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ルーラァ  作者: 水遊び
近衛城兵見習い
18/50

第1話 プロローグ

長い間お待たせして申し訳ありませんでした。

まだ書き切れていないので週1の投稿になりますが、新しいルーラァワールド、楽しんでいただければ幸いです。


「試験に合格して近衛城兵かと思ったのに、見習いだとはけち臭い奴らだ」

「そういう決まりなんだから、しょうがねえさ」

 試験が終わり、帰りの馬車の中で思わずつぶやいたが、試験に落ちた従兄のビリーがいるのを忘れていた。

 足を投げ出すように座り、防寒用の毛布を無造作に乗せている。

 こんなにあからさまな態度を見せているのに、その心情に気が付かないとは情けない。

 日本で60年、こちらで11年、無駄に年食ってんじゃねえよ。

 ここは心の中で謝っておいて、話題を変えよう。


「入隊式は1日だろ?」

「ああ、まだ10日はあるな」

「10日は長いよな。 仕方ねえ、その日までみっちり稽古を積んでおくか」

「おいおい、ちょっと待てよ」

 急にビリーが身をのりだしてきた。

 賛成してくるとばかり思っていたので、いささか意外な反応だ。


「なんだ?」

「なんだじゃねえよ。 入隊したら毎日稽古なんだぞ」

「まあ、そうだろうな」

「それに、近衛兵とはいえ、お祝いは必要だろうが」

「それは今夜するだろう」

 ビリーは稽古嫌いなのかもしれん。

 そんな心構えじゃほどほどにしか強くなれんというのに、若いとはいえ困ったもんだ。


「分かってねえな。 外にいる奴らは貴族とはいえ貧乏な奴らばかりだ。 食ってる物だって、近衛兵の粗末な食事とどっこいだぞ」

「そうなのか?」

 馬車の外を歩く10人は、アイスラー領内に住む下級貴族様御一行だ。

 今は居候をしているが、遠い配属先だと出て行かなければいけない。


「ああ、あいつらが贅沢できるのはこの10日間だけだって事だ」

「なるほど」

 ようやく納得した。

 ビリーの個人的欲望から来ているとはいえ、そういう事情なら話は別だ。

 ここは派手にパーッと行くべきだろう。

 勿論、稽古なんて無粋なまねもやめだ。


「なら、ワインがいるな」

「そうとも、馬乳酒なんか子供の飲み物だ」

「10日で樽ひとつ、飲めるか?」

「まかせろ」

 馬乳酒はスープの一種で、ちょいと癖はあるものの、慣れてしまえば子供でも飲める。

 胸をドンと叩くビリーには笑えるが、ともかく10日間飲みまくる計画が決まった。



「お帰りなさいませ、お兄様」

「ただいま~ハンク」

 家に帰ると、大勢のメイドと共にハンクが迎えてくれた。

 駆け寄ってくる姿がかっこいい。

 足を前に出すだけでなく、後ろ足でしっかり蹴っている。

 両手のふりを手直ししてやればもっと早くなるはずだ。

 うむ、ハンクは天性のスプリンターに違いない。

 ハンクの為に運動会を開こうか、いや、いっそのことオリンピックを作るか。

 片膝をつき、飛び込んできたハンクをハグし、そのまま抱き上げる。


「今日は何をして遊んでいたんだ?」

「きょうはね、ごほんをよんでた」

「そりゃすごいや、どんなご本だ?」

「へへ、まどうしさまのごほん」

「魔道師様か、かっこいいな」

 ハンクを片腕に乗せ、魔道士の活躍を聞きながら部屋に向かうのが楽しい。


「ルーラァ様、先ほどからお客様がお待ちですが、いかがいたしましょう?」

「客? 名前は?」

 メイドの言葉に顔を向けるが、こんな日に客とは珍しい。


「マロン様とおしゃる方です」

「会おう。 ハンクお客様だ、後で遊ぼう」

「はい、お兄様」

 聞き分けの良いハンクを下し、頭をなでてやる。


「どの部屋だ?」

「ご案内いたします」

 部屋数が多すぎて、聞いただけではわからない。

 番号を付けるか、いや、部屋の名前を考えた方がいいな。

 廊下を歩くと、すれ違うメイドが頭を下げる。

 これだから顔が覚えられないのだが、前を行くメイドは、俺が来客と会う事を小声で伝えながらすれ違っている。

 この情報が担当のメイドに伝えられ、部屋にいる人に合ったお茶やお菓子などが運ばれるんだろう。


「待たせて悪かったな」

「とんでもございません。 ご無沙汰いたしております、ルーラァ様」

「そちらは?」

「家内のチェリーにございます」

 メイドが開けた扉を抜けると、以前より日焼けしたマロンが女性を連れていた。

 20代後半といったところか、御多分に漏れず金髪碧眼の美人さんだが、大きな瞳に力がある。

 マロンが40近いから随分歳は離れているが、可愛いだけではなさそうだ。

 それが証拠に、全身がうっすらと光っていて軽く会釈をしてくる。

 吟遊詩人ブーログだったか、あいつの関係者だって事だろうが、全く敵か味方か分からん奴だ。

 メイドの中にも2人光っている奴がいるが、光り方がメイドよりも少し強い。


「お初におめもじ仕ります」

「これはまた、御丁寧なお内儀だ。 座ってくれ」

「失礼いたします」

 俺はソファーに深く座り、背もたれに体を預けながら人となりを観察する。

 伯爵家の長男だから当然の態度だが、11歳の子供でもある。

 生意気だという気持ちが顔に出るかどうかかを見ているわけだ。

 チェリーはスカートの裾を気にしながら、斜めからそっと腰を下ろす。

 座るしぐさが丁寧というか上品な感じだ。


「それで? 今日は異国の妻を自慢しに来たのか?」

「とんでもございません。 ですが、お分かりになられますか?」

「雰囲気が違うからな、何かお祝いをせねばな」

「いえいえ、ルーラァ様こそ、近衛城兵試験合格おめでとうございます」

 笑顔で話すマロンだが、試験結果はまだ貴族しか知らないはずだ。

 誰から聞いたのかなどと詮索するのは、まあ野暮というものだろう。

 それに、どう見てもマロンの顔はにやけているとしか思えない。


「幸せそうで何よりだ」

「ゴ、ゴホン」

 いたずらぽい視線を送ると、わざとらしい咳払いをして、20センチ角ほどの木箱をテーブルに置いた。

 かなり重そうな感じで、底板に箱がかぶせてあり、太い飾り紐が十字にかかっている。

 目線で何かと尋ねると、ニヤリとした笑顔が返ってくる。

 飾り紐をもったいぶった仕草でほどき、かぶせてある箱を丁寧に外すと、台座の上には銀色の石が輝いていた。

 ごつごつとした岩と言った方がいいだろうか、キラキラと光を反射していて、思わず身を乗り出してしまった。


「これはすごい。 初めて見たが、銀塊か?」

「はい。 しかもただの銀ではございません。 どんな高温でも融けない銀にございます」

 もはや、観察もへったくれもない。

 話はしていても、眼は石にくぎづけだ。


「融けない銀だと、もしかしてプラチナか?」

「プラチナというのでございますか? 変わらぬ愛、変わらぬ忠誠心という意味がございます」

 心をひきつける原石の魅力とでもいうべきか、手に持てばいいものを、置いたまま覗き込むように見てしまう。

 直接触れる事も躊躇われ、台座を回して色々な角度からの景色を楽しむばかりだ。


「ふむ、それならチェリーが持ってきた物だろう。 もらってもいいのか?」

「おそれながら申し上げます」

「なんだ?」

「はい、この石は出世石とも呼ばれております。 領民から領主、領主から国王へと渡り、そこにかかわる者達に幸せと出世をもたらすという、縁起物にございます」

「なるほどな」

 チェリーが口を挟んできて、顔を上げた。

 しかし、これはどうしたものか。


「う~ん」

「ルーラァ様?」

「ちょっと黙ってろ」

「申し訳ありません」

「う~ん」

 マロンが心配顔のチェリーの手を取り、笑顔で心配ないと告げていた。


「う~ん」

「う~ん」

「す~」


『気が付くと、見た事があるような、無いような天井だった』


 どうやら応接ソファーで眠っていたらしく、毛布が掛けられていた。

 傍にアンがいる、起こしに来たのかもしれない。


「マロンたちはどうした?」

「明日再びお見えになられるそうです。 同じくらいの時間がよろしいかと、お伝えいたしましたが……」

「ああ、それでい」

 体を起こし、変に凝り固まった体をほぐす。

 しかし、どうしたものか。

 新しい炉を作り温度を上げれば融けるだろうし、白金貨として金の100倍の価値だと決めてしまえ ば、国家規模の大金持ちだ。

 だが、それは今必要だろうか?

 出世石、花言葉の様に夢が詰まった言い伝えも大事にしたい。

 やはり話さない方がいいのか。

 しかし、黙っているのも騙しているようで後味が悪いし。


 いや、まてよ。

 科学技術は後れていても職人は職人、融けない銀を溶かす試みはしているはずだ。

 それでも融けないとは……。

 登り窯くらいしか思い浮かばんが、それで融けるものなのだろうか?

 そもそも、プラチナは何度で溶けるんだ?


「う~ん」

「ルーラァ様、お夕食はいかがいたしましょう?」

「もうそんな時間か?」

「皆様お待ちです」

「あちゃー、すぐ行く」

「かしこまりました」


 今日はそれどころじゃなかった。

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