第6話 魔法
「ルーラァ様、ご本をお読みしましょうか?」
「うん、読んで」
アンは赤毛だが水色の瞳がきれいだ。けっこういい線いっていると思うが、俺の発情期まで何年あるんだ?
10年もしたらアンナはおばはんじゃねえか、もったいねえ話だ。
アンは俺が見易い様に本を持つし、優しい声で読む。
うーん、いい女だ。
「字を指でなぞりながら読んで」
「はい、えっと、もしかして、文字を覚えようとなさっていますか?」
「お話は覚えたのに、字が分からない」
「かしこまりました。それでは、同じところを何回か繰り返しながらお読みしましょうか?」
「うん、それがいい」
まてよ、お話の内容だと、主人公の王様が魔道師様と共にスースキ王国を建国した。
その魔導師様だが、前にも聞いた気はするが、もしかして魔法とか使うのか?
「アン、魔道師様って何?」
「魔道師様は魔法を使って王を守ったり、敵をやっつけたりする人です」
おいおい、まさかの魔法使いか? なんかスゲー話になってきたぞ、こりゃ。
「魔法って何?」
「人に出来ない不思議な事をする力です」
おい、早い話が知らないのかよ。
「ふーん。魔法はどうやって使うの?」
「魔法は魔道師様しか使えません」
「なーんだ、つまんない」
しけてんなー。
期待しただけ損した気分だ。
「ルーラァ様?」
「ああ、魔法というのを見てみたかったんだ。無理ならいい」
俺の表情を読んだのか、アンが心配そうに見てくる。
「そういえば、王都の南には魔族が住んでいると聞いたことがあります」
「ほんとう?」
やっぱりいたか。魔族って言うのか、かっこいいじゃねえか。
「魔族って、どんな魔法を使うの?」
「はい、王都の南はテネスの町まで乾燥地帯が続いておりますが、魔法で飲み水を出すことが出来るので生きていけるのだそうですよ」
「そっか。まあいいや、魔族の人に会いたい」
「魔族は乾燥地帯から出てこないそうです。それに、とても気が荒く馬車を襲ったりすることもあるとか」
なんだよ、もう。俺の期待する気持をもてあそんでいるのか? 上げたり下したり、エレベーターじゃねえんだぞ。
「無理なら、もういい。魔道師様に関する本はもうないの?」
「書庫を探してまいります」
アンが部屋を出て行った。
しばらく時間がかかるだろうが、まてよ、書庫だと? この本はざらざらだが、こりゃあ書き写したもんだ。
これで書庫があるとは、専門の写本家でもいるのかな?
それにしても、飲み水だけとはしけた話だが、結局駄目なのか。
「指先に水」
おおっと。なんだ、出来るじゃねえか。
あわてて口に含むが、うまく、ない……生ぬるい。
「指先に冷たい水」
おお、うまい。
「指先に火」
おお、水が有るなら火も有ると思ったが、まさしくその通りってか。
しかし、今ひとつピンとこないな。
飲み水に不自由しないのはいいが、砂漠でなければ大した意味はなさそうだし、種火のほうも、いつ使うのかと聞かれるといささか疑問だ。
まあいいや、変わった魔法でもあるなら、その時に試してみるとしよう。