爺さんの手紙 12.18挿入
なんてこったい。 まさか10日もたっていたとは、不覚にもほどがあるな。
「アン、こりゃあ何だ?」
部屋に戻って着替えをしてもらっていると、机の上に見知らぬ封筒があった。
「伯爵様からのお手紙でございます。 御出立された際、直接受け取られたのは覚えておられませんか?」
「そ、そうだったな」
ははは、全く覚えとらん。
後でもいいが、気になるし、チラリと見ておくか。
何々、『親愛なるルーラァへ』
何だこりゃ、けつの穴がこそばゆいぞ。
『まずは、城兵試験に合格おめでとうと言っておこう。 思い起こせば100年前、わがアイスラー家は念願の男爵位を勝ち取った』
ちょっと待て。
「アン、爺さんいくつだ?」
「確か、もうじき70歳におなりかと」
「分かった」
ったく、これだから年寄りは困る。
長そうだし飛ばすか。
えっと、『今日まで王族との婚姻を結べないのも、全てテネス侯爵のせいである』
ここらへんか。
あれ、テネスって誰だっけ。
3つある侯爵の1つだったか、それにしてもずいぶん敵視しているな。
しかし、愚痴を言いたいだけならめんどうだし、飛ばすか。
『先の大戦において、わがアイスラーは名誉ある先陣を賜った。 そう言えば聞こえはいいだろう。 しかし……』
おおお、この辺りが面白そうだ。
『これは、軍務大臣でもあるテネスの謀略なのだ。 本体と離され、孤軍奮闘。 勇猛果敢で知られるわがアイスラー兵士達であろうとも、ドーマ兵が呼応してくれなければ全滅の憂き目を見る所じゃやった』
うーん、この辺りは微妙だな。
確か、先陣が戦い、期を見て全軍突撃のガチンコ勝負。
どちらにも言い分はありそうだし、現に城への1番乗りを果たしたとか言っていたから、戦術的には良かったはずだしな。
『それでも、わが兵は城に逃げ込もうとする敵兵の追いすがり、門が閉まる前に1番乗りを果たし、誰にも文句を言わせない戦果を上げた』
ウンウン、聞いた通りだ。
『わが兵達は門の警備に回されたが、第2第3王子は城に突入し、みごと勝利を勝ち取った。 そこまでは良かったのじゃ』
まあ、ここら辺はしょうがない。 当時は男爵だしな。
『スースキ王国の旗も揚がり、戦後処理をしている最中じゃった。 敵の1隊が城壁を遠巻きに囲んだのじゃ。 そして、全方位から、大きな炎の玉が飛んできた。 城の中にいた者は助かったが、城壁内にいた大多数の兵は一瞬で焼け死んだ』
まさか、魔法?
それも集団戦が可能な規模でいるという事か。
こりゃあ、厄介な敵がいたもんだな。
しかし、戦争当初から参戦しないあたりに、何かありそうだな。
今はどうにもできないが、覚えておこう。
『腰抜けの第2王子はすぐに撤退を決めたが、敵は追いかけては来なかった』
おいおい、腰抜けは言い過ぎだろう。
『もうすぐで国境を越えられるという時、第3王子がしんがりで残る事になった。 テネスの入れ知恵でな』
入れ知恵ねー、うーん。
『それというのも、全てに秀でた第3王子に対して、ボンクラと言われる第2王子、テネスはその第2王子を担いでおるからじゃ』
ああ、有りそうな話だ。
え、ちょっと待てよ。
確か、ブルーノは第3王子の専属近衛城兵じゃないか。
こりゃあ、シャレにならんな。
『少数の兵で、追撃してくる大軍を迎え撃てばどうなるか、火を見るより明らかじゃ。 じゃが、命令は命令、従わねばならなかった』
まったくだ。 よく生きて帰れたもんだな。
『しかし、敵の方が1枚上手じやった。 国境付近で待ち伏せにあった。 その報告が来てすぐに向かったが間に合わず、第2王子は戦死した。 隊を分けなければひょっとしたかもしれんが、それは言っても仕方がない事だろう』
そう言う事だったのか。
『第3王子が、万の大軍に囲まれながら生還したと言うのはうそじゃ。 しんがりだったのは事実じゃがな』
まあ、そんな事だろうとは思った。 いくらなんでも出来過ぎだからな。
それにしても、テネス侯爵、ゆるせんな。
『戦後、テネス侯爵は罰せられるはずじゃった。 じゃが、テネス領は南の要所でもある。 責任をいくつかの男爵家の押し付け、生き残りおった。 無論、その代わりに、わがアイスラー家が伯爵位を勝ち取ったのだがな』
ははあ、王宮の駆け引きというやつか。
いずこも同じだな。
『近衛試験じゃが、あれほど強い奴は出てこんもんじゃ、普通はな』
ほう、そこまでやってくれるか。
こりゃあ、このまま済ますわけにはいかんな。
『まあ、お前が倒してくれて、胸のつかえがスーッと取れたがな』
なるほどね。
『相手は巨大だ。 おまえも1人前の近衛城兵だから心配はいらないと思うが、くれぐれも気を付けるようにな』
まだ見習いだけどな。
それに、今は11歳、ガキだ。
叱られて許される年を利用しない手はない。
だいたい、ここまで聞いて、おとなしくなんぞしてられるかってんだ。
何をされるか分からない不安な日々を過ごすより、こっちから仕掛けて反応を見た方が分かりやすいってもんだ。
狙いはテネス侯爵。
敵にとって不足はない。
時間はかかるだろうが、ぶっ潰してやる。




