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ルーラァ  作者: 水遊び
近衛城兵
42/50

巡回

 ユニコーンが消え、あたりは再び闇に包まれた。

 しかし、足元にはレッドカーペットならぬ光のカーペットが伸び、頭上には満天の星空が広がっている。

 野暮な電気が無いから、夜空を埋め尽くさんばかりの星々があちこちで瞬いている。

 いいねえ、銀河鉄道にでも乗っている気分だ。

 横に座るのは、もちろん女の子。

 星降る夜に感動してくれる子がいいな。

 騒がしいのは駄目だ。

 そうだな、「きれい」その一言だけでいい。

 そして、闇におびえたように俺の袖をそっとつかむ。

 その手は俺の後、腰を回すように導くのがポイントだ。

 俺の手は彼女の肩にまわし、やさしく引き寄せる。

 驚きながらも、はにかむように見上げる頬に紅がさす。

 見つめ合う瞳の中に星々が瞬く、そして……。

 こらーっ!

 婆さん、しわくちゃ顔で出てくんな。

 せっかく若返ったんだから、どうせなら姫さんの顔で出てこいよ。

 せっかくいいところだったのに、まったくー。


 おっと、前方に光発見。

 しゃーない、真面目にお仕事しますか。

 あれが終着駅だと思うが、光のカーペットはここまでか。

 あ、消えた。

 道の光も無く、再びまっくらけ。 どうしたものか、ふむ。

 もう少し前かな。 おっ、左手方向に篝火発見。

 あれが裏門だろうから、城の北側に出たんだな。

 前方の光、今度は大きくならんが距離がある。

 北の塔あたりか、戻るかもしれない姫の見張り、そんなとこだな。

 さてと、暗闇の中をどうやって近づこうかな、と。

 ファイアーボールは目立つしな。

「暗視」「ナイトスコープ」「赤外線スコープ」

 うむ、こんな魔法はないのか。

 そう言えば、赤外線スコープはダムの現場で使ったな。 100万もしたが良く見えた。

『ネコ目はどうですか?』

 おわっ、びっくりした。

 いきなりで驚いたぞ。 って、ネコ目?

『ええ、武の人は使っていましたから、使える筈ですよ』

 そっか、ありがとな。

「ネコ目」

 おおお、明るいじゃないか。

 真昼とまではいかないが、たそがれ時って感じだ。 ロマンチックだねえ。

 まてよ、俺の目がネコ目になったら気色悪いな。

「解除」

 よしよし、暗くなった。

「ネコ目」

 さてと、とっちめに行きますか。

 木の枝にのっかってる感じだな。

 この辺りの下草は刈ってあるけど、森の中であることには変わりない。 気が付く奴はいないんだろうな。

「おい、下りて来い」

「……」

「いつまでも隠れているなら、木ごと燃やしちまうぞ」

 光が枝の折れる音と共に下りてきて、最後にドスンという。

「なにやってんだ?」

「……」

 思わず口をついて出たが、返事がない。

 幹の横から光る体が這い出てきた。

 小柄だが、若くはないな。

 近づくと、胡坐をかき、両手は膝、綺麗な礼は武士を思わせる。

 言葉を待つが、顔を伏せたまま無言だ。

「焼け死ぬのと、凍らされて死ぬのと、どっちがいい?」

「魔導師様」

「なんだ?」

「今の光は、その、魔導師様ともう1つ光が」

「ああ、お前達には見えるんだったな。 ユニコーンだ」

「やはり、魔導師様は魔導師様でございましたか」

「なんだ、そりゃ?」

「魔導師様、長老が近くまで参っております。 御足労を願えませんでしょうか?」

 ようやく話したが、言葉に貫録がある。 光り方からしても族長クラスだろう。

 だが、名前を名乗っていない。

 話ぶりからすると、わざと言ってないな。 

 ガキだと思って舐めてるなら、それなりに対応させてもらおう。

「サンドールの不始末を、長老の首1つで済ますか。 仕方あるまい、それで許してやろう」

「お、お待ちください」

「うん?」

「あれはサンドールの独断、長老に罪はございません」

「ふーん、そうだったのか」

「はい。 ですからどうか」

「なら、帰って長老に伝えろ。 俺の邪魔をする者、名前すら名乗らぬ者、配下の責任も取らぬ者、俺を呼びつける事をあたりまえだとするその心根、そんな民など味方にいらん、とな」

「お、お待ちください」

「俺は、帰って長老に伝えろと命じた。 もう1度言わせるつもりか?」

「も、申し訳ございません」

 一切の反論を許さず、踵を返す。

 背を見せるのは怖くもあるが、ここは恰好を付ける。

 まあ、仕事と同じだな。

 相手に仕事を押し付け、こっちは何もしなくていい状況で終わる。 これがうまいやり方だ。

 ともかく、これで終了。 戻るとするか。


 おっと、また光だが、何じゃあれは?

 聖火リレーか? 松明持って走っとる。

 まさか、あれで見回りのつもりじゃないだろうな?

 あれじゃあ、闇に隠れている者など見えんだろうに。

 あ、転んだ。

 お、立ち上がった。

 競争でもしているのか? いや、1人だしな。

 見た感じ近衛兵のようだが、ちょうど出会いそうだ。

 どこまで来たら気が付くか、ちょいと見てやるか。

 なんだ?

 兜を目深にかぶって、下を向いて走ってる。 とてもじゃないが、見回りとは言えんぞ。

 さあ来た。

 3.2.1.0、目の前を通過中。

 気が付かんのかい!

「おい」

「ひっ、で、で、で」

「で?」

「でた~~」

「お、おい」

 背中から声をかけたのが悪かったのか、立ち止まったと思ったのに、一目散に逃げ出しちゃったよ。

 顔は伏せていたし、若い奴だとしか分からなかったが、あんなんで警備の方は大丈夫なのか?

 まあ、俺の知ったこっちゃないか。

 それにしても、ネコ目は便利だな。

 真の暗闇では見えないんだろうが、月明かりでも十分だし、遠くの篝火でも昼間のごとく明るいんだからな。

 左手にそびえる城も、右手のアイスラー管轄の森も良く見える。

 あ、そうだ。

 えっと、あ、ユニコーン?

『なんでしょう?』

 聞きたい事の前に聞きたいんだが。

『はい』

 名前を付ける時の参考にしたいんだが、お前は雌でいいんだよな?

『ユニコーンに性別はありません』

 えええ? オカマかよ。

 まいったな。 こりゃあお手上げだ、婆さんに任すわ。

『なんだか、すごく馬鹿にしていますね』

 そ、そんなこと無いって……多分。

『もう結構です。 で、質問は何ですか?』

 あ、ああ、第1城壁内に隠れている奴が、何所にどれだけいるか分かるか?

『分かります』

 まだ怒っとる。

 テレパシーってのは、こういう時つらいな。

 悪かった。 もう言わないから、すまんが教えてくれ。

『月の庵に5人、城の中に2人、ですね』

 城の中だと、どこだ?

『前方、裏門手前の通用口、入ってすぐの部屋にいますね』

 もう怒ってないとは、ある意味凄いな。

 ともかく、すまなかった。 ありがとうよ。

 ふーっ、口は災いのかど、舌は災いの根、か。 気を付けよう。

 月の庵にいるのは砂漠の民だろうな。

 アイスラー管轄なのに、ずうずうしいと言うか、ふざけた奴らだ。

 それより、問題は城の中にいる奴だな。

 裏門横の通用口は、入れば女官たちの仕事場だし、その上が女官長の部屋だ。

 隠し扉から隠し通路で、城の奥棟まで行ける。

 そこまでは知らないと思うが、放っておくわけにはいかんな。

 戦時令直後のどさくさに紛れ込んだか、舐めた真似をしてくれる。

『ルーラァ』

 うん?

『近衛兵が大勢来ますよ』

 ああほんとだ、なんかあったのかな?

『……』

 どうした?

『目的は貴方ですよ』

 俺? なんで?

『この闇に1人。 十分、不審者です』

 なるほどな。

『感心している場合ですか。 すぐに隠れて』

 馬鹿言え。 やましい事など何もない、隠れるなぞまっぴらだ。

『それが通じる相手ですか』

 味方だぞ、心配ないって。

 それに、両手にガントレットしているだろ。

 この闇もある、シールドもある、近衛兵なら100が200でも大丈夫だよ。

 俺を見ているのが楽しみなんだろう。 だったら、黙って見てろって。

『知りませんよ』

 ああ、心配してくれてありがとな。

 おお、松明がいっぱい来るな。 後からまだ来るか。

 100は下らんと思うが、こんなに来て城正面の守りは大丈夫なんだろうな。 俺がおとりの可能性もあるんだぞ。

 それに、後ろから来てどうするよ。 回り込んで挟み撃ちが常識だろうに、大丈夫かこいつら。

 ほーっ、先頭の奴はかなり早いな。

 右手に剣で左手に松明、脚力だけでそのスピードは大したもんだ。

 とりあえず、ネコ目は解除しておいて、戦闘になったらかけ直すか。

「いたぞ。 こっちだ」

 はいはい、いますよ。

 なんだ、ずいぶん手前で止まったぞ。

「囲め。 逃がすな」

 そんなにあわてなくても、逃げねえよ。

 続々と後続が追い付いてくる。

 それにしても、かなり遠巻きに囲われたもんだが、どういうことだ?

 ははーん、さてはさっきの奴だな。

 魔物が出たとかなんとか、適当に言ったに違いない。

 こりゃ、面白くなってきた。

 大声を上げながら松明を持っている奴を襲い、松明を叩き落としてそのまま闇に隠れる。

 近衛城兵の服は黒一色だし、闇からいきなり現れたら対応できんだろう。

 剣は抜けないが、喧嘩空手の真骨頂、乱取り組手をご披露するかな。

 その前に、石を投げてやるのもおもしろそうだ。

「周囲の警戒も怠るな」

 そうそう、怠っちゃだめよ。

 松明持っているから、どうせ見えないだろうけどね。

 ずらりと剣を向けちゃって、何本あるんだ?

 ひい、ふう、みい、数えるのがバカバカしいくらいだな。

 どんな馬鹿がいるのか分からんし、とりあえず、シールドだけはかけておくか。

「近衛城兵の服だが、名前と所属を言え」

 ほーっ、一歩踏み出したこいつが指揮官か。

 傷だらけの兜に鎧、鼻はひん曲がっているし、顎の形もおかしいぞ。

 歴戦の戦士、指揮官というより鬼軍曹といった感じだな。

 一言でいうなら、ぶおとこ。 うん、ぴったりだ。

「聞こえんのか!」

「うっせえなあ、聞こえてるよ。 近衛城兵見習い、ドーマ侯爵専属、ルーラァ・アイスラーだ」

 おいおい、剣先が動いたぞ。

 この程度で動揺してどうする。 俺が敵だったら、その隙は致命傷だぞ。

 俺が有名なのか、こいつがただのぶおとこなのか。

 うーん、ぶおとこに1票。

「ビリー・アイスラー、来い!」

「はっ」

 なんだ、ビリーがいるのか?

 となると、組手はお預けか。

 中隊相手にどこまで戦えるか、ちょいと試してみたかったんだがな。

 いざとなりゃ闇に隠れればいいし、絶好の喧嘩日和なのに、もったいない話だ。

 近衛兵達をかき分ける真新しい鎧が見えた。

「ルーラァ?」

「いよう、兄上。 お元気そうで何よりです」

 驚くビリーに笑顔で応える。

「間違いないか?」

「はっ、間違いございません」

 隊長ときびきびと言葉を交わして、かっこいいぞ。

 こっちに向かって来る、シールドは解除だな。

「お前、こんな所で何やってんだ?」

「何って、巡廻だけど」

 お、チラチラと隊長の方を見ながら話しかけてくる。

 これが、空気を読むという事か、やるな。

「松明もなしでか?」

「松明なんか持っていたら、闇に潜んでいる奴が見えないだろ」

「馬鹿言え、足元も見えないだろうが」

「こんだけ星明りがあれば十分だ」

「うそだろう?」

 ははは、間抜けな顔してら。

「ほんとだって。 さっきも、松明持って走っている馬鹿がいたが、俺の目の前を通り過ぎても気が付かなかったぞ。 声をかけたら、女みたいに悲鳴を上げて逃げていったけどな」

「ば、ばか」

 ビリーがいきなり抱き付いて来てちょっと焦る。

「あれ、俺」

「え?」

 ビリーが耳元でささやく。

「だから、俺なんだって」

「うそだろー?」

「しーっ」

 思わず大きな声が出たが、ビリーが必死に止める。

 しかし、まさか。

 いやいや、そんなことより、こりゃまずいな。 ビリーの面目丸つぶれだ。

 ビリーは周りを気にしてキョロキョロしているし、今更取り繕うにも、無理があるよな。 うーん。

 よし、こうなったら、これがどうでもいいほどの話題を振るか。

「ああ、忘れてた。 さっき王様に言われたんだけどな」

「陛下と言え。 お会いしたのか?」

「ドーマの爺さんは奥大臣だから、しょっちゅうな」

「ドーマ侯爵様と言え。 ともかく、言葉使いには十分気を付けろ。 いいな」

「お、おう。 で、その陛下がな、第1王女を嫁にやるってさ」

「えええええええ」

 ははは、やっぱり間抜け面だ、おもしれえ。

「ははは、お先に嫁さんもらうわ」

「ちょ、ちょっと待て。 いつの話だ?」

「昼ごろかな。 あ、そう言えば飯食ってない。 なんか急に腹減ったな。 飯、何所で食えばいいんだ?」

「しるか! それで、お爺様に連絡は出したのか?」

「いいや、ごたごたしていて、気が付いたら戦時令が出てた」

「ブルーノ様には? 城内にいらっしゃるだろう」

「えええ、あの部屋入りたくない」

「そ、そんな事を言っている場合か!」

「ははは」

「ははは、じゃない! 隊長」

「うむ」

「戦時令下ではございますが、アイスラー家の一大事。 新兵1名、戦列を離れる許可をお願いいたします」

「馬鹿な弟を持つと苦労するな。 許可する」

「はっ、ありがとうございます」

 えええ、馬鹿扱いかよ、ひでえな。

 かっこよく挨拶をしたビリーの姿はすぐに見えなくなる。

 そんなに急がなくてもいいと思うが、一大事ねえ。

 そんなに大した事なのか?

「剣を引き、警備に戻れ」

 隊長のだみ声で、近衛兵がぞろぞろ離れていく。

 なんか、みんなこっち見てぶつぶつ言ってる。

 指差す奴もいるし、あんまりいい気分じゃねえなあ。

 でもまあ、ビリーもこの場を立ち去る理由が出来たし、めでたしめでたし、でいいかな。

 しかし、腹減ったー。


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