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ルーラァ  作者: 水遊び
近衛城兵見習い
25/50

第7話ナーン・ドーマ

「ただいま~」

「「「「「お帰りなさいませ」」」」」

 お、お、お、やっぱり、これはテンション上がるわい。


 剣とガントレットは机の上に置いてあった。

 だが、何で爺さんの隣なんだ?

 やる気を考えると、両手に花の状態で仕事をするべきだろう。

 ここはくじを引いて、公平に席替えをだな……。


「何をやっとる、早く座らんか」

「爺さん、空気読もうや」

「また、わけの分からんことを」

「そうだ、木工師、細工師の人に会えないかな?」

「何を作る気じゃ?」

「ソロバンだ」

「ソロバン?」

「うーんと、計算する木のおもちゃ、かな」

「おもちゃだと?」

「ああ、だけど作る為には職人並みの技術がいる」

「ふむ、役に立つんじゃろな?」

「だから、俺を呼んだんだろ?」

「ふーっ、まあええじゃろう」

 爺さんが目で合図をすると、女の子の1人が席を立った。

 ひょっとして、これから呼びに行くのか?


「俺も行く、実際の技術も見てみたいし」

 爺さんをチラリと見るが、呆れた顔はしているものの、反対しない。

 これは逃げ出すチャンスだ、女の子の背を押して早々に部屋を出た。


 ドーマ侯爵がずっとアイスラーに肩入れしてきたのは、王宮内での思惑があっての事だろう。

 俺をここに呼んだのも、俺の発想目当てだと言っていたしな。

 まあ、家庭教師をやってきたから情が移ったって事はあるだろうが、それだけで動くほど宰相は甘くはないはずだ。

 だが、それはそれとして、アイスラーを伯爵にまで引き上げてくれた恩はきっちり返してやるから、まあ楽しみにしておいてもらおう。

 まずは小手調べ、ちょっくら行ってくるか。



「あのさ、ちょっと聞いてもいいかな?」

「はい、何でしょう?」

 改めて見るとけっこう可愛いぞ、この子あたりかも。

 大きな青い瞳はキラキラしているし、えくぼがかわいい。

 20歳前後、僕の妹みたいな雰囲気だが、俺が11だからお姉ちゃんになるのか。


「名前、聞いていなかったから」

「そうでしたわ、改めまして、ナーン・ドーマです」

「ドーマって、ジイさんの?」

「はい、孫です。 いつも祖父がお世話になっております。 ふふふ」

「こ、こちらこそ、ははは」

 なんてこったい。

 つまりあれか、このナーンさんと結婚なんてことになったら、お爺様と呼べとか……。

 ナイナイナイ、絶対ない。


「お爺様は、ルーラァ様をとてもお気に入りのようですよ」

「そうか?」

「はい、私が男の方とお出かけするというのに、何も言われませんでしたから」

「そりゃ、どーも」

「ふふふ」

 おそらく、ガキだとしか見ていないって事だろう。

 ビミョ~だったか、そんな感じだ。

 しかも、話題がない。

 沈黙はまずいだろうし、肖像画の話でもするか。


「これ、スゲーな」

「歴代王の肖像画ですわ」

「ふーん、えっ? こ、これ誰?」

「ああ、魔道師様ですね」

 よく見ていなかったので気が付かなかったが、黒目黒髪のオッサンがいた。

 思わず見入ってしまったが、この顔立ちはどう見ても日本人だぞ。


「絵本の中の人じゃなかったんだ」

「初代国王様と共に、この大陸を統一された偉大なお方です」

 まったく、絵本に色くらい付けとけよ。

 そうすりゃすぐに分かったのに。

 しかし1000年前か、日本だと何時代なんだ?


「黒目黒髪は珍しいよね」

「そうですね、私も第1王女様しか存じません」

 なんだと?

 ちょっと待て、どういうことだ?


「第1王女、って、もしかして……」

「はい?」

「いや、もしかして、魔道師様の子孫とか?」

「魔道師様は生涯独身だとお聞きしましたが」

「そうなんだ」

 なんとかごまかしたが、こいつは……。

 昔のやつはどうでもいいが、第1王女が日本人の可能性大だぞ。

 しかも、ブルーノの管轄とはついている。

 北の塔がどんなところかは知らないが、幽閉か監禁の類だろうし、ここは慎重に行くべきだろう。


「第1王女って、どうして北の塔にいるんだ?」

「さあ、詳しい事は存じませんが」

「詳しくない事は?」

「ふふ、よくないうわさは聞きますが、ブルーノ様にお聞きになった方が正確ではありませんか?」

「そうか、そうだね。 噂に振り回されるのは、おろかもののする事だ」

「はい」

 くそー、さすがに王族の悪口ともなると口が堅いか。

 ここはこれくらいにしておこう。



 正門に出た。

 どうやって連絡したのかは不明だが、既に侯爵の馬車が目の前に止まっていて、それに乗り込んだ。


「フランシードへ、やってちょうだい」

「かしこまりました」

 第2城壁の外が初めてなのは内緒だ。


「そこが木工細工のお店なのか?」

「ええ、子供のおもちゃ専門のお店です」

 大人のおもちゃが頭をよぎるが、慌てて首を振った。


「子供のおもちゃか、大丈夫かな?」

「王子様やお姫様のおもちゃを任せる職人ですよ、最も信頼されていると思いますけど」

「なるほど、これは失礼しました」

「いいえ、それだけルーラァ様が真剣だという事ですわ」

 さすがにフォローがうまいな。

 こりゃいい嫁さんになりそう、いやいや、お爺様は勘弁だ。


 馬車が止まり、外の声が漏れ聞こえてくるのは、第1城門通過だろう。

 そして、第2城門も突破。

 う~、もう我慢できん。

 馬車の窓はほんの少ししか開かないが十分だ。


「スゲー、屋台だ。 焼鳥あるかな? あっ、あっちに露天もある。 ネックレスとか、あるかな? すげー人が多いな。 荷馬車は薪を積んでいるのが多いぞ。 やっぱ寒いんだな」

「ふふふ」

「あっ、初めてなのがバレバレですね」

 しまった、つい1人の世界に入ってしまった。

 ナンの方に向き直り、にが笑いをして会話に戻った。


「私も、12歳になるまでは出してもらえませんでしたからよく分かります」

「そっか、みんな一緒か」

「はい、同じです。 寒い季節は薪が多くいりますから、薪馬車は多いですね」

「なるほど、薪馬車って言うのか。 そうだ、冒険者ギルドってある?」

「冒険者もギルドも聞き覚えはありませんが、食べ物ですか?」

「いや、職業紹介所の様なところだけど」

「そうですね、何でも屋というのはあるようですが」

「何でも屋、なんか聞いたことがあるぞ。 それが近そうだ」

「そうですか、良かった」

 おお、笑顔がむちゃくちゃ可愛いぞ。

 お爺様か……うーん、練習しようかな。



「お嬢様、フランシードでございます」

「着いたようですね」

 馬車を出たら、武装した男達がこちらに正対していた。

 しかも、それに気が付いたのが、嬉しそうに飛び降り、馬鹿みたいに突っ立った後だ。


 頭の中で何かが爆発した。

 瞬時に短剣に手をかけ、殺気を放つ。

 5人、強いのは中央正面。

 突っ込む、だめだ。

 鎧がそろっているから、連携で来る。

 3人を相手しても、2人が馬車か。

 くそっ、油断していた自分に腹が立つ。

 背中を嫌な汗が伝い、焦りと怒りでギリリと歯が鳴る。

 しかし、5人同時では負ける。

 正面に1撃を入れて戻るしかない。

 出来るか?

 いや、やる。


「待て、護衛だ」

 まさに、第1歩を踏み出そうとした時、中央の男が片手を突き出してきた。

 まだだ、まだ。

 ホッとしてしまう心に警戒しろと言い聞かせる。


「ナーン、こいつら本当に護衛か?」

「えっ? ええ、護衛の方ですけど」

 取り囲む5人を1度に視界に納めることは出来ない。

 ひとみを左右に振りながら後ろに聞くと、馬車から下りてきたナーンが不思議そうに答えた。


「ふーっ、すまなかったな」

「いえ、こちらこそ、申し訳ありませんでした」

 護衛かよ、全く脅かしやがる。

 ようやく警戒を解くと、中央の男が額の汗をぬぐった。


 しかし、今のはちょっとやばかった。

 味方だったからよかったようなものの、敵だとシャレにならん。

 ケンカでさえ絶対はないというのに、初めての命のやり取り、どうなっていたか見当もつかん。

 ここは日本じゃない、分かっていたはずなのに……。


 気を落ち着かせる為に深呼吸を一つして、ようやく魔法を思い出した。

 バリアだったか、シールドの方がなじみ深いが、それでナーンは守れたはずだ。

 攻撃魔法なら瞬殺だったな。

 いや、魔法を使える事は知られたくない。

 シールドで守るだけならごまかせるだろうし、今度練習しておこう。


 しかし、焦ったのはこいつらも同じだろう。

 俺が11歳で近衛試験に合格した事はニュースになっているはずだ。

 素手で城兵を倒すほどの腕前となれば、見た目通りのガキじゃない事は知っていたはず。

 守るべき対象から攻撃されたらなすすべは無いうえに、次期伯爵相手に剣を抜くわけにもいかない。

 こりゃあ、悪い事をしちまったな。



「行きましょう」

「あ、ああ」

 微妙な緊張感を察したナーンに手を引かれ、店に入った。

 明るい店内、棚には沢山の木のおもちゃが並んでいて、そのどれにも緻密な彫刻が施されていた。

 更に、ニス等は塗られていないのに光沢がある。

 木工細工は詳しくないが、ものすごい手間がかかっている事は間違いないようだ。


「いらっしゃいませ、ナーンお嬢様」

「こちらはルーラァ・アイスラー様よ」

「これはこれは、お初にお目にかかりますルーラァ卿。 私、フランシードと申します」

 50代だろうか、すらりとした紳士風の人で、職人には見えない。


「爵位はない、ルーラでいい」

「ありがとうございます。 私どもで何かお役に立てそうなものがございますでしょうか?」

「うーん、ちょっと難しいかな?」

「ほう、それはまた、職人の血が騒ぎますが?」

 へえ、言い回しがうまいな。


「俺が欲しいのは完璧な量産品で、最高の技術では無いからな」

「お褒めいただき光栄にございます。 ちなみにどういった?」

「紙とペンはあるか?」

「ただいま」

 ソロバンを説明するのは難しい、建築図面やプラモの図面をまねて書いた方が分かりやすいだろう。

 鳥観図、鳥が空から見た感じの絵にした。

 構図図、部品図と言った方がいいか、竹ひごや球を書いておく。


「この、同じ太さの棒も難しいが、この玉が難しい」

「なるほど」

「お椀を合わせた形、同じ大きさ、中心の穴も微妙だな、動くがガタは少なくだ」

「はい」

「あと、材質はバンブーを使ってくれ」

「湿気による動きの変化を避ける為ですね、なるほど、う~ん。 用途をお聞きしてもよろしいですか?」

「ああ、計算する道具なんだが、出来上がったら見せてやる」

「かしこまりました。 しかし、これは少しお時間をいただきとうございますが」

「分かってる。 この均一玉を作る道具がいるんだろう」

「そのとおりでございます。 全部を手作業というわけにもいきませんので」

 問題点を瞬時に把握できるとは、さすがだ。

 これなら任せられる。


「ナーン」

「はい?」

「いい職人を紹介してくれて、ありがとう」

「どういたしまして」

 可愛く優雅に頭を下げるナーンと、次はデートとしゃれ込みたい。

 やはり、焼鳥は外せないな。

 食べながら色々な店を冷やかす。

 よし、完璧な計画だ。


「町中を少し歩こうか?」

「それはまだ、許されておりません」

「えっ? そうなんだ?」

「馬車の中でお待ちしておりますから、ご遠慮なく」

「ばかな、それならナーンと馬車の中で話をしていた方が楽しいよ」

「あ、ありがとうございます」


 あれっ? ナーンが照れている?

 俺、うまいこと言ったのか?

 もしかして、もしかするのか?

 さっき、戦闘になりかけた時に俺の男を感じたとか?

 それとも、カッコよく職人と話をした事が良かったか?


 いやいや、男の勘違いかもしれん。

 あれは聞くも涙、語るも涙の……いや、止めておこう。

『恋は勘違いである』

 悔しいかな迷言、いや、名言だ。


 しかし、どちらにしても今日はこのまま返せないぞ。

 考えろ、考えろ、考えろ。

 次は何処に行く、何所ならいける。


 それにしても……頬を染めたナーン、いいよ、絶対、いい。

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