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ルーラァ  作者: 水遊び
近衛城兵
49/50

お芝居、その4

 ナイトールの馬鹿と叫びたい。

 知らぬこととはいえ、王様の前で暗殺が専門だなどと……。 

 せっかくうまくいっていたのに、これをどうしろというんだ、全く。

 サンドストームは黙ってしまった俺の顔色をうかがっているし、チェリーなどあきれ顔だぞ。

 え? 待て、あきれてすむ事か? ここは軽蔑のまなざしだろう。

 え? 違うのか?

 え? もしかして、俺が違っているのか?


「兄貴?」

「待て」

 ナイトールが心配そうに問いかけてくるが、遮る。 これは……どういうことだ?

 うーん。

『何を悩んでいるの?』

 おう、ユニコーンか、助かった。 教えてくれ?

『何を?』

 いや、だから、暗殺はいけない事だろ?

『ええ、そうね』

 暗殺をする奴は、おそれられるか軽蔑されるだろ?

『ええ、そうね』

 だろ? なのに、なんでチェリーは平気なんだ?

『平気そうには見えないけど』

 そうかなあ?

『何が疑問なのか分からないけど、平和を守るためなら暗殺者にだってなると言ったのはルーラァの方でしょう?』

 ええー? 俺、そんなこと言ったか?

『言ったわよ。 あの作戦は誰がどう見たって卑怯な戦い方よ』

 そりゃ認めるけど、あーっ、もしかして、もしかすると、暗殺も卑怯な事なのか?

『普通、そうでしょう』

 いやいや、それで済む事かってことだ?

『他にどうなるっていうの?』

 あーっ、なるほど。 つまり、俺の戦術も暗殺も卑怯な事で、同じなんだな。

 そうか、そういう事か、やっと分かった。

『ルーラァ?』

 あん?

『侯爵に頭殴られておかしくなった?』

 ははは、大丈夫だ……たぶん。

 俺にとっては普通の戦術も、こいつらにとっては、俺が暗殺者になると言ったのと同じだったんだ。

 だからあれほど、いいのかと念を押したのか?

 まったく、世間知らずが思わぬところで出たもんだな。

 あっ、王様も聞いていたんだった。

 あの貫禄なら、清濁併せ飲むくらいはするだろうが、こりゃ、決定的に評価を下げたな。

 まあいい。 済んだ事はしょうがない。 完璧なんてはなから期待しちゃいない。

 テストでも赤点取らなきゃいいだけだ、いや、追試で受かれば、いや、課題を出せばいいだけだ。

 そうそう、こいつらを助けられた事でいいとしよう。

 それにしても、これじゃ騎士に命令したとしても実行は難しそうだな。

 やはり、こいつらと戦うしかないか。

 うん。 それもまあ、後で考えるとしよう。

 当面これをどうするかな、っと。


「ナイトール」

「はっ」

「お前の技を活かす方法を考えていたんだが、その前に質問だ」

「はい」

 黙っていた理由は付けておかないとな。

「テネス侯爵様を暗殺できるか?」

「はい。 自然死に見せかけるなら時間はいりますが、やるだけなら今日明日中にでも。 やりますか?」

「いや、やらない。 というか、やるな。 今死なれてはカメリアが攻めてくる」

「はっ」

 そう、がっかりした顔をするな。 こいつアブナイ奴だな。

 しかし、王が見ている前で暗殺の話たあ、綱渡りもいいとこだ。

「お前達はテネス侯爵様を敵視していたはずだ。 しかも暗殺できると言う。 殺さない理由は何だ?」

「そりゃあ、きりがないからです」

「きりがない?」

「はい。 殺したところで、次の侯爵が立つだけ、何も変わりません。 我々は、感情に任せて人を殺すような無法者とは違います。 無駄な殺生も、無益な殺生もしません」

 胸を張って答えるナイトールが、かっこいい事を言った。

 いやいや、感心していちゃ駄目だ。

「そうか。 うーん、例えばだが、カメリアが攻めてくるとして、その途中に、そのカメリアの王が死んだらどうなる?」

「そりゃあ、戦争どころじゃなくなり――いや、無理っすよ。 王の暗殺は、それも他国の王は無理です」

「そうか。 じゃ、有力貴族たちはどうだ? どこにも勢力争いがある筈だ。 その一方にだけ死人が続出すれば、疑心暗鬼を生み、国内が乱れると思うが?」

「それも無理っす。 そもそもカメリアに手下はいません。 勢力争いどころか、貴族の名前すらろくに分かりませんよ」

「ふーん。 では、同じ質問をチェリー」

「はい。 まず、カメリアに支店を作ります。 大きな商いとなりますので、カメリアの有力商人と渡りを付けます。 こちらには、ルーラァ印の新製品がございますので、うまくいくでしょう」

「ちょっと待てよ」

 お、ナイトールの異議申し立てだな。

「有力商人のコネで王に面会し、そこで殺しちまおうって事なんだろうが、スースキの商人がカメリアの王を殺したら、それこそ戦争だぞ」

 おお、まともなご意見だ、どうする?

「殺すなんて、誰がそんな野蛮な事をすると言いました。  私は商人ですよ」

「じゃ、どうすんだよ?」

「3種類の毒草を使います」

「何だ、同じじゃねえか」

「いいえ。 毒草というのは、見る者が見ればわかります。 当然、料理人もね」

「発見されたんじゃ、意味ねえだろが」

「これは、見つけてもらう為の毒草です」

「どういう意味だ?」

 ナイトールの質問に対し、こちらに目線を送るチェリーはかわいい。

「なるほど、一つだけならそれだけだと思えるが、三つも有るとなれば、他にもあるのではないかと疑心暗鬼になる、か」

「はい。 食材はすべて廃棄、疑わしい業者は出入り禁止となるでしょう。 そこで、最後に登場するのが、パンにすると下痢を引き起こす毒草の粉です」

「こりゃいい。 備蓄してある小麦全てが廃棄されるか」

「はい。 そして、城に備蓄してある大量の小麦を廃棄すれば……」

「なるほど、戦争どころではないな」

「はい」

 ナイトールは何か文句を言いたそうだったが、その前に俺が認めたため黙った。

 感情論になられても困るし、いいタイミングだ。

「ところでナイトール」

「はい」

「何かをやろうとした時、嫌な予感がした事はないか?」

「ええ、ありやす。 それを無視するとろくなことがないんでさ。 そんな時は黙って引くのが一番です」

「今回も同じことだろう。 直感的に駄目だと思った。 経験や勘が加わるからもっと確かな事だと思うぞ」

「しかし」

「まあ、待て」

 ここはこいつの顔も立ててやらんと収まらないだろうな。

「今回の戦争は止めようがない。 周りの状況がそうなっているからな。 濁流に逆らうのは、労多くして益少なしだ。 それより、次の戦いの準備をしてくれ」

「次、でございますか?」

「ああ、おそらく20年後くらいだな」

 3人が顔を見合わせたが、まあ、無理もないだろう。

「今回、多くの浮浪者が集まり、それだけで兵の数が増えた。 アイスラー爺さんの知恵だが、これを国王陛下が見逃すと思うか?」

「なるほど。 今は一人でも兵が欲しい時ですから」

「そうだ。 そして、その状況は今回の戦争後も変わらない。 ライズを植えるだけで、治安も良くなるし飢える者も減る。 そして、生活が安定すれば子が増える。 最初の子は一二歳で成人し、兵の数はうなぎのぼりに増えてゆく。 ここに、最強の海軍と騎馬隊が加われば」

「大陸一の兵が出来上がる」

 サンドストームが、茫然とした顔で答える。

「そうだ。 その時国王陛下がどう御決断なされるかは分からない。 しかし、大陸を統一して、平和な世を作る。 俺はそう言われるとみている」

「じゃ、じゃ、その時の為の準備をしろと、いうことですね?」

「そうだ。 今からなら、万全の準備が出来るだろ?」

「へい。 お任せください、兄貴」

 満面の笑みをたたえたナイトール、単純な奴だが、こいつならやってくれるだろう。

「チェリー」

「はい」

「今回の提案は魅力的だが、それだけでは弱い。 次の為に残しておけ」

「はい、お兄様」

 チェリーは笑顔がいい。

「サンドストーム」

「はっ」

「近いうちに始まるであろう此度の戦い、万一負ければ次は無い。 やるべきことを見定めて準備を怠るな」

「はっ」

「アイスラーに行く時にはチェリーの所の視察をおこなう。 その時には族長を集めておけ」

「はっ」

 さてと、今度こそいいかな。

 王様へのアピールも出来ただろう。

「その時には、掃除をしている二人も連れて来てやれ」

「御存じでございましたか」

「気が付かないとでも思ったのか?」

「恐れ入りました」

 これでいい。

 今はいいだろうが、時間がたつと俺を子供だと思って侮る気持ちが出てくるからな。

 最後の最後に、俺は何でもお見通しだぞと、脅しておく。

 こいつが効くんだよな。

 へへへ、俺も悪よのう。ってか。


 バーン!

 勢いよく扉が開いた。

 気を抜いていたため驚きはしたが、立ち上がりざま、机に両手を置き飛び越える。 若いっていいねえ。

 三人を守る位置につこうとするより早く、目の前に壁が出来た。

 サンドストームとナイトールが前に並び、チェリーが正面から抱き付く。

 頭一つの身長差だが、母親が子供を抱いてかばうような格好で、頭を抱えて胸に押し付ける。

 谷間に顔をうずめ、幸せのあまり息が止まる。

 じゃなくて、息が出来ん。

「うーっ」

 うなり声を上げ、背中をたたく。

 ようやく締め付けがゆるみ、名残惜しいが体を引きはがそうとすると、大きな声が響いた。

「失礼」

 聞き覚えのある声は父ブルーノで、ドカドカとブルーノ隊も乱入してくる。

 くそー、見通しがあまかったか。

 おそらく、こいつらは俺のとった行動が異常だと判断したんだろう。

 御家の一大事で家に帰ったブルーノに連絡し、判断を仰いだ。

 優秀なのはいいが、騙されておけよな、まったく。

「何事だ? ここはドーマ侯爵様の部屋、失礼であろう!」

 ブルーノに負けじと大きな声を張り上げるが、子供の声、貫禄が無くて泣けてくる。

「ほう、こいつらがレイダーの弟子か? それにしては見覚えがねえのはどういうわけだ? ひっとらえろ!」

 聞いちゃいねえ。

「ふざけんじゃねえぞ! こら!」

 乱暴な言葉で配下の動きを止め、ブルーノを睨みつける。

 親子喧嘩か、こりゃあおもしれえ。

「構わん、やれ」

 くそー、格が違う。 こうなったら、シールド。

 ゴンゴンゴン。

 部屋の中央に張り巡らせた見えない壁が音を立てる。

「ルーラァ!」

 ふん、ブルーノ隊なら仲間、シールドだけなら見せてもいいだろう。 フォローはブルーノまかせだが。

「ドーマ侯爵様気付け、専属城兵隊長ルーラァ・アイスラーが物申す」

 一人しかいなかろうが、見習い城兵だろうがかまやしねえ。 はったりも手のうち、言ったもん勝ちだ。

「やかましいわ! そのドーマ侯爵様はどこに行かれた?」

 ありゃ、効かない?

 金もいらぬ、名もいらぬ。 あたしゃ、も少し背が欲しい。

 なんて、言ってる場合じゃねえな。

「この者達は、俺の私兵にして、侯爵様の客人である! 部外者の分際で、手出しは無用にねがおう!」

「ふざけるなー!」

 ブルーノが愛用の短剣でシールドに切りかかる。

 ガキーン。

 ありゃー、短剣折れた。

 長剣ならともかく、短剣が折れるなんて、シールドもブルーノも強いな。 うん、感心、感心。

「侯爵様の部屋で抜刀とは、短慮な事だ。 そのような者が専属城兵隊長とは、陛下も嘆いておられる事だろうよ」

「ルーラァ!」

 おおお、こわーっ。

 ブルーノにらみ過ぎ、顔怖いぞ。

「ともかく、これでは話も出来ん! 隊長以外は退室ねがおう!」

 にらみ合いなら負けやしねえが、ここらが落としどころだろう。

 ブルーノが顎をしゃくると、隊員たちはすごすごと引き上げてゆく。

 副隊長のなんとかって奴が、自分の短剣をブルーノに渡し、折れた剣と鞘を持って出て行った。

「話の途中だ。 しばらく待って頂こう」

 そう告げると、ブルーノは返事もしないで腕を組んだ。


リアルが忙しくなってきたため、次話は4月の予定です。m(_ _)m

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