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ルーラァ  作者: 水遊び
近衛城兵
46/50

お芝居、その1

 出演者は、長老サンド・ストームと、闇の魔術師ナイトールに商人チェリー。

 観客は、国王陛下とスラガ・ドーマ侯爵の爺さん。

 冒頭から激しくいくのもあるが、スースキ王国のむかしばなしで幕を上げるとしよう。


「むかしむかし、1000年の昔、たくさんの国が戦争をしていました。 それを可哀そうだと思った神の使いユニコーンは、初代国王陛下に平和な世を作るように命じました。 国王陛下は、ユニコーンの森を聖地と定めて城を築きました。 そして、魔導師様と共に全ての敵を倒し、この世に平和をもたらしたのでした」

 腕を組み、ぼんやりと天井を眺めながら独り言のように話し出す。

 無論3人の視線は感じるし、その表情は見なくとも分かる。

 話の裏を読もうとする長老、何を言い出すのかといぶかしげな表情のナイトール、何が始まるのかと期待顔のチェリー。

 誰もが知っている話とはいえ、おそらくお客の2人も聞き耳を立てている事だろう。


「古代語に魔導師様の文字が刻まれていた。 その1つは、『我は平和を望むなり。 されど、我は武の人なり』というものだ」

 ここで少し間を置くのが親切というもんだ。

「魔導師様の力は強力で、敵を倒すなどわけもない。 しかし、それだけでは平和は訪れない。 国をまとめ、平和を維持しなければならないからだ。 この言葉の真意は、国王陛下に魔導師様が必要だったように、魔導師様にも国王陛下が必要だったという意味だ」

 なるほどとうなずくのは気配で分かる。

 誰かは分からないが、今はいい。

「そして、太平の世が訪れた。 幸いと言っては失礼だが、魔導師様にも好きな女性が出来た。 黒目黒髪の女性で、彼女は2人の子を産んだ」

 チェリーが喜んでいる気がする。

「しかし、魔導師様はこの子たちが平和を乱す芽となりうることに気が付いた。 気が付いてしまったと言った方がいいかもしれない。 魔導師様が結婚をしなかったのもそのためだ。 そして、2つ目の言葉だ。『我が子よ、千尋の谷より這い出よ』 この言葉と共に、魔導師様はわが子を魔物の巣窟と、灼熱の砂漠に送られたのだ」

 話の方向が変わって、雰囲気も変わった。

 息をのむ3人。

 魔物の巣窟とはアイスラー領だろうし、灼熱の砂漠は言わずもがなだ。

 顔を見合わせ、いや、まさか、しかし、そんな会話が目で交わされている事だろう。

 魔導師様が何故そんな事をしたのか、今それは問題ではない。

 自分達が魔導師様の子孫であるという事。 それをこの俺が言った事が問題だ。

「お前達の想像通りだ。 アイスラー家も砂漠の民も、共に魔導師様の子孫だ。 部族全員が魔法が使えるお前達、魔導師様に匹敵する魔力を持つ俺、それが何よりの証拠だろう」

 3人の目が俺に集まる。 おそらく観客の目も。

 目線を下げて3人に合わせると、戸惑いの表情が喜びに変わってゆくのが分かる。

「長老?」

「長老様?」

 2人が喜びを長老に当て、彼がうなずく事で弾けた。

 ナイトールは両手で長老の手を握り感動に震えているし、チェリーなど抱き付いている。

 ウンウンとうなずく長老の目には涙さえ浮かんでいる。

 魔力を持つ唯一の部族、彼等は魔導師の子孫だと思いたかったはずだ。

 しかし、使える魔法は飲み水を出す程度。

 違うかもしれないと思っているのも彼ら自身だ。

 国王を水の矢で狙ったのも、攻撃魔法が使えることを証明したかったのかもしれない。

 そんなさなかに、俺の新解釈の登場だ。

 これからはおおっぴらに魔導師の子孫だと名乗れる。

 その喜びは、今まで虐げられていただけに大きい物があるのだろう。

「魔導師様はアイスラーから魔力を奪った。 ただの人として魔物と戦えという事だ。 お前達も、最低限水が飲める魔力しかない。 まったく、魔導師様は我が子に厳しすぎる。 そうは思わないか?」

 まあ、そう言われても困るだろうが、観客の王様が聞いているんでサービスだ。

 それに、せっかくのチャンスだ、ちょいと宣伝させてもらう。

「アイスラーの民は魔物を恐れない。 国王陛下への忠義を忘れない。 魔力が無ければわが命をもって補う。 200年前の内乱でアイスラーの民は女子供まで剣を握った。 昨年の大戦では次期領主まで死んだ。 この精神は魔導師様の平和を志す心から来ている。 平和な世を作る為には国王陛下が必要だからだ」

 200年前に男爵、昨年に伯爵になった事は言わなくてもいいだろう。

「いまさ」

 意識的に口調を変える。

「我が国、スースキ王国の戦力は他の2国と比べて最低なんだよな。 今攻め込まれたら最後だというくらいに」

 世間話のように話すが、王様が身を乗り出していそうだな。

「だから、俺はルーラシップを作った、これで世界1の海軍が出来る。 鐙というのもだ、世界1の騎士団になる。 量が足りないなら質でいく作戦だな。 わかるか? 俺は魔法など使っていないし、子供でもある。 それでも、平和をめざす手伝いくらいは出来るんだ」

 まあ、入隊以来暴れている事は棚に上げておこう。

「ドーマ侯爵様もすごいぞ。 俺みたいな子供の言う事を聞く。 相手がだれであれ、国の為、国王陛下の為なら何でもする。 それが、あのお方の忠義だと思う」

 爺さーん、聞いてるよな。 ちゃんと言ったんだから、後で褒めろよ。 いや、爺さんに褒められても気色悪いか。


 ここで間を置く。

 話の流れが変わったぞ。

 暗に言いたかった事は伝わったか?

 その時お前達は何をしていたのか? そう言ったんだぞ。

 3人の表情が喜びから戸惑いに変わるのを待つ。

「しかしながら」

 お、ナイトールの反論か?

 人はそれを無謀というんだがな。

「なんだ?」

「我らの力は砂漠でしか発揮できません。 陸に上がれば戦力は大幅に下がります」

「なるほどな」

 おいおい、今街道を襲撃している事は棚上げか?

 まあいい、聞いてやろう。

「我々は参戦しなかったのではなく、出来なかったのです」

「そうか」

「はい……」

 おい、終わりかい! 突っ込み入れるぞ。 まあ、いいけどな。

 チェリーも顔を伏せているが、意外に族長は元気そうだな。

「魔導師様」

「うん?」

「我等とて平和を望んでおります」

「だろうな」

 さすが族長、このままではすまないか。

「しかしながら、領地を奪われてはそれもままなりません。 それだけは、長老として許すわけにはまいりませぬ」

「なるほど、それはもっともな言い分だ。 つまり、200年前、領地を奪った国王陛下に過ちあり、という事だな」

「御意にございます」

 たしかに、もっともな意見ではあるんだがな。

「あのさ、あの内戦は特別だったと思うんだよな」

「特別、でございますか?」

「うん。 だってさ、あれからだろ争いが起こるようになったのは。 3つの国に分かれたから戦が始まった。 つまり、初代の国王陛下と魔導師様が作り上げた平和が壊れてしまったんだ」

「……」

 200年も前のことを言われても困るだろうが、言わせてもらおう。

「あれは、平和を守る戦いだった。 勿論、陸に上がったお前達の戦力では結果は変わらなかったかもしれない。 しかし、アイスラーの女子供よりはましだろう? そして、もしかしたら……、そう思ってしまうのも仕方がないと思わないか? 結果じゃないんだよ。 平和を守る戦いに参加しなかった、それが問題なんだ」

「……」

 止めを刺させてもらうぞ。

「魔導師の子孫を名乗る資格なし。 当時の国王陛下がそう断じたんだ」

「……」

 がっくりと手をつく長老。

 上げておいて落としたからショックが大きいかな。

 しかし、観客がいるからもう少しやるぜ。

「本来ならば、己の過ちに気付き悔い改めるべきだったが、そうはしなかった。 昨年の戦争は絶好の機会だったが、それにも参加していない。 それどころか、国王陛下が間違っていると考えている。 それは長老のお前だけじゃない。 族長も、その配下もだ。 そして、馬鹿な誰かが、国王陛下に矢を放った」

「……」

「お前の首1つで事が収まると思うか? ましてや、サンドールの首など論外だろ?」

「……」

 沈黙以外なすすべのなくなった3人。

 きついのは承知の上だが、これが無いと先には進めないしな。


 ともかく、何とかここまで来た。

 ユニコーン?

『なあに?』

 観客の様子はどうだ?

『腕組みをして、うーんとか言ってるだけね』

 それだけじゃ良いか悪いか分からんが、まあ、そんなもんか。

『ねえ、実際の歴史と違うけど、いいの?』

 ああ、過去の事はどうでもいい。

 歴史なんてのは、時の権力者が勝手に作るものなんだ。 王様が神様の子孫だと言わないだけましってもんだよ。

『そういうものなの?』

 そういうもんだ。 元々作り話だし、大事なのはこれからだからな。

『ふーん』

 お、チェリーが顔を上げた。

 女は強しか、はたまたチェリーだからか。

 このまま見捨てるはずがないと思っているんだろう。

 正解だ。

 ちょいと話を振ってやるか。

「俺もな、お前達が兄弟分だと知った時は驚いたもんだ」

「ルーラァ様?」

「うん?」

「その、ルーラァ様は、こんな私達を兄妹と呼んで下さるのでしょうか?」

 さすがにチェリーだ、食い付きがいい。 驚いたような表情のすぐ後に、すがるような瞳、上目遣いのおねだりが似合うやつだ。

「正確には遠い筋だが、俺には魔導師様が第2の父親に思えるからな。 必然的に、チェリーはかわいい妹かな?」

「では、では、ルーラァお兄様とお呼びしても?」

 こらえようとしているのだが、顔の筋肉が崩れる。

「ははははは、チェリーはずるいな」

「どうしてでございますか?」

「だってさ、チェリーみたいな素敵な女性にそう言われたら、助けてやりたくなるじゃないか」

「あら、助けて下さらないおつもりだったのでございますか?」

 少しすねたような良い方は、演技と分かっていても嬉しい。

「なんだ、助けて欲しいのか?」

「それはもう」

「では、そうしよう」

「ありがとうございます、お兄様」

 良い妹が出来たもんだ。

 笑顔よしで、優秀なのがさらにいい。

「あ、あの、ルーラァお兄様?」

「ちょっと待て!」

 せっかくいい気分だったのに、ナイトールが邪魔をしに来た。

「お前が言うな。 お前に言われると、グーで殴りたくなる」

「そんな」

「そんなもこんなもあるか!」

 まったく、泣きそうな顔も、おねだりも気色悪い。

「では、何とお呼びすれば?」

 上目使いをするなー!

「あ、兄貴。 そう、兄貴と呼べ」

「はい。 兄貴、良い響きっす」

 はーっ、こんな不細工な弟はいらん。

 おい、長老まで訴えるような目をするな。

「長老は、兄者と呼べ」

「兄者、でございますか?」

「ああ、それがいい」

「どういう違いがあるのかお聞きしても?」

「違いなどあるか。 気分の問題だ」

「かしこまりました兄者」

 うーん、なんかすっきりしない。

 だがまあ、人生なんて妥協の連続みたいなもんだし、あきらめが肝心か。


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