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ルーラァ  作者: 水遊び
近衛城兵見習い
19/50

第2話 宴会

 今日のパーティーは当家の者だけで行われ、ホールには屋敷の者全員が集められた。

 持ち込まれたテーブルは10、大皿には山のように盛られた御馳走が並び、噂のワイン樽も登場した。

 100人近いメイドや警備の者が周囲を取り囲み、手には銀のグラスを持って、いや、持たされている。

 ピカピカに磨き上げられた銀製品、万が一へこみでも付けたら、いやいや、かすり傷1つでさえ首を切られても文句は言えない。

 勿論、失うのは命ではなく職のほうだが、それでも大問題だ。

 メイドは貴族にしてみればただの使用人だが、庶民から見れば憧れの職場だ。

 メイド食とはいえ庶民では食べられない物ばかりだし、綺麗な服も着られるうえに、3日に1度は風呂にさえ入れる。

 更には、行儀見習いも兼ね、勤め上げればお嫁さん候補として引く手あまただ。

 いかにブルーノの人柄が良くとも、職を失わない保障などどこにも無く、皆両手で捧げ持っている状態だ。

 そのブルーノが声を張り上げた。


「今日はルーラァの合格祝いだ。 警備も給仕も必要ない。 料理を食べろ、ワインを飲め。 遠慮する奴はクビだぞ」

 全く、シャレになっていない事にも気が付いていない。

 自分の冗談に自分で笑いながら、自ら樽の栓をひねりワインをすすめている。

 だが、ご主人様に酒を注がせるなどあってはならない事で、執事のレイダーでさえ頬を引きつらせているし、母親のカロリーネを見ても、苦笑いをしているだけだ。


「ぼくもやる」

 おっと、天才ハンクが空気を呼んだか、ブルーノの元に走り出した。

 ならば、こうしてはおれない。


「じゃ俺も、ハンク、一緒にやろうぜ」

「はい、お兄様」

「ほらほら、来てくれないと暇だぞー」

「ひまだぞ~」

 ブルーノを追いはらい、ワイン樽のコックを仲良く2人でもつ。

 これで、ようやくビリーたちが動き出したが、メイド達にはまだ遠慮があるようだ。


「ハンク、片っ端から連れてこい」

「はい、お兄様」

 はっはー、作戦成功だ。

 ハンクに指を引っ張られたらいやとは言えない、瞬く間に行列が出来る大盛況となった。


「おめでとうございます、お坊ちゃま」

「有難う、それをもう1回言いに来いよ」

「はい、喜んで」

 テーブルにも群がりはじめた。

 おそらく今まで食べた事がなく、この先も口に出来ないかもしれない料理の数々、ワインのお代わりを貰う時以外はテーブルから離れない状態だ。

 ひょっとすると、俺達がいる事すら意識の外にあるのかもしれない。

 かろうじてレイダーがこちらに目を向けているようだが、口がもぐもぐと動いていて様になっていない。


「美味い」「やわらかい」「甘い」「とろける」「旨い」「幸せ」いろんな声が混ざり合い、ざわめきとなってホールにこだましている。

 まあ、みんなうれしそうで何よりだ。

 ブルーノとカロリーネも寄り添って笑顔だ。

 自分でも飲みながらハンクにも飲ませてやると、グビッと飲み干し、「にが~」と言いながらカロリーネの元に行ってしまった。

 抱き上げられたハンクはもはやフラフラで、早々にリタイアとなったが、こっちはこれからが本番だ。


「今夜は徹底的に飲むぞー」

「「「「「おー」」」」」

 1番近いテーブルを占領していたビリーたちが応えてきた。

 ワイン樽をレイダーに任せ、御馳走を頂く事にする。

 これでメイド達もワインを飲みやすくなったはずだが、俺達をほっておくことも出来ない。

 しかも、給仕無用の言い付けもいきている。

 どうするのかと思ったら、ワインを満たしたグラスを俺達のテーブルに置き、空を持って帰るというやり方で問題をクリアーしていた。

 さすがはレイダー、頭の回転が速い。

 俺も安心して、気になっていた事をビリーにぶつけてみた。


「ここにいるのはアイスラー家の下級貴族だよな?」

「それがどうした?」

「他はいないのか? 男爵とか子爵、公爵ってのもあるだろ?」

「ああ、昔は王子が成人すると公爵になったらしいが、公爵家ばかりになったので廃止されたとか聞いたな」

 俺も勉強はしてきたが、ビリーは次期領主としての鋭才教育を受けている。

 そのあたりはビリーに聞くに限ると思ったわけだが、公爵家廃止とは、昔の王様とはいえ大胆な事をしたもんだ。


「そうなんだ、じゃあ男爵とかは?」

「戦争の責任を取って、今回は特に多くの家が取り潰された」

「なんで? そんなことしたらよけいに国力が落ちるだろうに」

「残った家を救う為だ」

「どういうことだ?」

「例えば、アイスラー家も2.000人死んだ。 必要な人達ばかりが、だ」

「あっ、じゃ、それの補充のため?」

「そうだ、取り潰された家の者を吸収して家を維持するためさ」

「何ともひどい話だな」

「そのおかげで伯爵家になったんだから、文句は言えないさ」

「じゃあ、取り上げた領地は?」

「ほとんど伯爵家の直轄領になってるな」

「そっか」

 戦争には人も食料もお金もかかるが、いくら活躍しても負ければ何も入ってこない。

 それが戦争を命じた国王に対する不満や不審に変わるのが怖い。

 だからこそ、無理やり取り潰してでも大盤振る舞いをする必要があった。 まあそんなところだろう。


「で、ここにいるのは生き残った精鋭だ」

 いつの間にか、みんなが俺達の話に注目していた。

 照れたように頭を掻く者や、得意げな顔をした者もいる。

 取り潰すまでもないほど小さいのだろうが、それは言わぬが花だ。


「じゃ、こいつらが活躍すれば分けてやらんといかんな」

「ああ、ドーンと分けてやれ」

「よし、そうしよう」

 さすがビリーだ、みんなを盛り上げリードするのがうまい。

 帝王学だったか、あれの成果だろう。

 となれば、俺も負けてはいられない。


「じゃ、未来の領主たちに乾杯だ。 みんな盃を持て」

「「「「「お~」」」」」 

 皆がグラスを目の前にささげる。

 レイダーが動き出すのを目の端で確認した。


「未来の領主たちに」

「「「「「かんぱ~い」」」」」

 全員が一気にグラスを空にする。

 レイダーが数人のメイドを引きつれ、素早くグラスを差し替える。

 その後ろにも、すでに数人控えている。


「未来の伯爵に」

「「「「「かんぱ~い」」」」」

 更にやって来るメイドの数が増えた。

 ワイン樽にも群がって、次々とグラスを満たしてゆく。

 ならば、あとは飲むだけだ。


「アイスラーに」

「「「「「かんぱ~い」」」」

「スースキ王国に」

「「「「「かんぱーい」」」」」

「国王陛下に」

「「「「「かんぱーい」」」」」

「皇子殿下に」

「「「「「かんぱーい」」」」」

「第2王子殿下に」

「「「「「かんぱーい」」」」」

「王女殿下に」

「「「「「かんぱーい」」」」」

「第2王女殿下に」

「「「「「かんぱーい」」」」」

「第3王女殿下に」

「「「「「かんぱーい」」」」」

「アイスラー伯爵に」

「「「「「かんぱーい」」」」」

「ブルーノ様に」

「「「「「かんぱーい」」」」」

「ルーラァ様に」

「「「「「かんぱーい」」」」」

「ビリー様に」

「「「「「かんぱーい」」」」」


**********************************


 その日から、いや、その時からどれほど時間が経ったのだろう……。


 ある朝、俺達は朝食のテーブルについていた。

 頭はガンガンするし、朝食など見ただけで吐きそうになる。

 二日酔いに効くという苦いお茶まで飲まされ、よけいに食欲がない。

 皆も同様で、頭を抱えていたり、こめかみを押さえたりしている。

 が、それもしばらくのこと。

 潮が引くように痛みが遠のくと、ろくに食べていなかったせいかお腹まですいてくる。


「この苦いお茶は良く効くな」

「毒消しの煎じ茶でございます」

 思わず漏らした言葉にメイドが説明をしてくれる。

 なにはともあれ、久しぶりにまともな食事にありつき、話題となったのが昨日までの宴会の内容だったのだが、まるで記憶が無い。

 日本では、1升瓶片手にコップ酒でじっくり飲む方だったが、ワインのせいか、11歳という体のせいか、全く覚えていなかったのだ。


 何リットル入りなのか見当もつかんが、ワイン樽が空になったのは昨夜、らしい。

 来客があったというからマロンたちだろうが、何を話したのかも覚えていない。

 下級貴族の領主たちも来たが、100人近くもいて驚いた、らしい。

 アイスラー伯爵の爺さんから、合格祝いだといって漆黒の短剣を貰った、らしい。

 それにアイスラーの家紋、サーベルタイガーが入っていて感激した、らしい。

 調子に乗って爺さんに手合わせをせがみ、逆にボコられた、らしい。

 王子殿下までやって来たが、「ピエロ王子だ」と言ってつまみ出された、らしい。

 ヤスギブシとかいう、変わった歌と踊りで場を盛り上げた、らしい。

 アンが好きだと抱きついて離れなかった、らしい。


 まったく、何という醜態をさらしたことか。

 もう、これ以上は何も聞きたくない……。


「ルーラァ様、今日は入隊式がございます。 そろそろお時間です」

 耳を塞ぐ俺に、メイドが10日たった事を告げていた。


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