左右に分かれている。
十部屋ずつあり、左半分が俺達家族の部屋、右半分が来客用になっている。
隠し部屋は、ブルーノの部屋に二つ。 その下の階にも同じ場所にあったから、一つはいざという時の脱出用だな。
もう一つは不明。
来客用の部屋にも同じようにあったが、これも不明。
情けない話だが開け方が分からん。この辺りは、職人に一本取られたな。
一階、階段横の図書部屋にもわずかな隙間が有るようだが、これは要注意だ。
一階にあるなら、外に繋がる脱出用の階段だろう。つまり、極秘だ。
アンとはいえ、メイドに見られるのはまずいかもしれんしな。
一人で本を読みたいからとアンを追い出したが、開け方分かるかなあ。
有るとすれば、本をどかすと出てくるはずだが……。
おお。本棚の一番下、本の裏に現れたレバーを倒すと本棚が動かせる。
何ともクラッシックな仕掛けで、思った通り地下に続く階段とは嬉しいが、暗い。
光の魔法か、いや、あえて小さな炎だ。
空中に浮いた小さな炎を先行させて揺れを観察するが、うん、問題なさそうだ。
長い間使われない地下には、ガスが充満していたり、酸素がなかったりと、いろいろ物騒だからな。
おっ、鎧や槍だな、錆びてボロボロだ。地下室か、武器庫とは思わなかったな。
海賊が使うような宝箱発見。金属は錆び錆びだが木は無事とは、どんな木を使っているんだ?
おいおいおい、金貨がぎっしり。お宝発見、てか。
まてよ、この部屋が使われなくなって長いんじゃねえか?
もし使っているなら、大事な武器は手入れをするはずだし、爺さんの家だが、その爺さんも知らない可能性は高いぞ。
となれば、
この金貨は誰のもの?
俺のもの……だよな。
将来、有効に使わせていただくとしますか。
ゴッツアンです。
しかし、今回の探索で最大の成果と言ったら、ハンクだな。
会ったというより部屋に押し入ったわけだが、かわいいのなんの。
猿みたいな顔かと思ったら、ちゃんと赤ちゃんだ。
まあ、あの両親を足して二で割りゃあ可愛いのは当たり前だが、小さい指が生意気なことに五本あるし、指を持たせるとギューってつかむ。
「アブアブ」
とかいうし、これはあれだ、お持ち帰り気分ってやつだな。
「ハンク、俺がお兄様だぞ。 お前は俺の弟だぞ」
顔を覗き込むと、手でペシペシするし、こいつは強くなる。
俺はそう確信したね、うん。
『メフ』はエジプトで実際あった物です。(NHK情報)