第17話 カラゲル・ヘブン近衛城兵総隊長
ヘブン伯爵家の紋章は馬だったが、当然のごとく角がない。
さすがにユニコーンを家紋にする事は出来ないはずだしな。
用向きは教官をやっつけた件で間違いないだろう。
近衛城兵総隊長で、伯爵家の仕事は馬丁と、よし行くか。
「ルーラァ・アイスラー近衛城兵見習いであります」
「入れ」
部屋に入り、その場で待機する。
部屋の中にはいくつものソファーがあり、20人近い専属近衛城兵が思い思いの場所に座っている。
ただ、その視線が半端じゃない。
くぐもった殺気とでもいうのだろうか、ジッと値踏みするような視線を送ってくる。
この嫌な感じは覚えがある、やくざ屋さんの事務所に行った時と同じだ。
違いがあるとすれば実力がチンピラとは雲泥の差、大貸元レベルがごろごろいる事だろう。
これが専属城兵の強さか。
「こっちへ」
「はっ」
ブルッと武者震いをして中央に出来た細い通路を進むが、周りの視線が痛い。
こりゃたまらん。
余裕なんぞないのにニヤリとしてしまう。
不敵に見えるこの笑顔はただのくせというか、引きつり笑いというやつだ。
総隊長は椅子に座ったまま、テーブルに置いてあった1枚の紙を手に取った。
だが、すぐには口を開かない。
無言の圧力、よく使った手だ、知らなければビビルとこだが……。
ふん、つまんねえことしやがる、逆に落ち着いたわ。
「見習いが問題を起こした場合は、すぐに除隊となる事は知っているか?」
「いいえ」
書類を見たまま顔も上げない。
「この報告書によると、ルーラァ・アイスラー近衛見習いが問題を起こしたとあるが、間違いないか?」
「いいえ」
「ほう、しらをきるか?」
「まさか」
ようやく顔を上げたが、まだ若く、短く刈りそろえた金髪がもったいない感じだ。
ブルーノと同じくらいの40前と見た、するどく刺すような眼光は比べようもないが。
しかし、こんな手があったか、あの教官野郎腐ってんな。
まあ、俺に通用すると思ったら大間違いだがな。
「総隊長殿はアイスラー家の風習をご存知でしょうか?」
「風習だと?」
「はい、アイスラー家では、倒した獲物を囲んで宴を開くならわしがあります」
「それがどうした」
「アイスラーに害をなす者は容赦をしない、そういう事です」
「ほう、脅かしが通用するとでも思うか?」
に、にらみがこえ―。
だが、ここが勝負よ。
「いいえ、ただ、死んでしまえば獣も人も同じだという事です」
「……」
「爺さんがこの事を知れば、酒の肴は1つでは収まりますまい」
「……」
だから、無言でにらむのがこえ―っての。
口の中が渇きやがるぜ。
「アイスラーでは、昨日を含めて11の宴が行われました。 その意味がお分かりでしょうか?」
「……ふん、お前はブルーノとは違うようだな」
「お褒めに預かり恐縮です」
どうだ、はったりもこれだけ続くと真実だと思えるだろ。
この勝負いただいたぜ。
苦虫をかみつぶしたような顔しちゃってまあ、ぐうの音も出まい。
「1つお願いしたい事があるのですが」
「……内容にもよる」
そんなに警戒しなさんなって。
「馬に鐙を付けていただけないでしょうか?」
「あぶみ?」
「はい、鞍を固定する腹帯とは別に、ワッカを付けた革帯を鞍に取り付けて欲しいのです」
「なんだそれは?」
「実は、私は馬が苦手なのですが、鐙に足をかけると、私でも馬を走らせたまま弓が引けますし、馬上槍もふるえます」
「そんな事でか?」
「はい、これが有れば馬上戦の威力が倍増すると思われます。 戦争で多くの兵を失いましたが、私のような子供の手を借りるより、大陸1の軍団にする方が早いかと思われますが、いかがでしょうか?」
「……」
「この件は、祖父には了解済みですが」
「……まあ、検討はしてみよう」
「ありがとうございます。 では、失礼します」
颯爽と踵を返すが、心の中は逃げろだ。
即行で部屋を後にする。
いや~ビビった、久しぶりにちびるかと思った。
まあ、俺みたいな子供の提案を、はいそうですか、と採用する事は無いだろうが、こと馬に関しては関心を示さざるをえんだろう。
国王が言った緊急事態宣言だったか、それに対する答えを出す必要がある筈だ。
試験の年齢繰り上げはおそらくテネス侯爵。
ルーブル侯爵は知らんが、何かをやっているはずだ。
ドーマの爺さんはナセルの船、アイスラーも1枚噛んでいる事は知れる。
取り残されるのはヘブン伯爵のみ。
馬丁ではろくな改革は無いはず、果たして俺の提案を無視できるかな?
まあ、これで味方とまではいかなくとも敵ではなくなっただろう。
そんじゃまあ、1丁上りという事で、ナーンに会いに行くとするか。
「うーす」
「「「「「お帰りなさいませ」」」」」
扉を開けながら軽く挨拶をすると、返ってくる若い声。
くーっ、やみつきになりそう。
怒りっぽい爺さんはまだ帰ってきていないみたいだな。
「エリーヌからのプレゼントが見たい」
「こちらでございます」
ナーンが出してきたのは竹製の木箱。
半分に切った竹を、表と裏交互に並べてかみ合うように固定してある。
竹の表の青色と内側の白色がストライプをなして綺麗な外装となっていた。
「こりゃ、箱だけでもすごいな」
「男性へのプレゼントなので気合を入れたとか」
おお、悪戯っぽい会話、いい感じ。
「何と、旦那さんに嫉妬されそうだ」
「旦那様はそれどころではないのだと言っておりました」
「なるほどな、さっそく見てみよう」
「家に帰ってから開けるが礼儀かと存じますが」
「ナーンは見たくない?」
「それは……」
小首を傾げ頬に指を置く、可愛い定番のしぐさも決まっている。
「みんなも見たそうだし、宣伝にもなると思うけどな」
「分かりました。 私も見とうございます」
「そうこなくっちゃ」
そう言って開けた中身は、片手で持てるほど小さい物だったが見事な竹人形だ。
「これはいい」
「ほんと、素敵ですわ」
髪がおかっぱじゃないのには笑えたが、懐かしい素朴な味わいはそのままだ。
皆もぞろぞろ集まってきて、綺麗、可愛い、私も欲しい、の大合唱。
マロン商会を呼ぶ話まで飛び出し、ナーンも喜んでいるし、俺の株も急上昇か?
そうだ、これを姫様に献上しよう。
日本人なら絶対に喜ぶはずだし、姫様御用達なら宣伝効果も抜群だろう。
おっと、その前にイケメン野郎を忘れてた。
姫様をとっとと助けて、早いとこ潰そう。
とりあえずは爺さん待ちだが、王様の決定を覆そうというんだから時間はかかるか。
「ナーン、いっぺん家に帰るわ」
「はーい。 さあみなさま、お片付けの時間ですよ」
今、はーいって、はーいって言ったよな。
う、嬉しい、確実にレベルが上がっとる。
こうなったら姫なんかどうでもいい、先にイケメンくそ野郎をブッ飛ばす。
皆さんでお片付けが終わり、お見送りされて家路についた。
狙うは庭にいるかもしれないイケメン野郎。
竹人形を持っているので走れないのがもどかしい。
そして見つけた、誰が誰だかわからないが、近衛城兵たちが稽古をしている。
人形は馬車に預けて、と思ったら、なんか木刀を持っている。
とりあえず家に帰って、人形を置いて、木刀持って仕切り直しだ。
「お帰りなさいませ、ルーラァ様」
「ただいま」
なんかレイダーが懐かしい、やっぱり安心感が違うな。
「お客様がお待ちです」
「えっ?」
「カラゲル・ヘブン伯爵様です」
「げっ、もう来たのか。 予想外の早さだな」
「来られることがお分かりでしたか、旦那様と食堂におられます」
「食堂?」
「はい、お戻りになられたら呼ぶようにと」
「分かった、行ってみる」
どうなってんだ?
まあ、伯爵が来たから相手をしたんだろうけど、食堂?
「お預かりいたしましょうか?」
「ああ、部屋に」
「かしこまりました、ルーラァ様」
竹人形を預けて食堂に向かうが、分けがわからんな。
「失礼します。 お呼びと伺いましたが、よろしいでしょうか?」
「おう、戻ったか、入れ入れ」
「はい」
食堂に入ったところで挨拶をしたのだが、明るく答えたのはカラゲル・ヘブン伯爵だ。
ヘブン伯爵はブルーノの隣、お母様の席に笑顔で座っていたが、ブルーノは腕組みをしたまま、口をへの字に曲げている。
怒りを隠そうともしないブルーノは初めてだ。
警戒信号はガンガンなるが自分の席に着くしかなく、メイドがパンやスープを運んでくるものの食べられる雰囲気じゃない。
時々2人の顔色をうかがいつつ、うつむき加減でじっと言葉を待つ。
「ルーラァ」
「は、はい」
ブルーノが話し始めたのはメイド達が下がってしばらく後、今まで聞いた事のない低い声だ。
「入隊式の日、門番を蹴り飛ばし、教官に重傷を負わせた。 間違いないな」
「はい、間違いありません」
「理由はテネス家の人間だから。 間違いないな」
「はい、間違いありません」
な、なんか冷や汗が出てきたぞ。
「それがどういう意味か分かるか?」
「は?」
「どれだけ大変な事をしでかしたのか、それが分かるかと聞いている」
「い、いいえ」
「やはりそうか」
「……」
やっぱり、まずかったか?
いや、まずいのは分かっていたんだが……。
「総隊長がカラーだったからよかったようなものの、そうでなければ、その日のうちに近衛資格はく奪の上投獄だ」
「げっ」
そ、そこまでなるのか。
「まったく、利口なお前の事だから分かっていると思っていたが、今度は何だ? 見習い風情が近衛城兵総隊長を脅すだと? こんな話は前代未聞だ! お前のような奴は10ぺんくらい処刑されてしまえ!」
「10ぺんって、ははは……」
こ、これはもう、笑うしかない。
「何がおかしい!」
「まあ、まあ」
こんなに怒るブルーノは初めてで、どう返していいのかわからん。
今はただ、台風が過ぎるのを待つしかない。
カラゲル・ヘブン伯爵が間をとりなしてくれたが、カラーと呼ぶほど親しい間柄なのか、今日が初めて、だよな。
「若いうちはそれくらいでないといかんだろう」
「そういう問題では無い」
「まだ子供だ。 それに、俺達の若い頃と比べたら可愛いもんじゃないか」
「それは、そうだが」
「ルーラァ」
「は、はい」
急に話を振られたが、ともかく味方をしてくれるなら乗るしかない。
「お前は、俺の指示で殴った事になっているからそのつもりでいろ」
「は、はあ?」
「近衛騎士はともかく、城兵は実力主義であるべきだ、それは分かるな」
「はい」
「それをやるには、それが出来る立場にならなければならない。 そして、皮肉な事に爵位を取って総隊長になったが、それでも思うようには進まん。 陛下にも申し上げたが、戦争に負けた原因もそこにあると思っている」
「はい」
返事はしたものの、それってすごい出世話じゃないのか?
いや、それより伯爵の指示?
「城兵の教官が、入隊したばかりの見習いに素手で倒される。 こっちの方が前代未聞だ。 お前は俺の考えを実証して見せたという事だ」
「はあ、そうだったんですか」
なんだか知らないが、知らないうちに話がまとまってしまったぞ。
つまりは、おとがめなし、でいいんだよな。
「それに笑えたぞ」
「何がだ?」
また、ブルーノとの会話に戻った。
「宴会の話だ。 ルーラァの安来節を思い出して、笑いをこらえるのが大変だったからな」
「ああ。 あんなもん忘れろ」
「そうはいかん。 これでルーラァの首根っこを押さえられるからな」
「それもそうか、今度何かやったら、みんなにばらしてやれ」
「ははは、そうしよう」
あちゃー、宴会の時にいたんだ。
じゃなくて、ちょっと待て。
もしかして、いや、もしかしなくても脅しになっていなかったのか?
それどころか、あれがすべて演技だった……嘘だろ。
「ところでルーラァ」
「は、はい」
「鐙の話は本当か?」
「はい、戦闘力は倍増します」
また、急に話が振られた。
考えるのは後、とにかく今は集中だ。
いつ話が振られてもいいようにしとかんといかん。
「ふむ、俺には子供のおもちゃにしか思えないんだが……」
「俺も同じだ。 あれはルーラァ専用だと思っている」
2人共か、そう言われてもな、見てもらうしかないか。
「おい、レイダーを呼べ」
「はい」
「なるほど、レイダーなら確かだな」
「そういうことだ」
なんだ、どういう事だ?
「お呼びでございましょうか?」
「おお、コタロウについている鐙について、お前の意見が聞きたい」
「はい、ご主人様。 全ての馬に鐙を付けましたなら、おそらく、大陸最強の近衛騎士団となると思われます」
レイダーはチラリと俺や伯爵を見ただけで状況を判断したのだろう、きっぱりと言い切った。
「そんなにか?」
「ただの私見にございます」
「いや、お前がそういうのなら……」
「ああ、すぐに取りかかろう。 後で実物を見せてくれ」
「かしこまりました」
まただ、長年一緒にいるが、レイダーって何者なんだ?
さっきから疑問が増えまくりだぞ。
今聞くのはまずいんだろうが、聞きたいことだらけだ。
こうなったら、だめもとで聞いてみるか。
「あのー、おふたりはどういう御関係なのでしょうか?」
「入隊が同期だったんだよ」
ふーっ、カラゲル伯爵が即答してくれた。
「そうなんですか」
「俺は爵位を継いだ時点で昇級したが、実力ではブルーの方が上だな」
「馬鹿言え、カラーの智謀には負けるわ」
「戦闘力の高さでは群を抜いていたし、戦争でそれを証明して見せた。 かなわんよ」
「運が良かっただけだ」
「運も実力のうちだ」
「まったく、ああ言えばこう言う、昔から変わらん奴だ」
「ははは、褒め言葉と受け取っておこう」
よくわからんが、なんかいい調子だぞ。
「昔って、何があったんですか?」
「知らんのか?」
「知らんでいい」
「いいじゃないか、昔の話だ。 俺達ふたりでな、城壁をぶっ壊したんだ」
「はい?」
なんかとんでもない話になって来たが、城壁を壊す?
「それも第1城壁だったから大変な騒ぎになってな」
「あの、ふたりで、ですよね?」
「まあ、普通は壊れたりせんのだが、手抜きがしてあってな」
「手抜き、ですか?」
「ああ、いくら言っても誰も信じちゃくれなくてな」
そりゃそうだと思うが……。
「それで、お父様と?」
「ああ、壊し屋ブルーなら乗ってくると思って話したら、案の定だ」
「その呼び名は止めろって」
「なんだ否定する気か、ずうずうしい。 物見塔に離宮から歴代国王の肖像画まで、よく命があったもんだと、感心するぞ」
「昔の話だ。 カラーだって女の家を泊まり歩いてばかりで、緊急の呼び出しがあった時、俺は10軒以上も忍び込んだんだぞ」
「そんな事もあったか」
「あったかじゃねえよ、おまけに……いや、止めておこう」
「ああ、教育上良くないな。 ところで、ルーラァ」
「は、はい」
城壁はどうなった?
壊し屋ブルー?
肖像画?
忍び込む?
話に圧倒されて、完全に油断していた。
「ドーマ侯爵は西の城門街に行かれたと聞いたが、お前は行かなかったのか?」
「あ、いえ、先ほどお戻りになられました」
「なに? 2日と開けずに馬車にお乗りになられて、お体は大丈夫なのか?」
「船で帰ってきましたので」
疑問は増える一方だが、ブルーノの怒りも収まったみたいだし、もう大丈夫そうだ。
全く脅かすなって話だ。
「船? 」
「はい、ナセルという新型船です。 まだ試作段階だったんですけど、緊急だというので。 でも、乗り心地は満点でした」
「なんだと?」
「えっと、揺れないのでお体に負担はありません。 大丈夫です」
「その前だ」
「ナセルという、新型船ですけど……」
「緊急事態とはどういう事かと聞いているんだ?」
あっ、これは言ってもいい事、だよな。
いや、言うべき事か。
「あの、お姫様が処刑されると」
「いつだ?」
「3日、後、です」
「何故、それを先に言わん! この大馬鹿者が! お前なんか100回処刑だ! レイダー馬を出せ!」
「はい」
「ふ、増えた……伯爵様」
「遺憾ながら、私も同意見だ。 ブルー、馬はめだつ! いつもと変わらず馬車にしよう」
「分かった、馬車だ!」
「はい」
ははは、2人とも慌てて行っちゃった。
ちょっと驚いたが、言いそびれていただけじゃないか、100回は多いぞ。
せめて80とか70くらいが妥当だよな……。
「ルーラァ近衛城兵見習い」
「は、はっ」
カラゲル伯爵が、戻ってきた。
「こんな時の為の専属だ、すぐに登城しろ。 そして、侯爵様のそばを離れるな。 いいな」
「はっ」
急に戻るなよ、心臓に悪いぞ。
再び扉の向こうに消えたが、今度こそ行っただろうな。
それにしても、叱られたのは何十年ぶりだ?
それもまた新鮮でいいんだが、すっかりガキ扱いだ。
ブルーノたちから見ると、今迄俺のやってきたことは子供のいたずらレベルだという事なのか?
あの2人が規格外だとしても、これじゃ無駄に年食っただけだと言われても仕方ないぞ。
くそー、こうなったら、あの2人を驚かさんことには腹の虫が収まらん。
まずは姫様の救出からか、やってやろうじゃないの。
と、その前にまずは腹ごしらえ。
さっきはちょっとしか食べられなかったからな。
「ルーラァ様、スラガ・ドーマ侯爵様がすぐに来る様にとのことです」
おっ、やはりきたか。
何かを食べようとすると呼び出しがかかる。
じいさん、その攻撃は見切ったぜ。
その手は桑名の焼き蛤って奴よ。
あっ、焼き蛤食いたくなった。
サザエも。
素潜りで取ったサザエを浜で焼く、醤油垂らしてぐつぐつ煮て、火力がきついとポーンと蓋が飛ぶ。
ああ、食いてえなあ。
ナセル船が増えたら、真っ先に取り寄せよう。
ああ、丸鋸で板を作る所を見せるの忘れた。
ハンクの土産もだ。
まったくしょうがねえな。
土産だけでも何とか……おっ、いい土産を思いついた。
「料理長を呼べ」
「はい」
ふふふ、俺には現代人の料理レシピが……1つくらいはある。
「失礼いたします」
やってきた料理長、なんか緊張しているのか?
まあいいや。
「ミルクを少し温めて、砂糖をぶち込む。 今度は冷やして凍らせる。 小さめのスプーンで削って食べる。 そんな料理を作れ」
「はい、あの、氷を食べると考えてよろしゅうございますか?」
「そう言っただろう」
「申し訳ございません」
なんだ、アイスは無いのか?
そういやあ、こっちに来てから食った事ねえな。
「夏食うもんだが、温かい部屋で食うのが最高の贅沢ってやつだ。 食べ過ぎると腹を壊すから、グラスに半分だな。 ハンクとお母様にも作って差し上げろ」
「かしこまりました」
少しはおちついたか、あっ、そうか。
「さすがは西の城門町、美味い料理があった。 だが、俺はうちの料理が好きだ。 それだけだ」
「ありがとうございます、ルーラァ様」
ホッとしたような表情に戻った、正解か。
まあ、初めてよそに食いに行って、帰って来るなり呼び出されりゃ、何を言われるかわかったもんじゃない。
そりゃ、ビビリもするわな。
さてと、こっちは片付いたし、王様が先かお姫様が先か、今度こそ勝負だな。
日本で60年、こっちで11年、人生経験の差ってやつをたっぷりと拝ませてやる。
気合を入れていくぞ。
「うっしゃーっ!」
プ~ッ。
す、少し、力が入り過ぎた、うん。




