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ルーラァ  作者: 水遊び
ガキってのは、楽しければいいのさ。(15.07.05改)
7/50

第7話 武術

「ルーラァ様、おはようございます。ルーラァ様」

「うーん」

 ねむい、もっと寝たい。というか、いつまでも寝ていたい。

 年を取ると背骨が痛くなって必然的に早起きになるが、それがない。

 心置きなく寝ていられる今は至福のひとときだ。

「ルーラァ様、今日から武術のおけいこです。楽しみにされておられたのではありませんか?」

 え? えっと、おお、そうだった。

「アン、抱っこ」

「はいルーラァ様」

 瞬時に眼は覚めたが、すぐには起きない。眠いふりで甘えるのはガキの特権だ。

 柔らかいおっぱいは世界平和の礎である……多分。

 なにはともあれ、極楽、極楽。

「ブルーノ様は剣がとってもお強いですから、ルーラァ様もきっとお強くなられますよ」

「うん、けいこする」

「はい、その前に朝ごはんです」

「はーい」

 我ながら、いいお返事だぜ。


 木刀持っての剣術、待ってました。パチパチと拍手したいくらいだ。

 柔道や剣道は日本男児のたしなみだが、素人相手ならまだしも、実戦で通用するとは思えない。

 それより、大〇先生直伝の喧嘩空手がどこまで通用するかが楽しみだ。

 今から鍛えてゆけば、ゴッド・ハンドも夢じゃない……うーん、かもしれん。

 まあ、そこまでは無理としても、武器が無くても手足が凶器となるのは魅力的だ。

 蹴りで足の骨を折り、手刀で腕の骨を折る。

 鍛えておけばだが、それほど難しい事ではない。

 まあ、拳を潰して平らにするのは大人に成ってからとして、まずは型を体に叩き込むとこから始めるか。

 おっと、まずは剣術からだった。


 稽古を屋敷内の庭でするのはいいが、芝生がない。雑草も当然のごとく綺麗に刈られている。

 倒れた時にクいいッションになるんだが、そこまで親切じゃないか。

 教えてくれるのはレイダー。指南役が執事とは、ガキだと思って舐めてんのか?

 いや、他に兄妹はいないみたいだし、大事な一人っ子ならそれはねえか。

 だとすると強い執事……なんだかなー。

 おまけに、何だその服は。赤茶色のベストにコート、黄色の刺繍は金のつもりか。

 しかも、半ズボンに長くて白い靴下はねえだろう。ひょっとしたら白いタイツかもしれん。

 笑わせようとしているとしか思えんな、ついていけんぞ。

「ルーラァ様、これを振ってみてください、こうです」

 レイダーが素振りの見本を見せてくれるが、ガキの体力じゃ木刀は重すぎて、ビシッと止まらない。

「いいです、お上手ですよ」

 適当な事言ってやがる。変な服着ているくせに。

「駄目なのにほめるな」

 目を見開いて驚くレイダーを無視して素振りを続けたが、すぐに疲れて座り込んでしまった。

 竹刀が止まらないのは仕方がないにしても、ぶれて真っ直ぐ振れないのは圧倒的に力が足りないからだろう。

 しかも、この世界で使うのは剣だ。

 竹刀が確か五百十グラム。木刀は知らんが、日本刀で一キロは有った筈だ。くそったれが。

「続けるぞ、レイダー」

「はい、ルーラァ様、ではここに打ち込んでください」

 木刀を横に構え、そこに打ち込めってか。まったく、初心者のガキじゃあるまいしって、そのままか。

「ヤー、メーン」

 はは、つい昔のくせが出た。

「いいですよ、その掛け声で行きましょう」

 なんだ、やっぱり適当じゃねえか。

 だが、この方がやりやすい。

「行くぞ、レイダー」

「はい、ルーラァ様」


「休憩にします、ルーラァ様」

 終わりじゃないんかい!

 倒れ込むように座るが、足を投げ出して行儀が悪いなんて言ったら噛みつくからな。

 しっかし、どうみても十分くらいだろうな。体力がないにも程があるぞ。

「どうぞ、ルーラァ様」

 アンナが出してくれる冷たいお茶が美味い。

 アンナが出してくれる濡れたタオルが気持ちいい。

「城兵が使う剣技もあるのですが、どうなさいますか?」

 涼しい顔で立っていたレイダーが聞いてくる。さっき休憩って言ったくせに。

「やるに決まってるだろ」

「はい、では準備してまいります」

 くそー、こちとら汗でベタベタだっていうのに。うっすらでもいいから汗をかけってんだ。


 レイダーが持ってきたのは大きな小手と短い木刀、たいそうな小手で攻撃を受け、短剣で戦う流派か。

 立ち位置が剣道とは逆、空手に似ているな。

 左手の小手で攻撃を受けるが、一撃受けただけで腕がしびれるほど痛い。

 グッとこらえて反撃するものの、痛くて涙目になってしまう。しかも、手加減しているのが丸わかりなのでよけいに悔しい。

「くそー、くそー、くそー」

 これじゃあ、負け犬の遠吠えじゃねえか、くそー。

 まったく、こんなはずじゃなかったんだがな。



 あれ、飯は食えるな。

 もう立てないほど疲れたんだが、まだ体力的に余裕があるという事か?

 飯も喉に通らないほどではないとは。うーむ、まだ根性が足りんということか、反省しよう。

「ルーラ様、吟遊詩人が来ておりますが、お会いになられますか?」

 食後にリンゴに似た果物を丸かじり。

 ガブリといったはずだが、口が小さすぎてネズミがかじったようになる。リンゴにまで馬鹿にされたような気分だ。

「吟遊詩人?」

「旅をしながら、お話をする人です」

「ふーん」

 祇園総社の鐘の声、なんたらかんたら。まあ似たようなもんだろ、興味なし。

 リンゴを食べると血が出ませんか? はい出ません、と。

「魔族のお話が聞けるかも知れませんよ」

「え? 会う会う、すぐに会う」

「ふふふ、はい」

 まったく、それを早く言えってんだ。

 しかし、笑うってのは失礼なんじゃねえのか?

 なになに、吟遊詩人の話を聞きたがる貴族は何処にでもいて、今回はドーマだかトンマだか知らんが、侯爵んちに来たのを引っ張って来たのね。はいはい、分かったから早く会わせろ。

 

 何だこいつ? 体が光ってるぞ。

 部屋に入ると、右手を左胸に、膝をついて首を垂れる男がいた。確か最高の礼だったが、なんとも気色の悪いやつだ。

「顔をお上げなさい」

 椅子に座って足をぶらぶらする俺の左、アンが話すようだ。右側のレイダーは用心棒かもしれん。

「ルーラァ卿のご尊顔を拝し、このブローグ喜びに堪えません」

 おいおい、何とも時代がかった奴だな。

「ルーラァ様は、魔族の話をご所望です。知っている事をお話しなさい」

「御意」

 うーん、アンも随分と高飛車だが御意ときたか、どっちもどっちだな。


「魔族とは、魔力を持つ人の総称でございます。動物から魔物が生まれるように、人から魔力を持つ者が生まれるわけでございます」

「砂漠の民以外ではいないと聞きますが」

「いいえ、数こそ少のう御座いますが、生まれてはおります」

「どういう事です?」

「はい、魔力を持っている子供は一つになる前に魔法が使えるようになります。 そして悲劇が起きます」

「それはどういう?」

「家族ごと家を燃やしてしまう事があるわけです」

「まあ?」

「ですので、子供が生まれても人には話しません。少しでも魔法が使えると分かれば、密かに……」

「なるほど」

「魔力を持つ子は忌み嫌われますので、お披露目が二つか三つになってから、というのもこの為です」

 俺のお披露目は一つかそこらじゃ無かったかな。

 しかし、こんな話を子供にしてもいいのか?

 かなり物騒な話だぞ。

「砂漠の民はどうですか?」

「はい、砂漠の民は水の魔法しか使えませんので、逆に喜ばれます」

「なるほど、良く分かりました」

 こりゃあ魔法を使えることは秘密にした方がいいようだな。

「砂漠の民はお互いが分かると言います」

「それはどうしてです?」

「魔力を持つ者同士だと、お互いの体が光って見えるそうです」

 そう言って、俺の事をじっと見る。

 おいおい。

 俺も光って見えるという事じゃねえか。

 魔力がある事は分かっているぞと、遠まわしに脅しをかけているのか?

 このオッサン只者じゃねえな。

 背中に嫌な汗が出るが、こんな時こそ直球勝負だ。

「ところで、ブーログは敵か? それとも味方なのか?」

「無論、味方にございます」

「とりあえず信じておこう。手を動かさず、頭だけを下げる礼を覚えておけ。それが仲間のしるしだ」

「ありがとうございます」

 ふーっ、こんなに緊張したのは初めてだ。

 こういう奴こそ味方に欲しいが、子供の俺では相手にもされないだろう。

 まあ、印象は残せたし、いつか会えることを期待しておこう。


 そういえば弟が生まれたらしいが、会わせてはもらいないのはこのせいかもしれんな。

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