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ルーラァ  作者: 水遊び
ガキってのは、楽しければいいのさ。(15.07.05改)
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第12話 来客その1

「アン、こりゃあ麦じゃねえか?」

「はい、ライムギでございます。 なんでも、麦と雑草の雑種で、質は落ちるが丈夫な品種だとか。ここ、王都を外れますと、これでパンを焼く者も多いと聞きました」

 わざわざ取り寄せてくれたのはいいが、殻をむいても、かじってみても、どうころんでも麦だ。まったく、ライムギなんちゅう麦があるとはな。

「あの、他にもいろいろ取り寄せてみましたが……」

「何? 見せて、それ」

「はい」

 十個ほどの巾着袋にいろんな麦が入っていた。

 一口に十というけど、全て違う種類となるとかなり難しいはずだ。

「これも違う、これも違う」

 だが、麦ばっかりだ。

「おっ、こ、これだー」

 あった、最後の一個に見慣れた殻。今度こそ見つけた、むけばまさしく米だ。

「これだよ、アン。これが欲しかったんだ」

「それはようございました」

 微笑むアンはかわいい、チュウしたいくらいだ。

「後はこれを植えて、ああ、水田造りが大変だな」

「あの、ルーラァ様?」

「うん?」

「ライズを植えてどうなさるのでございましょう?」

「ライズ、そのまっまだな。麦の代わりにしようかとおもってな」

「もしかして、食されるのでございますか?」

「当たり前だろ。ごはんだぞ」

「なりません」

「はあ?」

 まったく、飯を食わずして日本人と言えるかってんだ。まあ、今は違うけど。

 急に怒りだしたりしても無駄だからな。あれだほら、魂が求めてるんだから。

「ライズは、乾燥地帯を挟んだ南の町テネスで、家畜の飼料として栽培している物にございます」

「だから?」

「ですから、食す事は出来ません」

「食べてみればわかる、旨いんだ」

「なりません! 絶対に! です」

 おいおい、ちょっと逆らえない雰囲気だぞ。

「でもなあ……」

「よろしゅうございますか、飢えた庶民ならいざ知らず、男爵家の人間が食べていいものではないのです」

「それってさあ、何様のつもりだ?」

「貴族様です」

「ははは……」

 あー、こりゃあ降参だ。

 日本で言えばドッグフードを食べる様なもんなのかもしれんな。

 そう言やあ、キャットフードはいけると誰かが言っていた気がするが、いやいや、真似されても困るし、忘れよう。

 せめて酒造りだけでもと思うが、発酵というのは腐らせるわけだし、臭いがした時点で駄目だろうなあ。

 やり方も良く分からんし。しかたない、誰かに押し付け……お願いするとしよう。



 そんなある日、珍客があった。

 アイスラー男爵御一行様。早い話が、爺さんと、伯父さんと、従兄が来た。

 ここは爺さんの家だから、正確には帰って来た、だな。

 馬車が十台に、護衛は三十人。うーん、多いか少ないかさっぱり分からん。

 玄関に横付けされた馬車から三人が出てきた。

 先頭の爺さんは銀の長髪に羽飾りの帽子。

 伯父さんと従兄は、普通に金髪。うちもみな金だし、ありや白髪かもしれん。

 赤を中心としたハデハデの服は三人おそろいか。

 対応するのは執事のレイダー。玄関は開放され、ホールにはメイドが並び花道を作る。

 迎えるのは両親で、俺とハンクは横に控えている。

 抱き合って挨拶するやつ、ハグだったかバグだったか、そんなやつをしている。

 義兄の名はビリー・アイスラー、家系図に載っていた。

 長身で、顔はそこそこ……いいや、イケメンだな。やれやれ、ガキに張り合うたあ、俺も耄碌もうろくしたかな。

 そして、雰囲気的に次は俺だ。

「はじめてお目にかかります。ブルーノが嫡男ルーラァと申します」

「立派な挨拶じゃな、幾つになる」

「十歳にございます」

 爺さんに向かって挨拶をしたその時、いきなり殺気を感じて後ろに飛びのいた。

「ほう、やりおるのお」

 皆が苦笑いしているところを見ると、物騒な挨拶はいつもの事らしい。

 しかし、この殺気はえげつないほど鋭い。背筋がゾクリときたぞ。

 左ほほの傷と鋭い眼光、紛れもない戦士だ。伯父さんも鋭い目をしているがその比じゃない。

 生涯をかけて魔物と戦ってきた男か……まあ、嫌いじゃないな。

 これで終わりかと思ったら、二十人近い貴族様が現れた。

 服装が地味な所をみると、下級貴族様御一行と言ったところか。ビリーと同じくらいの子供から、三十近いオッサン。あ、女の子までいる。


 御一行様は、ゾロゾロと二階に上がる。部屋数はあるからいいが……。

「アン、あいつら何しに来たんだ?」

「もう、男爵様でございますよ」

「ははは」

 ちょっとにらむ感じの顔もいい。

「今回王都に来られましたのは、明後日国王主催の晩餐会があり、男爵以上が招かれているからでございます」

「ふーん」

「この機会に、爵位を伯父さんに譲る許可を貰いに来られたのかもしれませんね」

「そっか」

「従兄のビリー様も、明後日に近衛城兵の試験がございますから」

「試験、あるの?」

「勿論でございます」

 あいやー、試験と聞いただけでジンマシンが出そうだ。

 いやまてよ、ここじゃあ俺は天才だったよな。だとしたら、実技だけ……楽勝じゃねえか。

「この試験は一二歳以上の貴族だけが受けられ、落ちても近衛兵にはなれます。 近衛兵で腕を磨いてから再挑戦する者が多く、一二歳での合格者はほとんどおられません」

 おいおい、なんかハードルが高くなってきたぞ。こりゃあ、井の中の蛙程度じゃあ受からんという事か。

 だからオッサンがいたのか、あれ、女の子もいたな。

「女の子も試験を受けるのか?」

「近衛兵には民務もありますので、そちらでございましょう」

「なるほどなあ」

 貴族の就職試験みたいなもんだな。

 試験と晩餐会が同じというのは大人の事情というやつか。


 それはまあいいとしても、こりゃ納得できん。

 お客が増えたから、俺を部屋に入れてアンも手伝いに行く。これはいい、まだ理解できる。

 問題は、お客がみんなで風呂に入る事だ。

 接待役のブルーノは勿論、女の子もカロリーネもというから驚きだ。

 そこで夕飯までそこで過ごすらしいが、子供は駄目だときたもんだ。

 銭湯でも子供は女風呂に入れるというのに、これは納得できん。

 憧れの混浴、いや、べつに、そんな、やましい気持ちなど……あるか。

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