表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーラァ  作者: 水遊び
ガキってのは、楽しければいいのさ。(15.07.05改)
10/50

第10話 ガントレット

 足し算が出来た事で新しい先生が来た。

 予想していたわけではないが、なってみれば当然か。

 スラガ・ドーマという名前らしいが、こりゃまた、チビ、ハゲ、デブ、ジジイと、いいとこ無しかだ。

 ただ、眼が違う。鋭い眼光はただ者じゃない事を知らしめている……たぶん。

 そう言えば、家系図にそんな名前があったな。たしか、ドーマ侯爵……ははは、ひょっとしなくてもお偉いさんだ。

「坊主がブルーノの息子か?」

「ジジイが先生か?」

 部屋に入るなり、この言いよう。あまりの言い方に口が滑った。

 しまったと思ったが後の祭りだ。

「何と言う事を、申し訳ありません」

 アンが俺の頭を押さえつけるのは、この際主従関係を言っている場合では無いと判断したのだろう。

 しかし、その侯爵様は白くなった眉をピクリと動かしただけだ。

「ジジイでは無い、スラガ・ドーマじゃ」

「坊主では無い、ルーラァ・アイスラーだ」

 にらみ合ったが後には引けない。ジジイと喧嘩なんかする気はなかったが、始まったら話はべつだ。

「まったく、親ばかりかこ奴もか。しつけがなっとらん」

「申し訳ございません」

 深々と頭を下げるアンを見て、ふと思いついたが。

「爺さん、親父を知っているのか?」

「スラガ先生と呼ばんか。全く、親子そろってしつけから教えにゃならんとは」

 侯爵様はこめかみに手を当ててうなっている。

「へっ?」

「ブルーノ様も幼き頃、侯爵様にご教授いただいたそうでございます」

「アン、そういう事はもっと早く言ってよ」

「申し訳ありません」

 俺だってさ、世話になっている人ともめごとは起こさんぞ。

「ああ、悪かったな爺さん、じゃないスラガ先生。よろしく頼む」

「はーっ」

 ため息をつき、がっくり肩を落とす。小さい爺さんがよけいに小さく見える。

 ははは、こいつはそういう性格か。こりゃ、面白くなってきたぞ。

「大丈夫か? じいさん。アン、何か甘いもんでも持って来てくれ」

「はい、ルーラァ様」

「年寄りは甘いもんが好きだからな。ここでくたばられても困るし、早いところ頼む」

 部屋を出てゆくアンの背中に声をかけると、

「だ、誰が年寄りだー!」

 顔を真っ赤にしたスラガ・ドーマ侯爵が怒鳴った。

 まったく、短気な奴だ。



「三個のリンゴを二人で分けるにはどうする?」

「一つずつ分けて、残りを半分に切る」

 これが勉強か? 子供だましだな。

「形が違う二つの物がある。同じ重さだというが、どうやって調べる?」

「シーソーに乗せる」

 とんちクイズみたいなものだ。

「川の幅は? 木の高さは? 土地の面積は?」

「三角測量に平板測量、サイン、コサイン、タンジェント」

 得意分野でごちそうさんだが、爺さん意地になってんぞ。参ったな。

「円の面積は?」

「半径×半径×3.14」

「ふははは」

 おいおい、ついに気がふれたか、笑いだしちまったぞ。

「ばかめ、(直径×8÷9)の2乗じゃ、覚えておけ」

「へっ?」

 なんじゃそれは?

 年よりのくせに、子供に勝って喜ぶな。というか、どうなってんだ?

「今日はここまでじゃ」

 ちょっと待て、勝ち逃げかこら。って、行っちまいやがった。

 負けず嫌いなジジイだぜ。

 それにしても妙だな?

 まてよ、直径9センチの円だと、どうなる?

1、4.5×4.5×3.14=63.585

2、9÷9×8でいいから、8×8=64

 うーん。まあ、近いっちゃ近いか。



 午後は、いつものように武道の時間だ、嬉しいなっと。

「ルーラァ様はものすごくお強いですよ」

 レイダーは執事だから話半分だが、良く考えてみたら、初心者が二段攻撃やらフェイントは使わない。

 ましてや、相手の攻撃を受け流しながら攻撃に転じる、こんな高等テクを使おうなどと考えるわけが無い。

 まあ、教えがいのある生徒といったとこだろう。

 へとへとにはなるが、俺にはこっちの方が向いているな。気分爽快だぜ。

「今の踏み込みはもう少し内側に」とか、「受け流しの角度が甘い」

 うん、自分で言うのもなんだが、内容もかなり濃い。

 左手の小手で受け、右手の短剣で攻撃する。

 このたいそうな小手がガントレットか。

 鉄板で手の甲から肘まで覆われた手袋みたいなもので、ここで攻撃を受けるわけだな。

 今は子供用のやつだが、成長に合わせて大きなものになっていくんだろうが、将来はメリケンサック付きにするか。

 素手でも瓦十枚割った俺だ、鋼鉄製のサックなら鎧ごとぶち抜けるしな。

 武道の稽古に関しても経験が生かせるな。

 まずは柔軟、体が柔らかいうちから十分に筋を伸ばしておくのは、けがの防止と体の可動範囲の確保だ。

 次は柔道の受け身、後ろにひっくり返って両手をバーンと叩きつけるやつ。斜め前に前転して片手をつくのもあったな。

 手はビリビリとして痛いがそれだけ、倒れても骨折をしなくなるし、後ろに倒れた時に後頭部を打たなくなる。うん、これは必要だろう。

 更に足さばき、どんな武道でも最後は足さばきだしな。

 攻守ともに足さばき、体重移動と位置取りが決め手となる。

 いわゆる小手先の技が通用するのは最初だけだったからな。

 最後、空手の型は朝やる。

 眼は覚めていても体はまだ、そんな時間帯を狙う。

 スピード重視でやると素早さとキレが増す。

 まあ見てな、俺は最強になってやるぜ。



「ルーラァ様、マロンが来ております」

「だれ?」

「紙を作る職人ですが」

「おお、会う、会う」

「はい、あちらの部屋に待機させております」

「わかった」

 マロンと言うケーキがあったような気がするが……。

 部屋の中にいたのは、まだ若い、といっても三十代だろうが、笑顔良しのオッサンだ。

「お坊ちゃま、紙をお持ちしました」

 あれ以来定期的に持ってくるように頼んでいたんだった。もう必要ないんだが、もらっておくか。

「なあマロン、もっと白い紙を作れよ」

「これ以上白い紙はございませんが」

「だから、作れと言ってるんだ。コウゾかミツマタじゃない、サージュの木があるだろ、あれを使え」

 アンが見せてくれた植物図鑑、確証はないがたぶん同じ種類だ。

「はあ」

「はあ、じゃねえよ、ちょっと待ってろ」

 秘密の地下室に行って、金貨を一枚取ってきた。

「これは軍資金、時間がないなら独立しろ。儲かったら倍にして返せよ」

「は、はい、ありがとうございます。必ず成功させます」

 半信半疑みたいだが、お金を貰えば嬉しいだろうよ。

 もっとも、紙の作り方なんか知らんがな。

 円の面積の求め方も、エジプト数学です。(NHK情報)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ