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一家全員、処刑確定!? 悪役令嬢の妹のはずでした   作者: うり北 うりこ@3/13『好きです。 騎士団長様』発売


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飢饉に向けて③


 ***


「わぁーっ!」


 馬車の窓からは黄金色が広がっている。

 重くなった穂を風でたなびかせる姿からは、実りの豊かさを感じる。


「ルミアス、頑張りましたね」

「そうだな」


 私の言葉を肯定しつつも、お父様の声色は平坦だ。


「何か、ありましたか?」

「……いや、よく一年でここまでの成果をあげたものだ」

「ルミアスたちの努力の賜物ですね」


 窓の外に視線を向けたまま私は答える。

 けれど、返事はない。


「……お父様?」


 恐る恐るお父様を見れば、いつもと変わった様子はない。


「ミルベラ。何があっても、アリウム殿下の婚約者でいなさい」

「…………何故ですか?」

「外国の麦を栽培するのは国家事業になったからだ。取り組むかは、各領主の判断だが」

「……どういうことですか?」


 そう聞く私に、お父様はわずかに眉を寄せる。


「殿下とミルベラが画策したのではないのか?」

「そんなことしません」


 首を横に振れば、お父様の表情は険しくなった。


「緊急議会で、飢饉対策として、我が領で育て始めた麦を国で栽培すると殿下がお決めになった」

「──っ。いくらなんでも決まるのが早すぎませんか!?」

「そうだ。反対意見に耳も貸さず、決定事項として通達された」


 強い風が吹き、馬車がガタリと揺れた。

 窓の外は既に麦畑を通り過ぎ、流れの速い川が映し出されている。


「どういうことですか? アリウムらしくもない」

「この件で、殿下を支持していたいくつかの家が様子見に移った。次期国王として疑問を呈する声も出ている。だが、それが分からない方ではない」


 一度言葉を区切ると、お父様の声のトーンは一段下がる。


「だから、お前が関わっているんじゃないかと思った。殿下が感情で動くなんて、ミルベラのことだけだ」


 射抜くような視線に、ヒュッと喉が鳴る。

 ……アリウムが言う共に背負おうって、こういうことだったのだろうか。

 一人で決めて、勝手に進めて、何一つ私には教えてくれない。


「詳しく、教えてくれませんか?」

「何故だ? アリウム殿下がお一人で始めたのなら、ミルベラには関係ないはずだ。放っておけばいい」

「できません。……私は、アリウムの婚約者です」


 自分の知らないところで実は守られていたなんて、真っ平だ。

 アリウムは共に背負おうのではなく、私の荷物を取り上げただけ。


「それに、アリウムの婚約者でいろと言ったのはお父様です。私にも知る権利はあるはずですよね」

「……なんだ、殿下の婚約者としての覚悟ができたのか」

「いえ、まったく。ですが、私の覚悟なんて世間は見ません。重要なのは事実です」


 お父様の視線の鋭さが増した。

 まるで品定めでもされているみたいだ。


「まぁ、どのみち、もう我が家も引き返すことは不可能だしな」

「……え?」


 ……どういうこと?


「殿下が無理に進めたこの政策、既に我が家は先駆けで行っていた。その意味、わかるな?」

「──っ! も、申し訳ございません」


 下げた頭が上げられない。

 国内で主に育てている麦に今のところ問題はなく、何も起きなければ、この事業は失敗に終わる。

 飢饉が起きれば、民は苦しむ。

 けれど起きなければ、アリウムとラットゥース家が事業の責任を問われる。


「ミルベラも飢饉対策として、麦を育て備蓄すると話したな。特別な力があった場合、国へ報告する義務がある。お前の答えは、ない(・・)でいいんだな?」

「…………はい」


 いっそのこと、あれば良かったのに。

 私に先見の力があれば、わかったかもしれない。


 唇を噛みしめれば、血の味が口のなかに広がっていく。


「もしもの時、私はお前を切り捨てる。わかっているな?」

「もちろんです」


 そんなことをすれば、ラットゥース家が罪に問われる。

 断罪されるのは、私一人で十分だ。


「覚悟があるならいい」


 風は更に強まり、ゴーゴーと音を立てている。

 予定よりも半日遅れ、私たちは領地のラットゥース邸へと着いた。



 ***



 馬車を降りれば、屋敷のものが勢ぞろいで出迎えてくれる。

 その真ん中を堂々と歩いてくる青年が一人。


「父上、ミルベラ様。お待ちしておりました」


 そう言って微笑む彼を、私は見上げた。

 黒色の髪は見覚えがあるものの、私の記憶との彼があまりにも違いすぎる。


「道中、麦畑を見た。良くやったな」

「皆のおかげです」

「それでもだ。大変だっただろう? あとで詳しく話を聞かせてくれ」


 まるで本物の親子のようなやりとりに、頭が追いつかない。


「ミルベラ様、お顔の色が優れませんね。長旅でお疲れなのでしょう……。ディナーまで休んでいてください」

「え? あ、ありがとう。えっと……ルミアス?」

「はい。もしかして、僕の顔を忘れてしまいましたか?」


 どこかしょんぼりした姿が、私よりも背の低かった頃のルミアスと重なる。


「そ、そうじゃないの。あまりにも成長してたから驚いちゃって」

「そうでしたか。領地に来てから、急に背が伸びたのです。おかげで、毎晩骨がミシミシと痛くて寝不足でしたよ」


 くすくすと笑いながら言うルミアスに、ふっと肩の力が抜ける。


「かっこよくなったね」

「……ありがとうございます」


 お礼を言いながらルミアスが頭を下げると、私の耳元へと顔が近づく。


「アリウム殿下の婚約者は大変でしょう? 嫌気がさしたら、僕のところにいつでも来てくださいね」


 囁かれた言葉に、慌てて右耳を手で隠す。


「……冗談ですよ」


 くすりと笑うルミアスが、この一年で私の知らない男の人になってしまったみたいに思えた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


好きです。騎士団長様の婚約者にしてください!! の電子書籍予約開始しました!

アニメイト様、メロンブックス様、電子書籍、それぞれに別のSSを書き下ろしております。


そちらも是非、よろしくお願いいたします。

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