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ルーラァ  作者: 水遊び
ガキってのは、楽しければいいのさ。(15.07.05改)
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第14話 敗戦

「ハンクを鍛えよう大作戦を実施する」

「はい、お兄様」

「覚悟はできているな?」

「はい、お兄様」

 ハンクの部屋で特訓は始まった。

「気をつけ」

 背筋は伸ばし、顎は引く。

 両手は体の横で、指は開かない。

 かかとをそろえ、足は四十五度に開く。

「敬礼」

 右手を拳にして左胸に当てる。

 左手はそのままだ。

「直れ。では特訓を始める」

「はい、お兄様」

「真剣勝負だ」

「はい、お兄様」

「「にらめっこしましょ、笑うと負けよ、あっぷっぷ」」

「「………………」」

「「………………」」

「ぷっははははー、ハンクの顔面白いぞ」

「きゃははー、お兄様の顔も面白です。だけど僕の勝ちです」

「うーん、悔しーぞ。ハンクもう一回勝負だ」

「はい、お兄様」


 笑いたいという心の最奥の叫びなる物を本性と呼ぶとするならば、これを理性で抑え込む事こそ、人間が人間として生きる為に最も優先されるべき課題であり、この極限状態を克服してこそ真の喜びに到達しうるという純然たる真実をここに理解する事が、この特訓の真の目的なのだ。


 と、偉い人が言っていた……という話を聞いたことが……あったかも知れん。

 うーむ、自分でも何を言っているのかさっぱり分からん。

 何はともあれ、ハンクの特訓は始まったばかりだ。


 コタロウに鞍を置いた。

 レイダーが珍しく、いや、初めて散歩に行くと言い出したためだ。

 以前に言った言葉はさっさと撤回した。それはもう、綺麗に、すっぱりと。

 鐙が無いせいか、裸馬と変わらない気がするのは俺だけなのだろうか。

 なにはともあれ、初めて屋敷から出るといのだ。俺はもう、コタロウと力いっぱい草原を駆け巡る気でいた。

 ところが……。

「レイダーは馬に乗らないのか?」

「私は執事でございますので」

 だよねー。

「走っちゃだめなのか?」

「緊急時以外は歩く物です」

 だよねー。

 コタロウのくつわを取ってレイダーが歩く。

 コタロウも歩く、当然、その上の俺もポックリポックリお散歩だ。

 ハイハイ、もう何も言いません。

 お散歩に行くと言ってました、はい。

 門を抜けると石畳。

 両脇の屋敷は敷地が広く、一つが町内ぐらいの広さがある。

 人通りは結構あって、馬に乗ったじいさんが何人も歩いている。

 そして、それ以上に多いのが使用人達だ。

 忙しそうにしている人や、のんびり話をしながら歩く人など、人が途切れないほどの賑わいだ。

 そして、食材や家具などを積んだ馬車が通る。

 人が乗る馬車にはおそらく貴婦人がいるのだろう。

「結構人がいるな」

「はい、近衛兵の家族は皆この区画に住んでおりますので」

「近衛兵ってそんなに多いのか?」

「戦闘が苦手な方は事務をなさいますので」

「事務職も近衛兵か、ちなみにみんな貴族だよな?」

「勿論でございます。読み書きが出来なければ務まりませんので」

 まあ、そんな事だろうとは思っていた、貴族社会だからな。

 お屋敷には、爵位を持たない貴族が大勢居候しているそうだ。

 俺達みたいに一家族というのは珍しいらしい。


 空にそびえるお城が近くなり、第一城壁が広がっていく。

 この奥には、上級貴族のお屋敷と騎士団本部などがある。

 振り返ると第二城壁。

 ここまでが貴族の住む所で、密かに期待していた屋台などは第二城壁の外らしい。

 城壁沿いに進むと、荷物の出し入れをする裏門が見えた。

 荷物を積んだ馬車が、検査待ちで行列となっている。

 戦争中だから余計に厳しいのだろうが、城門の中に入れるのは代表一名だけで、馬車は近衛兵が引き継いでいる。

 あぶれた従者たちが、壁際にたむろしていたが、その中に光る人間を見つけた。

 思わず緊張したが、向こうもこっちに気が付いたようで、軽く会釈をしてくる。

 吟遊詩人、なってったっけ、ブーログだったか、仲間か……。

 ブーログを含め、魔族と呼ばれている者達で間違いないだろが、吟遊詩人や商人に化けて、何をしているんだか。

 ちょうど通り過ぎようとした時、出てきた代表者もまた光っていた。

 軽く会釈をするのを目の端でとらえ、何事もなかったかのように過ぎたが、今は戦争中。まさか、第一城壁の中まで入っているとは……。

 こりゃ、敵に回すとかなり厄介だな。

 とりあえず、今は様子見しかできないか。

 更に半周で正門に出たが、門番がいる以外は閑散としたもんだ。

 お散歩は、第一城壁沿いに一周して終わった。

 ここは誰それの屋敷とか、レイダーの説明を受けながら一時間以上はかかった気がするが、「どんだけ広いんだここは」って感じだな。

 終わってみると、いざ戦闘となった時の為に地理を頭に入れる事や、城壁の損傷個所などをチェックしていたようだ。

 ただの散歩じゃないとは思っていたが、ほとんど覚えていないのは黙っていよう。


 戦争が始まって半年後、ブルーノが帰ってきた。

 右頬に傷があったものの、無事に帰ってきてほっとしたが、戦争は負けたらしい。

 何やってんだって感じだが、ブルーノが無事なら他はどうでもいい。総勢三万の軍で、帰ってきたのはわずか五千。戦争は詳しくないが、これは全滅に近いんだろう。

 第二王子も戦死したらしい。

 王国にとっては大変な損失だろうが、まあそれは王宮の問題だ。

 こっちの問題は、返ってこなかった軍の中にアイスラー軍二千が含まれていた事、そして伯父さんが亡くなった事だ。

 働き盛りの男が二千人もいなくなったアイスラー領も大変だろう。

 それに、ひょっとするとお父様が次期領主かもしれない? そこらへんはまだ分からないが、まあ大変そうではある。

 敗戦とはいえ、戦功報償は行われた。

 第二王子を守れなかった領主は軒並み罰せられたそうだ。爵位剥奪や、領地の没収も多かったらしいが、その分を少しでも手柄の有った領主に振り分けられた。

 その中でも一番の手柄は先陣を務めたアイスラー軍で、敵王城に一番乗りを果たしたそうだ。

 城を落としたまではよかったが、逆襲で一気に負けたらしい。

「城を落としたら勝ちじゃないんかい?」

 やはり突っ込みは関西弁に限るが、訳が分からん。どんな戦争だったのか、ぜひとも聞きたいところだ。

 それはともかく、伯父さんの功績で祖父が伯爵となり領地も五倍に増えたそうだ。

 しかし、国に納める税金もハネ上がるうえに、人がいないときている。爺さんが健在とはいえ、大変なのは間違いないだろう。

 地下室の金貨もいよいよ役立つ時が来たかもしれん。

 そんな事を思っていると、近衛城兵の試験を受けろと言われた。

 まだ十一なのにと思ったが、近衛兵も不足していた為一年繰り上がったそうだ。

 なんとも間の悪い話だが、断るという選択肢は与えられていない。

 まあ、愚痴っていても仕方がないので金貨の事をお父様に話した。

 今が最大の使い道だと判断したのだ。

 しかし、返って来た返事は、

「ルーラァの代になるまでとっておく」

 おいおい、聞いたか? 今の言葉。

 喉から手が出るほど欲しいはずなのに、とっておくだぞ。

 見直したぜブルーノ、いや、お父様。


 そのお父様もまた、敵兵に囲まれる中、イタリナ王子を守り切った功績が認められ、第一王女の専属城兵隊長になった。

 最強とうたわれる近衛兵より城兵は強く、城兵より専属城兵は上で、その隊長って、もしかしなくてもすごい。

 同じ職場か、仕事っぷりをとくと拝見させてもらおうか。

 まあ、あっちも同じことを思っているんだろうけど……。

 おっと、その前に城兵試験に受からねえとな。

 稽古して、それからハンクと特訓再開だ。

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