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ルーラァ  作者: 水遊び
近衛城兵
39/50

戦時令、発令

 しっかし、若くて美人の婆さんとはな。 自分が転生した事よりも驚きだ。

 昔は、自分から何かをしたい、などと言う奴じゃなかったんだが、気持ちまで若返ったのか?

 いや、年寄り臭い考え方は、体が思うように動かん所から来ているもんだ。

 思いっきり体を動かせる、たちくらみもしない、ぐっすり眠れる、疲れが残らない。

 まあ、こんだけ揃えりゃ、気分も変わるか。

 それにしても、あの婆さんが行動的になる……か。

 何をしたいのかは知らんが、こりゃあ、面白い物が見られそうだ。


 女官長と別れて秘密の通路まで戻ったが、真っ暗だ。 さっきは明るかったはずなのに。

 後ろに誰もいない事を確かめ、ファイアーボールの小さい物を浮かべてみると、右上にでっぱりがある。

 来た時の明るさはどうだったかな?

 うーん、おそらくあれに光りの魔石が入っていて間接照明、そんな感じの明るさだったと思うが。

 しかし、どちらにしてもあそこまでは上れんし、点け方も分からん。

 仕方なくそのまま進むが、この場所のつくりはまったく別物だな。

 石がむき出しだが、それだけじゃない。 設計段階から違う気がする。

 職人の、いわば手が違うというやつだ。

 城を作る際に、ここを空間として残しておき、別の職人がここだけを手掛けた。

 うん、間違いあるまい。

 おっと、行き止まり。

 入った時は右手に通路だったから左の壁のはずだが、あった。 横引きの扉だからかなり重い。

 横引き?

 まてよ、この世界に横引きの扉なんかあったか?

 家にも、爺さんとこにも、この城でも見たことは無い。

 なるほど、こりゃあ画期的なアイデアというやつか、たいしたもんだ。

 特別な方法で点くライトに、ここにしかない引き戸。

 秘密保持の為に少人数で造り、完成したら命を絶つ。

 そこまではしないか。 いや、したかもしれん。


「ただいまー」

「「「「おかえりなさいませ」」」」

 おお、やっぱりここはいい。 若くてピチピチギャルがいっぱいだ。

 なんといっても、スラガ・ドーマ侯爵がいない、それが1番いい。

 そうか、社長室をこんな風にすればよかったんだ。

 むさっ苦しい役員連中もみんな女にすればよかった。

 後悔先に立たず。

 よし、今度はそうしよう。 あれだ、ハーレムだ、ハーレム。

「爺さんはまだみたいだな」

「御一緒ではなかったのですか?」

 ガントレットを付けながらの独り言に反応してくれる可愛い子は、ナーン・ドーマ。

 侯爵の孫娘でなければとっくに、おっと、婚約したらどうなるんだ?

 相手が姫さんとなると、浮気はまずいのかな?

 いや、貴族だし、いいとか……だといいな。

「王様に捕まった」

「まあ、そうでしたか」

「ああ、俺だけ仲間外れだ」

「王様にお会いしただけでもすごい事です。 そのうち、お話をする事もありますよ」

「そうだといいんだが」

「大丈夫です。 ルーラァ様なら」

「ははは、ありがとう」

 ちょっとすねた感じで話すと、一生懸命慰めようとしてくれる。

 いい子だ、じつにいい子だ。

 しかし、この根拠のない自信はどこから来るんだろう?

 赤らめた顔もかわいいが、婚約が知れたらこの表情はもう……。

 いや、待てよ。

 俺はまだ11だし、弟みたいなものかもしれん。

 いやいや、年下の男の子の人気は高い。

 歌になるくらいだし、特にイケメンなら期待してもいいはずだ。

 女心は摩訶不思議だから、きっとそうだ、そうに違いない……うーん、たぶんだが。

 しっかし、これからどうするかな。

 ずっとここにいたいが、行動力のある男に女は惚れるからな。

 といって、行くあても無し、か。

 帰ってハンクと会いたいところだが、爺さんに張り付けと言われているし、その爺さんはいつ帰るのかも分からんと。

 今のうちに、ブルーノに婚約の話だけでもしておくかな。

「アン、北の塔まで行ってくる」

「はい、またここにお戻りになられますか?」

「ああ、すぐに戻る」

「はい、いってらっしゃいませ」

「「「「いってらっしゃいませ」」」」

「行ってくる」

 いいなあ、いい、実にいい。

 メイド達に見送られるのもいいが、ここにいるのは貴族のご令嬢ばかり、感動もひとしお、廊下に出て思わずガッツポーズだぜ。

 おっと、隣の部屋は専属近衛城兵の部屋、組事務所と命名しよう。

 抜き足、差し足、ここは静かに通り過ぎ……あ、隊長には話しておいた方がいいのかな?

 叱られたばっかりだし……でもなあ。

「だれだ!」

 バンという扉が開く音と同時に、鋭く誰何すいかされた。

「ルーラァ・アイスラー近衛城兵見習いであります」

 すぐさま直立不動、右手を左胸に、目は真っ直ぐ見返すが、こえーっ。

 顔も怖いが眼が怖い。 目力めぢからなんてもんじゃね。 子供がひきつけ起こすぞ。

「何のようだ?」

「隊長殿にご報告したい事がございます」

「今、席を外しておられる。 中で待て」

「いえ、出直してまいります」

「ふん」

 再び、バンという音とともに扉が閉まった。

 あ、あぶねー。

 こんな中で待つくらいなら、地獄の鬼たちといた方がまだましだ。

 とっさに断った自分自身を褒めてやりたいくらいだ。

 それにしても、扉の外の気配なんてよく分かるなあ。 殺気どころか、気配は抑えていた方だと思うが。 やっぱり化けもんだ。

 そっと離れて、まあ、こんくらいならいいか。

 へん、ばかたれが、ちょっとばかし強いからって自慢すんなよ。

 アッカンベーの、お尻ペンペンだぜ。

 と、バンという音が再び。

 げっ、お尻ペンペンの体勢でしばし硬直してしまったが、すばやく振り返り、直立不動。

 見えたのは、隣の扉から顔をのぞかせたナーンだ。

 やれやれとは思ったが、ナーンの目は大きく見開いている。

 まあいい、良くはないが、まあいいだろう。

 ナーンは表情を引き締めると、次に笑顔になった。

 あれだ。 あれが、作り笑いか、本当の笑顔かが分からないんだよな。

 ともあれ、美少女が笑顔で駆け寄って来るのは嬉しい。 というか、俺が手を広げたら胸に飛び込んできそうだ。

 おいおいおい、いいのか? 手を広げてもいいのか?

 いやいや、駄目だ駄目だ。

 グッとこらえて、ぶつかったら受け止める、抱き止める、それでいこう。 来い、もっと来い、さあ来い。

 しかし、ナーンは寸前で止まり、俺の両手は動くに動けず硬直した。

……失敗だ。

 1歩前に出ればよかったのだ。 そうすれば、ナーンは目測を誤りぶつかったのだ。ああ、悔やんでも悔やみきれないこの思い。

「どうかした?」

 心のさけびは奥深くに隠し、やさしく声をかける。

「お爺様が、侯爵様がお戻りになられました」

「そうか」

「すぐにお戻りくださいませ」

「わかった、ありがとう」

 ナーンのはにかむような笑顔が近い。 見つめ合うひとときは幸せいっぱい胸いっぱい。

 これで、爺さんさえいなければいう事はないが、そうもいかないようだし、行きたくはないが扉に向かうか。


 部屋に戻ると、あれあれ、みんな帰り支度をしてる。

「爺さん、今日はもう終わりなのか?」

「爺さんとはなんだ。 侯爵様と呼べと言っておるだろうが、まったく」

 もどった爺さんは奥の指定席にいて、その横に俺の席がある。

 専属城兵なら扉の外か内で立つんだが、俺に仕事をさせる気満々だ。

 まあ、座っていられるからいいんだが。

「終わりなら、俺も帰っていいか? ああ、侯爵の爺さん」

「だめに決まっておろうが、たった今、戦時令が出たんじゃ」

「戦時令?」

 ああ、戒厳令とか、第一級戦闘態勢とか、そういうやつか。

「そうじゃ。 おい、ナーン」

「はい、侯爵様」

「よいな」

「はい」

 耳うちなんかして、2人でいい雰囲気だな。 って、孫だからそれはないか。

「では、お先に失礼いたします」

「「「「お先に失礼いたします」」」」

「ごくろうさん」

 軽く返事を返した俺と違って、爺さんは書類を見ながら顔も上げない。

 おいおい、無視は無いだろう。

 可愛い女の子たちが挨拶しているんだから、返事するなりうなずくなり、なんか返答してやれよな。

 しかも、これで爺さんと2人っきりじゃねえか。

 俺の花園計画が台無しだ。 勘弁してほしいぜ、まったく。

「戦時令ってさ、俺は何をすればいいんだ?」

「待機じゃ」

「待機って、いつまで?」

「知らん」

「知らんて、じゃあ、ずっとここにいるわけか?」

「そうじゃ。 仕事をしておれば、夜も明けるというもんじゃ」

「夜が明けるって、日はまだ沈んでもいないんだぞ」

「ごちゃごちゃと、うるさいやつだ」

「ははは……だめだこりゃ」

 話す事も無いから聞いてみたんだが、むごい現実を突き付けられただけだ。

 顔も上げない爺さんの横で、机に突っ伏した俺は悪くない。

「そんな事より、北の塔に用事でもあったのか?」

「んあ?」

 両手の間から頭だけを上げたが、爺さんは相変わらず下を向いたままだ。

「行こうとしていたんじゃなかったのか?」

「ああ、ブルーノに、婚約したことを言っておこうかと思ってた」

「ブルーノなら、隣の詰所におったじゃろう?」

「え?」

「姫様が城におるんじゃ、専属近衛城兵が城にいるのは当たり前じゃろうが」

「あっ」

「まったく、利口か馬鹿か、ようわからん奴じゃ」

「ははは、はーぁ」

「行くんなら、さっさと行ってこい」

「いい、行く気なくした」

「いい加減な奴じゃ」

 冗談じゃない。 あんなとこに行くくらいなら、叱られた方がまだましってもんだ。

 再び腕の中に顔をうずめた。

「そうだ。 奥の通路、電気はどうやって付けるんだ?」

「光の魔石の魔力が切れただけじゃ、もう取り替えてある」

「え? そ、そうなんだ」

「それがどうかしたのか?」

「いや、なんでもない」

「そうじゃ、入り口の扉が壊れて横にしか開かんのじゃが、なんか分からんか?」

「壊れて……たのかよ」

 もはや頭は上げない。 頭を腕に乗せて横を向けばいい。

 爺さんはようやく顔を上げたが、何ともやりきれないのは気のせいか?

「お前なら何か気が付くかもしれん。 ちょっと見ておけ」

「いや、あれはあのままがいい」

「なぜじゃ?」

「いざという時、王様の側近しか開けられない扉があれば、足止めになるからな」

「なるほどのう」

 やれやれ、球切れに壊れた扉かよ、まったく。

 お城なんだから、もっときちんとしろ……ああ、業者を入れられないんだ。

 もしかすると、掃除もやらされる可能性があるな。

 まあ、そのくらいいいか。

 え、掃除?

 まてよ、まてまて、ちょっとまて、ってか。

 掃除用具って、ホウキかモップ、はたきも含めて棒だよな。

 薙刀の代わりになるんじゃねえか?

 後は材質だけだが……うん、いけるかもしれん。

「爺さん、家具の職人を今呼べないか?」

「まったく、侯爵と呼べんのかお前は。 どちらにせよ、今は無理じゃ」

「戒厳令が出ているからか?」

「戦時令じゃ。 なんじゃその戒厳令とかいうのは?」

「いや、その、非常事態宣言みたいなもんかな」

「……戦時令じゃ」

「はいはい」

 都合が悪くなると怒りだすんだから。 これだから年寄りは困る。

「戦時令が出た後では、割符が必要じゃ」

「割符?」

「通行手形のようなもんじゃ。 家に呼んで割符を渡さんことには、城に入れんようになっとる」

「そっか、じゃあ、明日にでも呼んでよ」

「何を作る?」

「棒、かな」

「……」

 うーん、返事が無~い。

 山口さんちのつとむ君状態だな。

 いや、なんか、わなわなとふるえている。 ちょっとやばいか。

「ああそうだ、謁見の間のあいつ、どうなった?」

「取り押さえた時には、事切れていたそうだ。 自害して果てたんじゃろう」

 おお、素晴らしい自制心。

 だてに年とっとらんな、感心感心。

「うーん、おそらくだが、魔力切れだと思うぞ」

「魔力切れ?」

「ああ、全ての魔力を一気に使い切ると死ぬ」

「まことか?」

「俺も、ハンクの風邪を治した時、気を失って何日か寝込んだし、間違いない」

「お前、そんな魔法も使えるのか?」

「ああ、命がけである事に変わりはないけどな」

「うーむ」

 よしよし、こっちのペースに巻き込んだぞ。

 腕を組んでうなっとる。

「砂漠の民、なんだろう?」

「それ以外考えられんが、まさか陛下を狙うとはな」

「あいつら俺を魔導師と呼んだぞ」

「魔導師じゃと?」

「ああ、魔法を導く者、魔法を使う自分達を導いてくれる者だそうだ」

「うーむ、それはまた……」

 ははは、驚いたりうなったり、けっこう面白いなあ。

「けた違いの魔力があるから、一目でわかると言っていた。 それなのに……」

「お前がいるのに攻撃した、か」

「ああ、失敗するのが分かっていて攻撃すると思うか?」

「信じていなかったか、あるいは、騒ぎを起こすことが目的だったか。 いや、お前がいなければ成功していたんじゃないか?」

「ああ、そう言えばそうか」

「時間と手間をかけた千載一遇のチャンスだった。 そんなところじゃろう」

「なるほど、ありそうだな。 しかし、味方じゃなかったのか?」

「砂漠の民は部族の集まりじゃ。 一枚岩とは言えんのでなあ」

 ははーん。 こりゃあ、過去にいろいろあったんだな。

 そのうち、じっくり聞かせてもらうか。

「なるほど、難儀なやつらのようだが、そのあたりをきっちりしとかんと、後々困るぞ」

「ああ、問題の部族長を呼びつけてあるから、おっつけくるじゃろう」

「ナーンに言ってたやつか、さすが侯爵様だ」

「減らず口をたたきおって、早く仕事をせんか」

「ははは」

 くそー、ちゃんと侯爵と言ったのにおしごとかよ。

 やる気、ねえなあ。



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