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ルーラァ  作者: 水遊び
ガキってのは、楽しければいいのさ。(15.07.05改)
14/50

第13話 戦争

「戦争はいけない事だ」

 そう言っている奴から殺されるのが戦争だ。平和を求めるなら、戦争をして世界を統一するしかない。その上で武器を取り上げれば、多少は長く続くだろう。

 などと暢気のんきに構えていたら、ブルーノが出兵する事になった。城兵が外に出てどうするって話だが、ブルーノは第三王子の専属騎士十名の中の一人らしい。

 そう言えば、以前出世したとか言っていた気がする。

 第三王子の名は、イタリナ・ク-ヤ・ハニカナル・スースキ。

 家系図のおかげで頭には入っているが、何でこう長い名前だ。イタリナ王子だけでいいだろう、ピエロだし。

 夕食後のデザートタイムでブルーノから話があったわけだが、食卓は一気に静まり返った。

 それはそうだろう、戦争だろうがなんだろうが所詮は他人事だ。それが一転、家族が殺し合いに行くとなれば笑ってられるか、って話だ。

 対面に座るお母様はまなざしを落とし控えている雰囲気だ。既に知っているとみていい。

 横に座るハンクはきょとんとしている、可愛い奴だ。

 となると、俺に聞かせるつもりなのだろう。

「今回の戦争には、第二第三王子共に軍を率いられる予定だ」

「……」

 ブルーノは淡々と話し、静まりかえった食堂で声が響く。

 王子が出兵するから大丈夫だと言いたいのだろう。

 しかし、俺に言わせりゃ王子なんかただのど素人にすぎない。

 餅は餅屋に任せて、素人はすっこんでろって話だ。

『大丈夫かいな?』

 大阪弁で突っ込みたいところだが、今はそれどころじゃない。

「二千の兵を率いた伯父さんもそばにいるから心強いぞ」

「……」

 そばにいるだと? 

 専属騎士がいて、近衛兵もいる。公爵軍や侯爵軍もいるなら、男爵家の兵が王子のそばにいるわけが無い。

 それで心強い?

 まったく、ため息しか出てこないのは俺だけか?

 ブルーノは俺の顔色を見たのか、おそらく俺を安心させる為に話を続けた。

「今回の戦いはレンカ王国と同盟を結び、カメリア王国に攻め込む。レンカが六万、こちらは三万の大兵力だから大丈夫だ。それに陸路からも、海路からも攻め込むから勝利は間違いない。安心しておけ」

「――はい、お父様」

 あきらめた方がよさそうだ。子供が何を言おうが、何も変わらないだろう。

 それなら、せめていいお返事で終わり、気持ちよくとまではいかないが、送りだすのがやさしさというものだろう。

 それに、気になったのは兵数だ。

 三万の兵しか出せないのだろうか? レンカ王国に比べてスースキ王国が小国なのだろうか?

 以前見た地図では、他国と変わらない大きさだったように思うが、こうなると信憑性がなくなる。

 生まれ変わっても小国とは、いじめか?

 まあ、人口密度が低い可能性もあるし、そうと決まったわけでは無いんだが……。

「ルーラァ、留守は任せる」

「はいお父様、御武運をお祈り申し上げます」

「武運か、いい言葉を覚えたな。ハンクも頼むぞ」

「はい、ごぶうんをおいのりします」

「うむ」


 翌朝、まだ空が明るくなる前にブルーノは家を出た。

 勿論みんなでお見送りし、一人ずつ抱き合った。

 男に抱きしめられても嬉しくはないが、今回ばかりは別だ。

「死んだら怒るよ」

「そりゃ大変だ」

 耳元で言葉を交わして送り出した。

 しかし、もしブルーノが死んだらどうなる?

 この屋敷から出て、アイスラー領に帰るか。

 俺やハンクは気にしないだろうが、問題はカロリーネだ。男社会で寡婦かふの立場は弱い。

 いい女だし再婚の話はあるだろうが、そうなるとそいつがオヤジか?

 ブルーノでさえ、父親と認めるのには抵抗があるというのに、こりゃあごめんだな。

 無事に帰る事を願おう。


 ブルーノを送り出してしまえば、いつもの生活が待っている。

 どれほど心配したところで、毎日の生活は変わらない。

 戦勝祝いの準備をする気の早い商人もいるらしいが、目立たない様に小麦の備蓄をするように言うくらいだ。

 変わった事といえば、ドーマ伯爵が毎日来るようになった事くらいか。

 だが、近衛騎士としての心構えや、礼儀作法などつまらん話ばかりで嫌んなる。

「近衛城兵になったら面白い物を見せてやる」

 そう言ってはいたが、耄碌もうろくしていそうだし忘れるだろう。

 頑固ジジイだから誰にも相手にされず暇なのに違いない。

 まったく迷惑な話だ。


 レイダーの稽古は本格的に真剣でやるようになった。

 ガントレットが様になって来たかららしいが、さすがに怖いし重い。

 切るというより叩きつける感じだが、メインは突きだろうな。

「なあレイダー、右手にもガントレットを付けるというのはどう思う?」

「それは構いませんが、理由をお聞きしても?」

「うん、左手だけで受けていると体勢が崩れる。右手だけの攻撃では単調になってしまう。こんなとこかな」

「なるほど、でしたら左手にも武器を持つというのも面白そうですね」

「おお、二刀流か」

「はい、ルーラァ様の場合、空手でしたか、その動きが御得意のようですので、左の攻撃も可能ではないかと」

「なるほど、よく見てんな」

「人それずれ、得手不得手という物がございます。得意な動きを伸ばすのが一番早い上達法にございます」

「ほー、所変われば、というやつか」

「はて?」

「いや、色々あるという事だ。ともかくやってみよう」

「はい、ルーラァ様」

 ガントレットを右手にはめ、ついでとばかりに足の甲にも鉄板を入れてみた。

 そして、ようやくレイダーに勝った、というか蹴りを入れた。

 振り下ろしの剣を腕を交叉したガントレットで受け、横に倒しながら足刀をかましてやった。

 剣をつかむ事で逃げ足を殺したのだが、決まったのはその一回だけで二度と同じ手には乗らなかった。

「くそー」

 重すぎて肝心の足運びが遅くなるため、足の鉄板は外した。

 だが、これからは二刀流で行く。

 みてろ、いつかきっとレイダーを越えてみせる。

 やる気はあるんだよな、実力が無いだけで……。


 稽古が終わればかわいいハンクとお遊びだ。

 こっちから押しかけなければ、いつまでたっても会わせてもらえない。

 兄弟は仲良くしましょうって習わなかったのか?

 二階の長い廊下の端から端までかけっこだ。

 来客エリアの部屋は立ち入り禁止。

 来客がある時は廊下もだが、これ、見つかってしかられるまでは立ち入り禁止と教えた。

 そして、忘れてはならないのが、階段すべり。

 階段は降りる物では無く、手すりを滑るものだ。

 賢いハンクはすぐに覚えた。

 手すりに抱き付く様に跨り、スーッと降りてゆく。

 しかし、まだ詰めが甘い。

 手と股でスピードを調整し、最後に止まらなければならない。

 さもなくば、手すりの下端の丸い支柱に激突する。

…………チーン…………。

「びぃえーん」

 よしよし、分かる、分かるぞハンク、その痛み。

「なおれ、なおれー。そして、痛いの、痛いの、飛んでけー」

 とりあえず涙を拭いてやり、おんぶしながら階段を上る。

 泣き止んだら二人乗りだ。

 今度は俺が下だから問題ないと思ったら、

「危ない! 何をやっておられるのですか、ルーラァ様」

 ハンクの泣き声を聞きつけ、やって来きたアンナに止められた。

 うーむ、ハンクが泣き虫なのも原因の一つか。そう言えば、感情を抑えるのは俺でも大変だった。

 仕方あるまい、ここは兄が一肌脱ごうではないか。

 そうとも、ハンクを救えるのは俺しかいないのだから。可愛い弟の為に、心を鬼にして鍛えてみせよう。

 泣くなよハンク、しっかりと堪えてみせよ。お父様も草葉の陰から、いやいや、縁起でもない。爺様、も、生きてるか。

 御先祖様が見ておられるぞ。

――「はい、お兄様」――

 感動したハンクは、特訓の前に武者震いを覚えた……。

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