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ルーラァ  作者: 水遊び
近衛城兵
40/50

オン・サンドール始動

「失礼します。 レイダー様がおこしです」

 レイダー? うちの執事が何でここに?

 扉の向こうから声がかかり、爺さんと顔を見合わせるが、その爺さんが顎をクイッと動かした。

 ああ、俺が扉を開けるのか。 やってもらってばかりだから気が付かなかった。

 扉を開けると、白髪交じりの近衛城兵が頭を下げる中、見知った顔が包みを差し出してくる。

 思わず受け取ったが、重い。

「では、私はこれで」

「あ、ああ」

 用事は済んだとばかりに踵を返したレイダーの後を、近衛城兵があわてて追いかけてゆく。

 レイダーは普段から無口なほうだが、今は愛想もくそも無い。

 どうかしたのか?

「何をしておる。 扉を閉めんか」

「ああ」

 ぼんやりした背に爺さんの声がかかる。

 首をひねりながらも席に戻り、包みを開けるとガントレットと短剣だ。

 戦時令が出たから付けろという事だろう。

 通達が来てすぐに持って来たのか、相変わらず優秀だ。

「お前、双剣使いだったのか?」

「いや、どちらかといえば、2刃流かな」

 右手と右腰にそれぞれを付ければ、稽古をしている時のスタイルになる。

「どう違う?」

「左で受けて右で攻撃するのは変わらない。 剣の方が受け流ししやすいんだ」

「そんなものか?」

 爺さんが不思議そうな顔をするが、まあ、文官には理解できないだろう。

「最終的には、剣無しの方が攻撃力は上になるけどな」

「魔法か?」

「いやいや、体術の方」

 苦笑いが出てしまう。 何でもかんでも魔法で済まそうとするんだから、困ったもんだ。

「体術で、剣よりも強くか?」

「ああ、このガントレットは特注でな。 拳を作ると、ほら、指の付け根の前まで鉄が来るだろう」

「ああ、少し飛び出とるな」

「今でも、これで鎧をへこますくらいは出来る。 破壊するとなると、もう少し時間が欲しいけどな」

「……まあ、レイダーが認めておるならいいじゃろう」

 まったく、興味津々で覗き込んでいたのに、そんだけかよ。

 でも、ちょうどいい。 レイダーの事を聞き出してやるか。

「ああ、それそれ。 レイダーって何者なんだ?」

「お前、知らんのか?」

「ああ、うちの執事で、俺より強いって事くらいしか知らん」 

 人を馬鹿にしたような言い方だが、構わない。

 こんな時は良くしゃべってくれる。

「お前というやつはまったく。 いいか、レイダーは陛下の剣術指南役だった男だ」

「へーっ、剣術指南役なんてあるんだ」

「いや、驚くのはそこか?」

 ははは、ナイス突込み。 

「そう言えば、近衛城兵が頭を下げていた。 そういう事だったのか」

「もっとも、ずいぶん昔の話だ。 たまたま知っとるやつだったんじゃろう」

「やはり、強かったか?」

「強いなんてもんじゃなかった。 魔物狩りが得意で、第3城壁の外の魔物はほとんど奴の部隊が仕留めたと言ってもいい。 サーベルタイガーなど、縦にまっぷたつじゃった」

 自分がやったかのように、得意そうに喋ってくれる。

 ははは、いい調子だ。

「まさか? 骨と肉を同時に切る事は出来んぞ」

「ふん、おろかものが。 自分を基準に人を判断するものではないわ」

「お、おお。 しかし、それにしても、信じられん」

「衰えたとはいえ、いまだに奴にかなう者などおらんじゃろう」

「専属近衛城兵よりもか?」

「無論じゃ。 お前の親父の鼻っ柱をへし折ったのもレイダーじゃ」

「ブルーノの?  ああ、壊し屋とか言われていたとか、何やったんだ?」

「あのバカは、……」

 あれ? うまくブルーノの話まで聞けそうだと思ったのに、黙っちまったぞ。

「どうかしたのか?」

「お前は知らんでいい」

「なんでよ?」

「あ奴とお前は違う。 真似などせんでいい」

「別に真似する気はないぞ。 父親の事を知りたいと思うのは当然だろう?」

「ふん」

 くそー、どこまで許されるのか、真似して試そうと思ったのに、なんか見抜かれとる。

 どうやって聞きだすか?

「奴は壊す方、お前は作る方じゃろう」

「は? 俺が何か作ったか?」

 爺さんが先に話し出したが、何の話か分からん。

「何を言っておる。 楽器に測量技術に、丸のこ。 ルーラシップにルーラーキャリッジ、数え上げればきりがないわ」

「ちょ、ちょっと待て。 なんだあ? そのルーラーなんとかって?」

「船と馬車に決まっておろうが」

「はあ? 作ったのは俺じゃないぞ。 第1、馬車はまだ出来ていないだろう」

「ばかも休み休み言え。 お前がおらんで出来た物なぞ1つも無いわ」

「……それはそうだけど。 いや、それでもその名前は止めろ。 恥ずかしすぎるだろうが」

「もう遅い。 陛下も了承済みだ」

「……」

 まさか……。

 王様にまで話が行っているなら、これを覆すのは止めた方が利口か。

 まったく余計な事を、爺さん喋り過ぎだぞ。

 仕方ない。 レイダーの話に戻すか。

「王様にまで話が行っているならあきらめるが、嬉しかないぞ、そんなの」

「贅沢な奴じゃ」

「よけいなおせわだ。 しかし、レイダーが強いのは分かる気がするな。 長いこと稽古をしているが、当てたのは1回だけだもんな」

「お、お前、レイダーに一撃入れたのか?」

 爺さんが目を見開いて驚いているが、そんなに驚く事かよ。

「蹴りだったけど、油断してたんだろ」

「ありえん。 そっちの方が信じられんわ」

 そうきっぱりと言わなくてもいいと思うが、なんか傷つくな。

「それほど強くて、剣術指南役までやってたのに、何で執事なんかしてるんだ?」

「……」

 おっと、爺さんが苦虫をかみつぶしたような渋い顔を見せた。

 聞き方を間違えたか?

「やめさせられた?」

「ああ」

「テネス侯爵あたりか?」

「そうだ」

「分かった」

 言葉少なに答える爺さんだが、その言葉が重い。

 何があったのか、知りたくないと言えば嘘になるが、ここまで爺さんが渋るとなると、本人に聞くのが筋かもしれん。

 それに、今はそれだけ聞けば十分だ。

 また1つ、テネスを潰す理由が出来たと喜んでおくか。


「失礼します。 ドーマ家の者と申す者がまいっております。 割符も持っておりますが、いかがいたしましょうか?」

 やっと本命のお出ましらしい。

 戦時令が出ている事だし、扉を開けながら、立ちふさがる形で出迎えた。

 そこに立っていたのは、がっしりした男で光っている。 それもかなりの明るさだ。

 爺さんの言っていた砂漠の民、族長クラスだな。

「オン・サンドールにございます」

 低音でナイスミドルとも言える男が、軽く会釈している。

「入れ」

 爺さんの声を受けて脇により、ここまで付いてきた近衛城兵に目で合図を送る。

 彼の仕事はここまでだが、この男が帰るまでこのままここで立ち番をするようだ。

 さすがに戦時令が出ただけのことはある。

 扉を閉め、一足一刀で切り付けられる距離を測ろうとしていると、いきなり膝をつき頭を下げた。

「此度の仕儀、誠に申し訳もございません」

「…………」

 扉の外に近衛城兵がいる為か小声ではあるが、必死に謝っているように見える。

 だが、謝るくらいなら、初めからやるなって話だ。

 それに、やってから謝ればいいなら、何でもできる道理だ。

 やはり爺さんも、無言で睨みつける作戦のようだ。

「わが部族の者に間違いはございません。 知らなかった事とはいえ、全ての責任は私めにございます。 いかなる御処分もお受けする覚悟にございます」

「…………」

 馬鹿が。 殊勝な言い回しだが、どんな処分をも受けると言っておきながら、自分は知らなかったのだから悪意は無いと言っている。

 部族の長らしい物言いだが、こんな大事を知らないなどありえない。

 随分となめた真似をしてくれるもんだが、ここは爺さんのしきり、控えておこう。

 落ちる針の音さえ聞こえそうなほど静まりかえった室内。

 重い沈黙も罰の1つだろう。

 しかし、長いな。

 あれ? もしかして、爺さん返事に困っているのか?

 敵対する事も、許す事も出来ないという事なら、俺の出番だが……。

 更に沈黙が続く。

 どうしたもんか。

 うーん、ちょいと助太刀するか?

 漆黒の剣を抜きながら一足で肉薄し、オン・サンドールの首筋に当てた。

「ひっ」

 喉をひきつるような声を上げ、身動きもできずに固まるのを確認し、爺さんに目線を送る。

 だが、それでも爺さんは沈黙を守る。

 サンドールも同様、さすがにしたたかな奴だ。

 うん? 首筋から血が滲みだしてきた、震えているのか?

 その震えだけで切れるとは、改めて剣の良さに感心する。

 しかし、この程度で震えるような男には見えなかったが……。

 もしかして、恐れている相手は俺のほうか?

 魔導師などと呼ぶのは、相手を持ち上げる方便かとも思っていたが。

 ならば、やってやるまでだ。

 左手で髪の毛をつかんで固定し、剣を逆手に持ち替え眼前に出し、眉間に突き付ける。

「ひっ」

 震えが大きくなったが、今度の急所は血がにじむくらいでは済まない。

 頭をがっちり固定しているのは親切ともいえる。

「お前は知らないと言ったが、何を知らないんだ? あの男が魔法を使った事は、あの場所にいた者以外誰も知らないはずだ。 なぜおまえが知っている? ええ?」

「そ、それは……」

「いい事を教えてやろうか。 1000年前、魔導師様は真昼の太陽を地上に落とされた。 それで、かの地が砂漠になったんだ。 どうだ、勉強になっただろう」

 こいつらは俺を魔導師と呼ぶが、その力を知らない。

 そこに付け込むすきがあるはずだ。

「お、お許しくださいませ、魔導師様。 お会いして数年、我等にとっては救世主様にございます。 どうか、どうかお許しくださいませ」

 熱くもないのに、だらだらと汗をかいている。

 これが冷や汗というやつか、初めて見た。

 まあ、こんなところでいいか。

 これでようやく話が出来るというもんだしな。

「1つ質問だが」

「はっ、なんなりと」

 剣を収めてオン・サンドールの正面に回るが、爺さんの視線を妨げないように立つ。

 今ごろ気づいたが、執事の服装だ。

 レイダーと違って、まったく似合っていない。

 砂漠やけした浅黒い顔、隠しようもない鋭い目つきは歴戦の兵士をほうふつさせる。

 これで執事というつもりか? まったく、世の執事たちに謝れと言いたくなる。

「俺が、なぜ怒っているのか分かるか?」

「それは、魔導師様がお守りされている王を攻撃した事ではないかと」

「それはある。 だが、そんな事は些細な事だ」

「さ、些細でございますか?」

 おい、袖で汗を拭くな。

 まったく、執事が聞いてあきれるぞ。

「ああ。 問題はだ、お前が考え無しだという事だ」

「は、はあ」

「お前達の目的は、かの地の自治権を取り戻すことにある、そうだな」

「はい」

「今まで攻撃目標だったテネス侯爵だが、実際に動かせるのはテネス兵のみ。 数はそれほどいなかったはずだ。 だが、戦時令が出た今は違う。 堂々と大軍を、それもスースキ軍を送る事が可能になった。 一番喜んだのはテネス侯爵だろうよ」

「あっ」

「砂漠への討伐隊も出る事だろう。 だが、俺が奴なら、テネス兵は温存し、アイスラーやドーマ兵を中心とした兵を送るだろうな」

「な、なるほど」

 おいおい、そんな事にも気が付いていないのか?

 そんな男には見えないが、俺の目が曇ったか?

 そう言えば、1枚岩じゃないとか言ってたな。

 部族対立とかで追い込まれていたとか、そんなところか。

「お前達は俺という味方を得て、共同歩調を取ると決めたはずだな」

「はい、有り難き幸せにございます」

「俺は陛下にこう申し上げた。 アイスラーと砂漠の民、共に魔導師様の子孫である可能性があるとな」

「なんと」

「すぐにお信じになられるとは思っていないが、魔法が使える以上、その可能性は否定できないはずだ。 そして、俺はルテシイア姫を妻としていただく事が決まった」

「まことでございますか?」

「ああ、2人の力が合わさったらどうなるか、お前達の方が知っているだろう」

「おめでとうございます。 こんなめでたい事はございません」

 ふん、満面の笑みだが嘘くさい。

 半分は本当だろうが、俺の怒りの矛先は変わらん。

「ふん、話をそらそうとしても無駄だぞ。 それが、此度こたびの一件だ。 1つ間違えれば、すべてが無に帰すところだったのは理解できるのだろうな?」

「な、なるほど。 確かに、まことにもって申し訳もございません」

「俺は侯爵様のご判断に従う。 しかしだ、俺がお前を生かして返す理由など一片たりとも無い」

「は、ははー」

 ようやく理解したか。 まったく手間のかかるやつだ。

 忘れていた爺さんをちょいと立てて、何か言うのを待つが……まだか。

「で? お前はこの件を口先の謝罪だけで済ますつもりか?」

「と、とんでもございません。 この身、いかようにも御処分下さりませ」

「ふん、お前の命を取っても、何も解決せん。 そうだな、馬鹿だが行動力はありそうだし、部族ごと、俺の直近の兵としてこき使ってやろうか」

「ははー。 身に余るお言葉。 光栄なるお役目。 このオン・サンドール一族を代表して御礼申し上げまする。 かくなるうえは、いかようなご命令であろうとも、全身全霊を持って成し遂げてみせまする」

 あれ、なんか喜ばしたか?

 まあいいや。

「では1つ、緊急時以外、剣を持っての戦いを禁ずる」

「は?」

 口を開けてポカーンとしているが、ちっともかわいくない。

 そういやあ、昔こんな奴がいたな。 こっちの指導力を試そうとしているみたいな奴が。

 いや、あいつはもっとかわいげがあった。 こんな奴と同列じゃあかわいそうだ。

「は、じゃねえ」

「は、はい」

「剣の代わりに、頭と魔法を使え。 魔法は得意だろうが」

「はっ、わが部族は砂漠の民の中でもぬきんでた魔力を持っております」

「ふん。 命を失うほど魔力を使って、たかだか水の矢が1本。 割が合わん」

「恐れ入りました」

 まったく、すぐに調子に乗るんだから。

 俺に指導力なんか期待すんなってんだ。

「テネスに向かえ」

「はっ」

「多くの兵がいるな」

「はっ」

「その兵力を維持するのに必要なのは食料だ。 狙いは食料庫だが、剣は使わない」

「はっ」

「食料庫の天井は開いている。 これは、空気を通して湿気を逃がす為だ。 雨が入らないように屋根はあるが、隙間がある」

「たしかに」

「まだ分からんか?」

「あっ、その隙間でウォーターボールを発生させれば」

「そうだ。 後は自分で考えろ」

「はっ」

「あと、他の部族長に伝言だが、砂漠に入り込む討伐隊とは戦うな。 貴族の様に、正々堂々戦っても、喜ぶのはテネスだけだからな。 ほっときゃ、勝手に帰るだろう。手薄の街道ででも遊んでやれ」

「はっ、しかと伝えます」

「最後に、戦闘行為は討伐隊が引き上げるまでだ」

「はっ」

「テネスはスースキ王国にとっては南のかなめであることに変わりはないんだからな。 あとは、テネス侯爵が無能だという噂でも流しておけ」

「はっ」

「ともかく、俺の足を引っ張るのは2度と許さん。 分かったな」

「はっ」

 こんな所でいいだろう。

 しかし、1を聞いて10を知れとは言わんが、いちいち説明しなくてはならんのはかなわんな。

 爺さんの方をみやると、腕組みをしたまま目を閉じていたが、その眼を薄く開いた。

「下がるがいい」

「はっ」

 立ちあがったオン・サンドールは、爺さんに向けては右手を左胸に当てた礼をし、俺には軽く会釈をして、扉に向かった。


 扉の向こうに控えていた近衛城兵と目で引き継ぎを済まし、扉を締めて爺さんの方に戻ると、さっきの書類が落ちている。

 拾い上げると、爺さんが手を出した。 偽物だとばかり思っていたが本物だったか。

 侯爵家の書類を検査する者はいないと思うが、念のためという事だろう。

 手渡そうとしたが、爺さんの手は引かれ、立ち上がったので、机の上に置こうと目を机に向けた。

 途端、ゴンという音とともに脳天に衝撃が来た。

「あいたー、何すんだ」

「この馬鹿もんが、ここは城の深部だぞ。 逆賊の作戦司令なぞ他でやれ」

「あっ」

「おまけに、わしまで巻き込みおって」

「ははは、まあ、あれだ、勢いというか、流れでさ。 その……ごめん」

「まったく」

「あ、でも、ほら、敵の考えが分かれば、有利だろ。 砂漠に行っても、適当なところで戻ればいいしさ」

「もとより、そのつもりじゃ」

「そ、そうなんだ。 ははは」

 笑ってごまかそう。 全く気が付かなかった。

「それより、本当なのか?」

「えっと、どの話?」

「真昼の太陽の話だ」

「ああ、あれははったり」

 ふーっ、話題が変わってくれたか。

 そうさ、済んだ事は仕方ない、そういうもんだ。

 まあ、お前が言うなとは言われそうだが。

「はったり?」

「ああ、そんな事は出来ないし、もし出来たら、砂漠どころか3国含めたこの大陸が消滅するよ」

「なんとな。 しかし、それくらいの事は出来そうな話しぶりじゃったが、ほかに魔法で何が出来る?」

「そうだな、あんな水の矢なら100本くらいは軽く打てそうだな、やらないけど」

「なぜじゃ?」

「何言ってんだ。 戦争でもないのに、命かけてまで練習しようとは思わんぞ」

「ふむ、それもそうか」

「まったく、利口か馬鹿か分からんな」

「こ、このたわけものがー!」

「おっと、その手は桑名の焼き蛤」

 顔を真っ赤にして、再び頭に拳固を落とそうとするが、さっきと違って見えている以上くらう事はない。

「まったく、訳の分からんことをほざきおってからに」

 うん? これから鬼ごっこが始まるかと思っていたが、くるりと後ろを向くと隠し扉に向かった。

「あれ? どこに行くんだ?」

「陛下へのご報告に決まっておろうが」

「俺も行く」

「だめじゃ、お前は留守番しとれ」

「え~っ、悪かったよ。 謝るからさ、連れてってくれよ」

「……だめじゃ」

 少し考えてからの返事か。 怒りに任せて言っているわけではなさそうだな。

「怒っているからじゃないのか? じゃあさ、何と報告するのか、さわりだけでも教えてよ」

「ったく、遊びじゃないんだぞ」

「分かってるよ、けち臭いこと言うなよ」

「ケチ……お前というやつは」

「ははは、ごめんごめん。 つい本音が」

「まったく、砂漠への討伐隊は、大軍を持って行うべきだと申し上げるのじゃ」

「大軍って、砂漠だろ? 小さい砂漠なのか?」

「いや、果てしないと言ってもいいくらいじゃ」

「そんなの、千が万になっても同じじゃないのか?」

「同じじゃなあ」

「じゃあ、何で?」

「フフフ、分からんか?」

「ああ、まったく」

「分からんか、そうか、分からんか。 ははははは」

 勝ち誇ったように笑いながら扉に向かっていく。

「ちょ、ちょっと爺さんてば。 あああ、ああそうだ。 俺外回りして来ていいか?」

「外回り?」

 扉に手をかけたまま振り向いた。

 間一髪セーフだな。

「ああ、第1城壁内を見回って来る」

「そりゃあ構わんが、じきに暗くなるぞ」

「砂漠の民の奴らは体が光って見えるんだ。 暗い方が分かりやすい」

「サンドールを疑っておるのか?」

「いや。 ただ、一枚岩じゃないと言うのが気になっているだけだ。 まあ、俺の方がとんでもないほど強く光って見えるらしいから、あっちが先に見つけるだろうけどな」

「それじゃ、意味がなかろう」

「そんな事はいいんだ。 捕まえたいわけじゃない。 出て行ってくれればいいだけだから」

「まあ、いいじゃろう。 行ってこい」

「了解。 で? 何で大軍?」

「ふん」

「ケチ」

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