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ルーラァ  作者: 水遊び
ガキってのは、楽しければいいのさ。(15.07.05改)
17/50

第16話 試験

 今年の受験生は例年の二倍いるため、試験は二日に渡って行われる。

 一日目の早朝から学科試験があり、午後からの実技試験の順番が工夫されている。

 遠方からくる貴族は一日で終わる様にその日にあり、俺は近いから二日目になっていた。

 近いも何も第一城壁内にある伯爵の屋敷に移った為だが、とても便利。お城まで歩いていける。同じ町内、ご近所様だ。

 

 今年も遠方から試験を受けにきた下級貴族の宿泊場所のようになっていて、その中にはビリーもいた。

 ブルーノが家を継げば、ビリーは近衛騎士に成るしかないからだろう。

 だが、同情はしない。

 それは兄さんに対して失礼というものだ。

 男は、女もだが、与えられた条件の中でいかに生きるかが問題だ。

 ビリーは条件が悪いからと言って愚痴るような腑抜けじゃない。

 だから、応援はしても同情はしない。

 それでも、兄さんは兄さんなわけで、お客の中では特別待遇だ。

 専用のメイドもつくし、すぐそこの城に行くのにも馬車となる。

 メイド達も大変そうだが、数が一気に増えた。百人ぐらいいそうだが、ちょっといい加減、多分それくらいだ。

 メイドの中では執事のレイダーが一番偉いのは変わらないが、アンナの下にも十人いる。若くてかわいいメイドもいるが、アンナの方が安心できるのは仕方ないか。

 もう少し落ち着いたら、かたっぱし……いや、独り言だ。


 一日目の学科が終わった。

 難しそうなのもあったが、どっちかというと文字や簡単な計算が出来るかを見るようだ。

 白い紙だった。マロンが頑張ったんだと思うと何故か嬉しい。

「金の王冠が本物かどうかを見分ける方法と、理由を書け」

「天秤はかりに同じ重さの金を乗せて吊り合わせ、そのまま水につける。不純物が混じっていると比重が違う為、水中だと傾く」

 これは俺でも知っている『アルキメデスの原理』だったか、有名な話だ。

 ただ、比重ってのが……。

 失敗したのは円の面積。

 あんな面倒な数式は正直覚えてられん。

 白紙もなんなので3.14で計算しておいたが、爺さんには叱られそうだ。


 午後の実技では、家に泊まっている奴の応援をしたが、みな駄目だった。

 そんな中、ビリーはいい動きをしていた。

 去年とは段違いで、見事な戦い方で一次試験を通った。

 だが、二次試験で問題が発生した。

 相手はクマみたいな奴で、身長が二メートルを越え、がっしりとした体格は岩を連想させるほどだ。

 技もへったくれもねえ奴で、防御の上からでもガンガン叩いてくる。

 馬鹿力ってやつを久しぶりに見た気がするが、ガントレットを付けたビリーの左腕から鈍い音がした。

 ひびが入っただけならいいが、折れると厄介だ。

 手術なんてないから動かなくなる可能性もある。

 早く治療の魔法をかけたかったが、考えてみたら骨折に効くかどうか試した事が無い。

 焦っているところで審判が不合格を宣した。

 だが、ホッとしたのもつかの間、クマやろうは聞こえないふりをして攻撃をやめなかった。

 さすがに頭部は避けたようだが、気を抜いたビリーは首筋へ一撃を避ける事が出来なかった。

 更に許せないのは、弾き飛ばされ気を失ったビリーを踏みつけやがった事だ。

「やってくれるじゃねえか、近衛城兵になったら真っ先に潰すから覚悟しておけ」

 ビリーに駆け寄り、そっと治療の魔法をかけながらその後姿を目に焼き付けておいた。


 その夜、ビリーのように近衛兵になる者はそのまま泊まったが、一旦領地に帰って親と相談するやつもいる。

 泊まる者は、明日は伯爵家の坊ちゃんの応援に来ると言う。

「俺かい!」

 誰の事かと思ったら俺だったが、うーむ、自分で突っ込みを入れるのは虚しい。

 彼等はそのまま居候になるのだろう。

 下級貴族の面倒を見るのが当然とはいえ、やはりここは『よいしょ』しておくのがいい。

 その気持ちよく分かる、うん。


 翌日の試験は、城兵が使うガントレットと短い木刀が渡されて試験開始だ。

 一次試験は近衛兵が木刀で攻撃してくる。

 攻撃を防いだものだけが合格するが、十人位が一度に試験を行うものの、大抵は十秒もたたずにやられて終わる。

 二次試験は、近衛城兵が立ちふさがる。

 今度は一本取らなければ合格しない。

 さて、対戦相手はと思ったら、昨日のクマ野郎だ。

 ここで会ったが百年目ってやつだ、天の配剤に感謝したぜ。

「おりゃ身内にゃ甘いが敵には容赦しない性分でな、覚悟しろよクマ野郎」


 試験が始まったのに、クマ野郎は余裕の笑みで突っ立っている。

 合格する為には一本を取らなければならない。

 短い木刀なら当然届くところまで近づく必要があり、動けばすきが生まれる。

 力の差をいかすなら、攻撃してくるところを逆に弾くことですきを作ってもいい。

 どちらにしても相手に攻撃させ、そこを持ち前の力で一気に決着を付けるつもりだろう。

 だが、俺を相手にそれは致命傷だぜ。

 俺は合格は二の次で、お前を潰したいだけなんだから……。

 基本どおりに打ち込むと見せかけて、膝をめがけた前蹴り。

――ガコン――。

 伸びきった足、膝の正面から打ち込めばそこが急所になるとは知らんだろう。

 皿を割る予定だったが、無駄に頑丈な奴だ。

 だが、数カ月は痛くて曲がらないはず。

「それで明日からお仕事が出来るかな?」

 ざまあみろだ。

 倒れ込み、膝を抱えて苦しむクマ野郎を見下ろしてやった。

 しかし、審判はまだ試合を止めていない。

 偶然だったとでも思っているのか、見る目のない奴だがこの際有り難い。

 クマ野郎が足をかばいながらも起き上ってくる。

「『結納返しは十倍返し』って知っているか?」

 そう言いながら、十分に腰に溜めた正拳を鳩尾みぞおちにたたき込んだ。

「せいやー!」

――グボッ――。

 手首を保護するガントレットは有り難い、折れる心配がないから全力で打ち込める。

 きっちり拳一つ分めり込ませてから引き抜くと、クマ野郎が前のめりに倒れてくる。

 俺は余裕で体を横に開いた。

――ズシーン――。


 どんな気分だ?

 素人に、それも、ガキに、しかも、素手で負けた気分は?

 気を失ったクマ野郎を見て、審判が合格を宣言した。

 これも有りだったか、もうけたな。

 応援に来たやつは勿論だが、見ていた近衛兵も城兵も大騒ぎとなっている。

 まあ、無理もない。

 十一のガキが、クマみたいな城兵を素手で倒したんだからな。

 だが、これで終わりじゃない。

 介抱する兵士には勿論のこと、周りの者達にも聞こえる様に言ってやった。

「気を失っているだけですから心配いりませんよ。ちゃんと手加減してありますから大丈夫です」

 はっはー、これが何を意味するのか分かるか?

 クマ野郎は、ただ負けたんじゃない。

 俺みたいなガキに手加減されたんだ。

 クマ野郎は、目が覚めた時におそらく油断したとかなんとか言うだろう。

 ひょっとすると、偶然だとか、反則だとか。

 だが、ガキに手加減されていたと知ったら……。

 ふっ、言ったろ、敵には容赦しないって。

 しかし、こいつは本当に城兵なのか?

 強いには強いが、レイダーの方がよっぽど上だと思うがな。

 待てよ、じゃ、レイダーってなにもんだ?

 うーん、まあいいや、味方で良かったというところだ。

 ともかく、これで明日から近衛城兵だ。

 と、思ったら、見習いの文字が付くらしい。

 まったく、けち臭い奴らだ。




――――――――――――第1章完――――――――――



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