10年前の過去-渚との思い出
ナギは、その日ずっと俯いていた。いつもと変わらない表情を作ろうとしていたんだろうが、オレにはわかった。ナギの目は真っ暗な闇に包まれていた。
「大丈夫か?」
こう聞いても「うん」としか返ってこなかった。
その日の放課後、オレは屋上に向かう前にやることがひとつあった。
それは、ナギを屋上に来させないこと。
オレはナギに、図書室掃除があるから手伝ってくれ。と言って向かわせた。
屋上に向かうと5人くらいで待っていた。木の棒など、いかにも小学生らしい武器を持っていた。こういうところだけ小学生、つまりは漫画の読みすぎで果たし状なんか書いたんだろう。
「ケケケ、待ってたぜ。ぶっ飛ばしてやる」
巨体が突っ込んできた。ひょいっと避けると、他の部下的な連中が棒を振り回してきた。
小学1年生だから、力の差はほとんどなかった。だから当然人数の多い方が勝つに決まっている。でも、経験ならこっちの方が多いはずだ。昔から弱いと思われ絡まれることが多かったから、この年でケンカ慣れしていた。
一番大きい棒を持っている奴を殴って、武器を奪い他の連中を片付ける。これまで、何発も殴られ、顔にキズも多かったけどあんまり痛くなかった。ナギを泣かした。その怒りに身を任せ動いていた。
大将が残ったけど、もうすでに戦意はなくなっていた。「あ....あ」などと呻いていた。
「二度と、ナギに手を出すな」
睨みつけてオレが言った。
すぐに全員逃げていき、オレはその場に倒れた。
イジメっ子たちとすれ違うようにナギが来た。
オレのところにきて、いきなり抱きついてきた。
「ごめんね。.....ごめんね.......」
泣きながら、ずっと謝っていた。オレはナギが泣くところなんて始めて見た。
「私、友達いなくて...ずっと一人で.....」
この気持ちは痛いほどわかる。幼稚園のころからオレも一人だった。
「オレが友達だろ!」
ナギの肩を掴み、怒鳴っていた。
「友達ってのは数じゃない。本当に信頼できる奴なら一人でもいいんだ。って姉さんが言ってた」
ナギはさっきよりも涙を流し、「ありがとう....ありがとう....」
と言ってくれた。
このときの空は、雲ひとつない青空だった。