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朝練失敗

 寝る頃には確かにあったはずの掛け布団はベッドの下に落ちている。動物が仲間を毛づくろいするような感覚で、もふもふさんはむき出しになっている文月の右足の裏をなめた。


「うひゃっ!」


 人生の中で一度も毛づくろいされたことのない文月は、驚いて足を引っ込める。目を覚ました。


『おはよう、文月』

「……今の、何……? ぞわっとした……」


 枕元の目覚まし時計がうるさく鳴り響いており、すやすやと寝息を立てていたもふもふさんは叩き起こされていた。ラグに丸くなって眠っていたのに、文月の掛け布団が上から降ってきて真夜中に息苦しくて起きている。すなわち、文月のせいで起こされたのは目覚まし時計で二度目となり、いくら温厚なもふもふさんでも腹に据えかねて、仕返しがしたくなっていた。


『早くそのアラームを止めて』

「あ、うん」


 言われてからアラームを止める。昨日の晩に話をしたように、今朝は普段の学校のある日よりも一時間早めに起きて『走り方』をもふもふさんが伝授する予定だった。


『鳴らしても起きられないんだったら、置いておく意味なくないすか』

「いつもより早いからだよ……」


 寝ぼけまなこをこすって、ふわぁとあくびをする。上にうーんと伸びをしたが、まだうとうと。もし話しかけずに放置していたら二度寝してしまいそうだ。


『ほら、起きる』

「うぇえ。なんか身体の節々が痛いよお」

『筋肉痛は成長の(あかし)すよ。これまでいかに文月が筋肉を使わずにいたか。鍛えていけばなくなるんで』

「ムキムキマッチョにはなりたくないなあ」

『ボディービルダーのような肉体になるにはそれ相応の努力が必要すよ。小学生が思い立って見よう見まねで鍛えたぐらいじゃ、ああはならない。ああいうのは生活習慣と食事から見直して、だな、寝直すな起きろ』

「ふぁーい」


 気怠げな返事をして、再び横になる文月。会話していても寝始めようとするとは、もふもふさんは呆れたようにため息をついて、ベッドに飛び乗る。


『わかったわかった。走るのは明日からにしよう。明日にはその筋肉痛も引いているだろうから』

「うん……」


 どうにも起きてくれそうにない。風呂上がりで中途半端にドライヤーをかけているせいか、肩までの長さの髪の毛は外側へと膨らんでしまっている。


『あー、そうだ。そのボサボサの頭をなんとかしたいな。だらしなく見えるから。身だしなみは大事すよ』

「うん?」

『一回借りるぞ。すぐに終わる』


 というわけで、もふもふさんが鏡家に着いての二日目は朝からもふもふさんへと切り替わる。髪型をセットするついでに、昨日の文月が「耳の生えている姿を見たい」と言っていたので、その姿を写真に収めたい。


「おはよう、文月ちゃん」


 台所に文月の母親はいた。朝食の準備を始めているようだ。もふもふさんにも母親はいるが、自身の母親はここまで早起きではなかった。が、起きているほうが都合はいい。


「おはようママ」

「昨日は夕飯、作ってくれてありがとうね」


 よほど嬉しかったらしい。母親視点での文月の立場が、幾分かマシになったものと見て、文月(もふもふさん)は微笑んだ。文月の家庭内での地位の向上は、もふもふさんの一つの目的である。善行であり、幸せにもつながる。


「いえいえ。今日も作る?」

「あら、いいの? また頼んじゃおうかしら」

「いいよ。今度は和食がいい? それとも、洋食? ママの希望を聞いておこうかな」

「最近の家庭科ってすごいのね……じゃあ、和食で」

「はーい」


 昨日は昼食に焼きそばを出されてから、夕食の献立を冷蔵庫を見ながら考えて、チンジャオロースをメインに持ってきた。今日は和食をご所望とあらば、焼き魚をメインにするのはどうか。肉料理が続くよりは魚が食卓に並ぶほうが喜ばれそうだ。冷蔵庫になければ買いに行かねばなるまい。


「ところでママ。この家にデジカメってある?」


 普通のカメラでは現像しなくてはならない。デジカメならば撮った写真や映像をすぐに確認できる。


「パパのだけど、あるわよ。何に使うの?」

「学校の宿題で写真が必要になったから、貸してほしくて」


 そのような宿題は出ていない。仮に出ていたとしても、もふもふさんは知る由もない。


「ああ……なら、仕方ないわね。壊さないようにね?」


 文月は機械と相性が悪い。ビデオデッキにビデオを詰まらせ、うっかりぶつかって扇風機の羽根を折り、昨年度から始まった家庭科での裁縫の授業では電動ミシンを一台壊してしまった。破壊神である。


「大事に使うから大丈夫!」

「パパには、ママから言っておくから」

「ありがとう!」


 母親が台所から離れて、父親の部屋に入り、デジカメを片手に戻ってくる。


「はい、どうぞ」

「返すときは、パパに返せばいい?」

「そうね。宿題にその撮った写真が必要なんでしょう? パパに頼めば、写真にしてくれるから」

「りょうかい!」


 宿題というのはウソなのだが、宿題ということにしてしまったぶん、何枚かは『宿題で必要な写真』を撮らなくてはならない。自分でついたウソとはいえ、めんどうなことにしてしまったなと思うもふもふさんである。


 本当は文月の姿を撮影するだけなので、撮影可能枚数や充電されているかどうかは気にしなくてもいい。だが、受け取った文月は電源を入れるなり、これまでに撮影されている写真の数々を確認し始めた。環菜の写真ばかりで、文月が写っている写真は三枚ほど。それも、環菜とともに写っているものが三枚だ。


「なるほどなるほど」


 文月は洗面台にデジカメを置いた。それから、ヘアスプレーを使いながら髪の毛をくしでとかす。おそらくは文月のものではなさそうだが、この広がった髪の毛は整えたい。ある程度まっすぐにして、これも置いてあった黒い髪ゴムで二つ結びを作った。


 文月の()()()()のイメージを考えながら、前髪をセンター分けにする。前髪を変えるだけでも顔の印象は変わるものだ。それから、二つ結びの位置を高くして、ハーフツインに結びなおした。


「……これも使っていいかな」


 髪ゴムの上から黒いリボンを巻いてみる。これから“ヒーロー”としての活動が見込まれるので、黒いリボンで直接結んでしまうよりは上から飾り付けたほうが解けない。強度を高める。


「うんうん。いい感じすね」


 納得のいく髪型になったので、デジカメで写真を撮る。オオカミの耳がチャームポイントとして、いいアクセサリーとなっていた。

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