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第四話

 

 


 違うんです違うんです違うんです。

 時間にして即答でしたが、心の中では、すごぉく葛藤したんです!


『全然駄目です』と素直に言って親友を落胆させるよりは、こうして嘘を吐く方がいいと結論したんです!



「ううっ!? な、何ですか、その目は………!?」



 しかしそんな自爆覚悟の大見得を前に、二人は図ったように瞳を細め、疑ぐる目をわたしへと注ぎます。



「誠に遺憾ですが、わたくしは貴女のバレバレな嘘を見抜けない程、付き合いは浅くありませんので」



「絶対ウソ」



 グッ…、流石に今のは白々し過ぎましたか。

 言ってるわたしもさっきのはちょっと怪しいと思いました。


 しかし、引けません!


 さっきとは別の意味合いで引けません。

 今わたしは、よくわからない見得で動いています。



「う、嘘じゃありませんよ!

………よ、よぉし、見ていて下さい。証明してみせます」



 そう言って、わたしは足を進め、手摺りの前に立ちました。


 無論、桟橋が上にある以上、下には川が流れています。


 なので、手摺りの先には透き通った色をした川があります。



「ふぅ―――」



 背後に視線を感じます。


 二人は何も言いません。余計な雑念をわたしに入れないようにとの配慮でしょう。

 有り難くて涙が出ます。



「っ―――!」



 魔法を使うイメージは掴みつつあるんです。


 今のわたしの状態なら、何かのキッカケで呆気なく魔法が出せるかも知れないと、師匠は酔っていた時に言っていました。


 ならば、今がそのキッカケである事を祈るばかりです。

 

 スカートを少しだけ捲り、太股に備えた長方形の小さく薄く真っ黒い物体を取り出します。


 これも中には聖水が入っています。言わばわたしの外行き用エーテルでしょうか。


 この程度の量で出来る魔法なんて高が知れてますが、そもそも顕著しないわたしにはどうでもいいって話です。


 それを持ち、握り締め、体内に眠る魔力を引き出すべく、瞳を閉じます。



 今だけは何もかも忘れて、ただイメージだけを浮かべます。






―――イメージは水―――





―――零さずに―――





―――うっっ………!






 瞬間、クワッと瞼を見開いて、わたしはエーテルを川へ投げ入れました。



 時の流れが波打つ波紋のように緩やかになります。


 投げ終えた後のモーションもゆっくりで、エーテルも、のっそりした速度で宙を飛びます。


 そして、時の緩みが終わり、ポチャンとエーテルは川へと落ち、深々と沈んでいきました。






……………




……………




……………






 あ、あれぇー??



「………何も、起こりませんわね」



 いつの間にか横にいたテレサレッサが、そう言いながら川を見下ろします。

 

 

「じ、時間差ですよ! もうすぐ何か起きる筈――――」



「あ、エーテルが浮いてきた」



 同じく隣に来ていたメドゥーサが指を指す方向には、プカプカと浮かぶ、わたしがさっき投げたエーテルがありました。



「う…ん。今日は、ちょっと調子が悪いかな………ハハハ」



 もう、二人には今の自分の現状が分かった事でしょう。


 それでもまだ嘘を貫こうとしているカスなわたしが哀れでなりません。



「えぇい、なぜ貴女はこんな簡単な事すら出来ないんですの!?」



 この沈んだ空気を打ち破るようなテレサレッサの叫び。


 いつの間にやら彼女はわたしと似た薬筒タイプのエーテルを手にしていました。


 テレサレッサはそれをポイっと川に投げ入れます。


 途端にズバ―――ン!と川面が爆発し、そのせいで生まれた水の柱が勢いよく桟橋を下から押し上げました。


 無論、押し上げようとしただけで、実際の桟橋は微動だにしていません。

 柱はすぐに崩れ、恙無く流れていきました。



「これが一塔22位の華麗ぇなる実力ですわぁ」



 フワリと縦ドリルが風に煽られて彼女の顔が隠れます。


 再び元の位置に戻った縦ドリルのその先にはテレサレッサの不敵で素敵な笑みがありました。


 うーむ…、入学試験の時は、マッチで点けた程度の火を指から出してたぐらいでしたが、どうやら目茶苦茶スキルアップしているようです。


 高圧的で生意気な態度もその自信の現れですかね。



「あ、危ないよテレサさん、桟橋壊しちゃったら退学もの、て言うか犯罪………」



 そんな事を言ってるメドゥーサは今現在、わたしの真後ろに隠れています。


 どうやら水飛沫を受けたくなかったようで、代わりにわたしはモロ被害受けてますけどね!


 一方のテレサレッサは『そんなヘマはしませんわ』と手摺りから踵を返します。


 彼女も水飛沫の直撃を受けていた筈ですが、見たところ全く被害がありません。

 

 

「ああ、風の魔法で右方向に受け流したんですの」



 聞けばこう言う答えが帰ってきました。


 ああ、成程。通りでテレサレッサの隣にいたわたしはこんなにもびしょ濡れってちょっと!


 更に聞きもしないのに、

 やれ『さっきのも風の魔法で、風圧を増大させて水面真下に叩き付けた。言わば風弾』やら

 やれ『魔法学校で習っていく内に火よりも風の魔法に才があるのに気付いた』やら


 やれ、………後はなんか長ったらしい武勇伝を聞かされましたが、メンドくさいので全て省きます。



「ああ、もうっ! テレサレッサがすごいのはよぉぉく分かりましたから自慢話はそこまでにして下さいよ!」



「あら、まだまだ語りたい事は山程ありましたのに。残念ですわねぇ………」



 本当に残念がる辺り、止めなければ日が暮れるまで話していたのかも知れません。


 そんなおバカはもう放っておいて、わたしはもう一人の小さな親友に話かけます。



「………えっ? 順…位?」



「メドゥーサは今、一塔の何位ぐらいなんですか?

 テレサレッサはさっき自分から言ってましたけど、わたしはメドゥーサの順位も気になってしまいました」



「え、えーと…」



 明らかに狼狽しながら、何故かメドゥーサはテレサレッサの方をチロチロ見ています。


 そのテレサレッサは腕を組んでムスッとした表情を浮かべていました。

 

 

「教えてくれませんか?」



 少し前屈みになってメドゥーサの目線に合わせます。


 二人の態度を見るに、なにやら事情がありそうですが、だからこそ聞きたいものがあります。


 そもそも順位を隠すなんて事、かなり低い位置でなければ、しないと思いますが。


 テレサレッサの顔色を伺う辺り、理由はきっと別のところでしょう。


 わたしとテレサレッサを交互に見ながら、やがてメドゥーサは意を決したようで、


 息を目一杯吸い込み、




―――両頬っぺたをグイっと伸ばされました。




「ふわッ!?」



「この子は一塔の3位ですわ」



『ふぅわ!?』『ううあふー!?』と言葉にならない叫びを放っているメドゥーサを余所に、そんな彼女の頭一個上から頬っぺたを伸ばす張本人は、わたしにそう教えてくれました。



「ああ、だから言うのを躊躇う訳ですね。納得」



 わたしはさして驚きません。


 彼女は昔から卓越した魔法の片鱗を見せていましたし、………とある力もありますし。


 多分そんなところだろうと目算はしていました。


 プライドの塊なテレサレッサにとって、メドゥーサより自身が格下と思われるのは不快の極みでしょう。


 メドゥーサもメドゥーサでそんなテレサレッサの性格を考えて、自発的に順位を触れ回る事はしてないんでしょうね。

 基本的に気弱で優しい子ですから。


 ふむ。初めテレサレッサが蛇と言っていたのは、彼女への嫉妬の現れかも知れませんね。

 困った縦ロールです。



「この子は既に二塔に上がれるだけの実力を備えています。

 でも、二塔に上がる為のテストをわざと蹴ってますの、バカの極みですわ」



「えぇぇ? どうしてそんな事を!? もったいない!」



 テレサレッサの発言にわたしは驚きを隠せません。


 在席が二塔になればそれだけ待遇も違います。言わば二塔は既に一人前の魔法使いです。


 それを拒むなんて、もったいない所じゃありません。



「決まってますわ。わたくしと貴女を待っているんですの」



 そう言うと、テレサレッサはメドゥーサの頬っぺたを抓るのを止め、クリルと後ろを向いてしまいました。


………これは、詳しくは自分じゃなく本人に聞けって事ですかね?


 わたしは目前で頬を撫でる紫髪の子に、テレサレッサが言った意味を訪ねてみます。



「………だってさ、ひとりじゃ寂しいから。

 ただでさえアズサと離れちゃったのに、その上テレサさんとまで離れたら、ボクまたひとりぼっちだよ………」



 メドゥーサはテレサレッサ以外に自分には友達がいない事、稀有なあの力のせいで他魔法使いによからぬ注目を浴びてしまっている事。

 テレサレッサの側にいないと怖くて部屋から出れない事。

 多様な不安を、わたしに吐露してくれました。

 

………早合点していましたか。


 テレサレッサがメドゥーサに対して少し冷たかった原因はそこでしたか。


 テレサレッサはメドゥーサのその臆病さ弱虫さへの苛立ちと、待ってる彼女の所へ中々辿り着けない自身の不甲斐無さとの間で揺れているんですね。


 だからあんな態度しか取れていないんです。不器用ですから。


 そんなの、魔法使いにすらなれてないわたしはテレサレッサ以下ですよ。


 いや、比べる事すらおこがましい。わたしなんてもう豚です。クズです。あれ? 涙でそう。



―――うん、今日は色々と彼女達の話が聞けて良かった。



 では今度はわたしが、二人に見得ではなく、キチンとした決意を表そうと思います。



「テレサレッサ、メドゥーサ」



 二人がこちらを見てくれます。


 久しぶりに揃った大中小トリオは、背も顔も、性格も仲良しさも何もかも昔とちっとも変わりませんね。



「待っていて下さい。根拠は全くないんですが、今回は必ず、必ず合格して見せます!

 必ず、二人に追い付きますから!」



 自分を強く太鼓し、二人を前にして、そう宣言しました。


 二人は何も言わなくても、わたしに笑っていてくれます。


 何だか無性にやる気が沸いてきました。

 これなら師匠の暴言暴力なんて易々と―――、割と耐える事が出来そうです。


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