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ルーラァ  作者: 水遊び
ガキってのは、楽しければいいのさ。(15.07.05改)
5/50

第5話 はしる

 歩くと走るの違いは、両足が地面から離れる瞬間があるか否か、らしいから正確ではないが、トテトテと走れるようになった。

 カーペットに書かれた動物や魔物、壁に張られた家紋だって、毎日見てりゃ嫌でも覚えるし、覚えてしまえば退屈が来る。

 部屋に閉じこもるのはもう飽きた、思いっきり走り回りたい。

「あーっ、あーっ」

 言葉にならない声を上げて入り口のドアをたたくと、こうなるのを待っていたのか、すんなり開けて貰えた。

 もっと早く言えばよかったと後悔するより、ラッキーだと思った方がお得だ。

 勇んで隣の部屋に飛び込んだが、おもわず立ち止まってしまった。

 執務用の机と椅子、応接セットも定番だが、机は側面しか見えないし、応接テーブルも目の高さだ。

 目線が違うと、まったく違う世界に見えて不思議な感覚だが、キョロキョロしていても仕方がない、ともかく走るぜ。


 壁に沿ってトテトテトテ、床の木も硬くていい感じ。

 壁と家具の間が広いぞ、トテトテトテ。部屋中央の家具がまるで島のようだ。 

 白っぽい壁に見えるのは補強用の横桟だな、トテトテトテ。壁の下回りと頭付近の二か所、共に精密な彫刻が施されている。

 応接セットをぐるりと回りながら執務机の方を見やると、壁にサーベルタイガーの絵が見えるトテトテトテ。かっこいい。

 本棚を横目に机の後ろを通れば、これで一周。走りやすくていい部屋だ、気に入った。


 今は、応接テーブルの下、飾り棚に座って休憩中。

 しかし、これが俺の部屋だと思うと嬉しくなる。

 若いころはごちゃごちゃと物が置いてある部屋が良かったが、こういったシンプルルな部屋のほうが落ち着く。

 そして、お気に入りの何かを一つだけ置くんだ。うん、いい感じだ。

 おや? 何気なく握っていたテーブルの足がやけに細い。

 よく見ると縞模様。まさか?

 指ではじくと、コンコンというよりキンキンといった金属音に近い。

 間違いない『トラフ』だ。

 樫の木などの、硬い木の最も硬い中心部分。これを削ると縞模様が浮かび上がる。

 カンナの刃がすぐにナマクラになるほど硬く、加工が難しい。

 これほど細く丸い形にするのは至難の技だ。

 家具の職人も一流とみた。


「ルーラァさま? あれ? どこに行かれたのでしょう? 困りましたね。ルーラァ様?」

 アンが探している。

 わざとなのは分かっているが、なぜか顔がほころぶ。

「ばーっ」

「ああ、ルーラァ様だ」

 笑顔で抱き上げてくる。うーん、おっぱい最高。

 おっと、今日はそれどころじゃない。外へ、廊下に出るんだ。

「あーっ、あーっ」

 身を乗り出すようにしながら、扉に手を向ける。

「廊下も行っちゃいます?」

 おいおい。日本語は、いや、スースキ語は正しく使え。

 言っておくが、その辺は気になちゃったり、しちゃったりするからな。

 うーん。人の事は言えんか。

 おっぱいに未練は残るが下してもらい、扉も開けてもらった。


 何じゃこれは! すげーな。

 廊下はピカピカの大理石。廊下奥の窓から入る光が床に反射して眩しいくらいだ。

 思わず振り返ると、これまたはるか彼方の窓まで輝く道が伸びている。

 幻想的とでもいうべきか、採光と共に、これは計算された設計とみた。

 そうだ、継ぎ目はどうなっている?

 鏡の様に反射しているから目立つはずだが……トテトテトテ、無い。

 トテトテトテ、無い。 無い、無い、無い。

 まさかの1枚板かよ。長さは?

 目線が低すぎて距離感がつかめん。

 部屋数が、ひい、ふう、みい、……十の三間として、五十メートル? 冗談だろ?

 厚みにもよるが十トンは軽く越える。百人でも持てんし、下手に持つと折れる。 言うまでも無いがここは二階だ。

 どうやって運び上げたのかは知らんが、いい仕事してるじゃねえか、たまらんな。

 こんなのを見せられたひにゃ、テンションだって最高潮だぜ。

「あーーーー」

 気合一発、ダッシュで走り出す。

 トテ、トテ、トテ、ドターン。

「びえーん」

「はいはい、ルーラァちゃんはいい子ですね」

 おっぱいが、いや、アンが慰めてくれる。

 痛いのはごめんだが、感動が体を突き動かし、走らずにはおれないぜ。 



 なんとか話せるようにはなったのだが……。

「アンは何がちゅき?」

「アンナはルーラァ様が好きですよ」

「ぼくはアンがちゅき」

 おっぱいギューはいいんだが、これは何とも恥かしい。

 舌を噛みながらスーとかズーとか、アールとかもあってややこしく、発声練習だと思ってはいるんだが……。


「おとーたまは?」

「ブルーノ様はお仕事ですよ」

「ルルーノはおちゅごて?」

「おとーさまと言いましょうね」

「おとーたま?」

「はい、おとーさまはお仕事です」

「おとーたまは、おちゅごて?」

「はい、良く出来ました」

 またまたギューだが、このままではいかん。

 精神衛生上、まことによくない。心が病んでしまう。

 

「お絵かき」

「はい?」

「お絵かきする」

 話題を変える為に、じたばたと駄々をこねてみた。

 絵を書くのは教育上もいい事なんだぞ……たぶん。

「はい、ルーラァ様」

 出てきたのは汚い紙と羽ペン。

 あー、紙が高いんだ。みょうに納得した。 


 とりあえず、バイオリンと、ピアノを描いてみる。

 リラは指で弾くから、弦で弾くバイオリンだ。

 そう言えば、ヨーロッパのバイオリン職人が使う鋸は日本の職人が作った物だとか。

 日本の職人もすごいが、ここの職人ならいい物が出来るはずだ。

 ピアノは婆さんが得意だったし、ぜひ作ってほしい。

 黒い鍵盤は三つと二つがセットだったはず。

 鍵盤の数は……、両手を広げたより広い。

 何に使うのかは知らんが、足で踏むペダルもあった。

 鍵盤とつながった棒で、弦をたたく。こんなもんかい。

 絵を指差しながらこんな話をしていたら、またしても馬鹿夫婦の乱入だ。


「ルーラァちゃんは天才なんですから、ねー」

「そうだな、ルーラァは天才だ」

 嵐のようにやって来て、苦しくなるほど抱きしめて、チューして、紙だけ持ってあわただしく帰っていく。

「はー」

 まったく、今書いたばかりだというのにため息しか出ん。

 そんな俺にアンは優しく話しかけた。

「おとーさまは、近衛城兵という騎士様なんですよ」

「このえ?」

「はい、近衛城兵です」

 おいおい、城兵っていうのは悪者に真っ先に殺されて、名前も出てこない雑魚じゃなかったか? なんとも残念な職業に就いているもんだ。

「近衛兵は強いですよ」

「ふーん」

「近衛城兵はお王様を守るからもっと強いですよ」

「おとーたまは?」

「はい、とってもお強いです、ルーラァ様も近衛城兵のなりましょうね」

「うん、このうじょふーになる」

「はい、ルーラァ様は偉いですね」

 またまたギュー、いっつもこれだ。まあ、嬉しいからいいんだが。


 アンはほめてばかりだから今一つ信憑性に欠けるが、王様を守るから強いというのは納得できる話ではある。

 問題なのは、そりゃ近衛城兵が悪いとは言わんが、人を守ってどうするって話だ。

 しかも、守るのはおそらくあのピエロ王子だ。なんだかなー。

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