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ルーラァ  作者: 水遊び
ガキってのは、楽しければいいのさ。(15.07.05改)
13/50

来客その2

 その夜の夕食会では、「ビリーならば合格間違いない」などと、かなり上機嫌のお客たちだった。

 ちなみに、下級貴族様御一行は別の食卓のようだ。

 子供達は話題が振られない限り聞き役で、退屈そうな態度を見せないのがマナーだと、アンが言ってた。

 もっとも、アイスラーの魔物事情とか、王宮内の政治情勢など、俺にとっては興味津々の話題ばかりで、退屈はしない。

「明日は稽古に付き合え」

「はい、ビリー兄さん」

 話題が途切れるタイミングで話しかけるのは、田舎貴族ととはいえ、場慣れしているのだろう。

 随分と高飛車な奴だが、それくらいでないとアイスラーでは生き残れないだろうから許しておいたのだが……。

 翌日手合わせをして驚いた。

――弱い――。

 まあ、十二歳にしては強いのかもしれないが、それにしても弱い。

 攻撃が単調で、見え見えだ。

 ガントレットで受けるというより、ガントレットを出すとそこに攻撃してくる感じで、城兵となって鍛えた者も受ける試験だろ、合格するとはとても思えない。

 それでも明日が試験だし、自信を無くされても困るので、気づかれない様に負けてはやった。

 俺達の後は、取り囲むように見ていた下級貴族たちの稽古だ。

 俺がビリーに負けたのを見た為か、手合わせを言い出してくる奴はいなかったが、こっちも弱い。

 何とかそれなりという感じではあるが、基本がまるで出来ていない。

 こちとら基本しか知らないが、そう言えば、レイダーも基本動作は教えてくれないな。

 もしかして、そういう事は考えていない……。

 まてよ、対する相手が魔物と人との違いかもしれんな。

 例えば、足を大きく踏み込む。

 力の乗った一撃は魔物には効果的だろうが、すり足になっていなければ、足が空中に浮く分だけ到達が遅れる。

 剣先も同じだ。

 剣先は相手の体の幅以内で動かすのが基本だ。

 胴を打つ時でさえ、相手の体側ギリギリを通り打ち下ろす感じになる。

 体の幅から離れる分だけ、到達時間がかかるからな。

 こいつらの様に剣を水平に振り回すなんざ、小学生の剣道大会でも一本にはならんぞ。

 こんな物で合格するなら、かなりレベルが低いと言わざるを得ない。

 微妙な顔をしていたのだと思う。

「さすがでございます」

 いつも稽古を付けてくれるレイダーには褒められたが、何とも複雑な気分だ。



 その翌日、予想通りというか、全員試験には落ちたらしい。

 まあ、そりゃあそうだろうな。

 ビリーは近衛兵とはならずに帰る。

 領主となる為の勉強をするとか、なんつたっけか……低能じゃない、帝王学だ。

 人には向き不向きがあるし、俺もその方がいいと思う。まあ、口には出せなかったが。

 その夜、王宮では晩餐会があったが、爺さんたちは翌朝早くに慌ててアイスラーに帰っていった おしゃべりアンの情報によると、戦争が始まるらしい。

 全く、さらっと怖い話をしてくれる。

 どうする?

 っても、俺が行くわけじゃないし、子供だしな。

 まあ、成る様になるか。



 男爵御一行が帰った翌日、商人マロンが来た。

「お久しぶりでございます、ルーラァ様、これはお借りしていた金貨でございます」

 そう言って、金貨三枚を持ってきた。

 すっかり忘れていたが、白い紙の商売がうまくいったらしい。

 ガキの言葉を信じるなんて、俺ならそんな危ない橋は絶対渡れん。

 しかも、独立して王宮御用達になったとか、やるもんだ。

 何はともあれ儲かったし、お坊ちゃんからルーラァ様に格上げにもなった。

 それに、倍と言ったのに三倍にして返すとは。

 こういうやつが好きなんだよな、俺は。

「マロン」

「はい」

「ライズを育てろ」

 そう言って、もらったばかりの金貨を返した。

「ライズ、ですか?」

「ああ、それも大量にいる。市場に出回っている物をすべて買い取り、それを種もみとして植えつけよ」

「分かりました」

 またしても、詳しい話も聞かず、金貨を受け取った。

「水が大量にいるから麦と同じようにはいかない。作っている者の意見を聞き、絶対に失敗するな」

「はっ」

 まあ、これはサービスだな。

 戦争で最も必要なのは剣じゃない、食料だ。

 食糧が一気に減るうえ、兵士の九割は農民だ。

 つまり、勝っても負けても食料生産に支障が出る。

 米を食料として普及できればいいが、そうでなくとも、家畜の餌にまで手が回らなくなるはずだ。

 高騰確実な麦を買い占めてもいいが、下手すりゃ没収だしな。

 それに、酒が飲みたい。

 酒米や麹菌の問題はあるだろうが、濁酒ドブロクでもいいから飲みたい。

 ワインはビール替わりでいけるし、馬乳酒はあるのだが、やはり日本酒にはかなわない。

 ちょっと待て、ビールってのは麦じゃなかったか?

 麦の絵が描いてあるビールがあったはずだぞ。大麦と小麦の違いかな、いや、そもそもどう違うんだ?

 まあいい、それより日本酒だ。ハンクと杯を交わす為にも絶対必要だ。

 作って儲けたいわけじゃないし、面倒な事はマロンに任せておくとしよう。

 まあ、御大層な戦争になりそうだし、損はしないだろう。



 レイダーに近衛城兵に合格するレベルの稽古にしてくれと言ったら、超が付くほどハードになった。

 一撃必殺じゃない。連続攻撃を受けていると、次第に体勢が悪くなってきて最後にやられる。とにかく受けているだけではダメで、なんとか受け流して反撃する。

 とまあ、理屈道理にいけば苦労はないんだよな。

 こっそりヒールの魔法で回復したが、使うたびに体がだるくなるという悪循環で、最後のヒールで体中の力が抜けた。

「強くおなりです」

 レイダーはそう言うが、一度も勝てない相手に褒められても、な……。

 もう一つ大変な事を知った。

 爵位のない貴族の子せがれは、近衛兵以外に職は無いらしい。

 ほんと、真面目にやっといてよかったぜ。

 まあ、ここまで付き合ってくれたレイダーの為にも一二歳で受かって見せる。

 ともかくあと二年、やるしかあるまい。

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