恐怖のデパート
初コメディーですよ? いつもよりがんばっちゃいましたよ?
……こんなデパートが実在したら…………ちょっと見てみたいかも。
その日俺はヒマだった。地獄のようにヒマだった。悪夢のようにヒマだった。
買った小説や漫画は読み終わり、ゲームはすべてクリア済み。
やることがなさ過ぎて、仕方なく家を出てぶらぶらと散歩する。
途中で、
(そういえば風呂掃除用の洗剤切れてたっけ……)
と思い当たり、俺は近所にあるそれなりの大きさのデパートに向かった。
駐車スペースはそれなり。建物自体の大きさも三階と、大きいとも小さいとも言えない、何ともハンパなデパートだ。ちなみにウリは生鮮食品だ。
ガラスの自動ドアをくぐり、カゴを持って適当に徘徊する。
目当ての洗剤はたしか一階にあったはずだ。俺は洗剤のコーナーへとさっさと向かう。
洗剤のある一角に差し掛かって、俺は自分の目を疑った。
二十メートルはあるだろう洗剤コーナーのすべてに同じメーカーの洗剤。もちろん種類はひとつだ!!
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はぁ!? ありえねーだろ! CMか、おい!?
俺はマジで驚いた。動揺を全く隠せずに、隣の食器洗い用の洗剤コーナーを見る。
「……………………」
えっと……俺は夢でも見てるんでしょうか? ヒマすぎて家を出たと思いきや、実はリビングのソファで爆睡中?
なぁんだ、そっかぁ。
俺は試しに、オーソドックスに頬をつねってみる。
ぎょわるりぃぃぃっっっっっっ!!!!!
「…………………っっっっっ」
(あんぎゃぁぁあぁぁあああっっっっっ)
声も出ない痛さでした。
夢オチだったらどんなに救われたか……。
俺はおそるおそるもう一度食器洗い用洗剤のコーナーをのぞき見る。
……やっぱりだ。
やっぱり商品が一つもない。
二十メートルに渡る通路の両側の棚は、まるで「まだ開店準備中です」と言わんばかりに見事に空っぽだ。
あれぇ? ここってこんなに奇抜なことができるような店だったっけ?
ちょっとこの品揃えっていうかレイアウトっていうか……大胆すぎない?
ちょっと来ないあいだに経営方針変わっちゃった?
――もう他のコーナーなんて恐ろしくて視界に入れることすらできない。
とりあえず、当初の目的を達成すべく、一種類しかない風呂掃除用の洗剤を手に取りレジに向かう。
こんなところ、早く出たかった。
だが、居るんだか居ないんだか分からん神というヤツは、またも俺に試練を課した。
「いらっしゃいませー♪」
ものっすごいイイ笑顔で、ちょっと高めの声で迎えてくれるレジのお姉さん……もとい、お兄さんは
レジのお兄さんは、実はメイドだったのです。
――あ、なんか聞いたことのあるようなフレーズがいま頭の中に。でもそれってたしか、普通に出会って……とかって前提がまずあって、唯一普通じゃないのが、って設定だよな?
最初から普通じゃない場合はどう対処すればいいわけ?
しかもさ、アノ人奥様でも魔女でもないじゃん。『レジ係のお兄さんはメイド(語呂悪い)』より『奥様は魔女』の方がずっと救いがある……っていうか、夢がある!!
そうだろ!!?
「お客様ー?」
ちょっと語尾を伸ばすカンジの独特の口調でメイドのお兄さんは俺を不可解そうに見る。
イヤ、不可解なのはアンタだから。
黒のワンピース(?)に、フリフリの白いエプロン。ちょっとした動作でスカートの中のドロワーズが見える。絶対領域とやらもハズしていない。そして頭にはヘッドドレス。
完璧だ。完璧なメイドだ……中身の人間以外は。
メイドなお兄さんは真っ黒で硬そうな髪を角刈りにして、体は何かスポーツをやっているのだろうと分かる、がっしりとした、いわゆる筋骨隆々な体型。眉毛は太くて立派だし、爽やかで暑苦しい「HAHAHA!」なんてエセアメリカ人笑いが似合いそうなタイプ。「夕日に向かって走れ!」とかって台詞も素で言えちゃいそうだ。
普通にしてればかっこいいのに、何故メイド!?
いつからこの店はこんなキャンペーンを始めたんデスカ!?
俺の脳は素早く状況を解析し、答えを出した。
『俺は何も見ていないよ?』
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……解ってるんだよ、現実逃避だってことくらい、俺もさぁ。
でも……でも! 立ち向かったって、どうにもならない現実もあるんだ!
チーン♪
「ちょうどお預かりいたします。ありがとうございましたぁ♪」
俺はちょっと高めの(でもお兄さん)レジ係ボイスに見送られて買い物を終えた。
ちなみに、俺がなけなしの勇気を振り絞って他のレジを見たら、レジ係は全員スポーツマッチョなメイドお兄さんでした。
……つづく?
いかがでした?
続きが出るかどうかは読者さんにかかっている!
なんて。
いや、ホントですけど。