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一家全員、処刑確定!? 悪役令嬢の妹のはずでした   作者: うり北 うりこ@3/13『好きです。 騎士団長様』発売


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飢饉に向けて②


「では、失礼いたします」


 頭を下げ、アリウムに背を向けた瞬間、腕をつかまれる。


「……ミルベラ、話をしよう」


 真剣な眼差しには、もう何も感じない。

 まるで氷を飲み込んだようで、その冷たさが私の中を侵食していく。


「また明日でもいいですか? 今日は少し疲れてしまったので」


 自分でも耳を疑うほど、平坦な声が出た。

 アリウムの手は離れることなく、つかむ強さが増す。


「アリウム、痛いです……」

「──っ。悪い!」


 パッと手が離れていく。

 本当は痛くなんてなかった。

 けれど、その手を離させるために嘘をついた。

 そのことに、罪悪感はない。


「ほんの少しでいい。時間をくれないか?」

「ここでいいなら……」


 早くしてほしい。

 まだまだやらなければならないことは、たくさんあるのだ。

 藤色の瞳が迷っている。迷うくらいなら、また今度にしてくれたらいいのに。


「…………ラットゥース家で新しく育てている麦は、雨に強いものだそうだな」


 躊躇いがちに発せられた言葉に息をのむ。

 どこまで? どこまで掴んでいる?


「食糧の備蓄に、専門家を雇い入れた新たな種の麦の栽培の成功。備蓄の申請が出てからたった二年弱だ。出来すぎている」 

「たまたまですよ……」

「たまたまで、選んだ麦が土地に合い、一年で穂をつけるのか?」


 確信を含んだ声に、呼吸が苦しい。

 頭は冷めたまま回転し続けているのに、最適解が見つからない。

 駄目。ここで隙を見せたら、間違えたものすら価値がなくなる。


「……専門家がとても優秀なのでは?」

「育て方はあるだろうが、その専門家を雇う前から、もう育てる麦は決まっていたのだろう?」


 刃を突きつけられた気がした。

 逃げられない。逃がす気がなどないんだ。


「なぁ、ミルベラ。あなたには何が見えている?」


 一歩引いた足から、カツリと音が鳴る。

 その音がやけに耳障りだ。


「ミルベラを信じたい。けれど、出来すぎている。疑われたくないなら失敗してくれ……」

「…………そんなことしたら、手遅れなんですよ」


 時が、空気が、止まった気がした。

 やってしまった。

 認めてしまった。

 知られてはいけなかったのに。


「何が手遅れになるんだ?」


 私的な顔はすべて消え、王族の顔になったアリウムに、唇が震える。

 弁解したいのに、口の中が乾いて言葉が出ない。


 何も言えず、アリウムを眺めるしかできない私の腕が再び掴まれる。


「は、離して……」


 いつものアリウムならここで止まってくれる。

 けれど、どんなに振りほどこうとしても、その拘束がゆるむことはない。


「痛いから、離してください。自分で歩けます」


 あぁ、届かない。止まらない。

 信じてもらえない。


 引っ張ってこられたのは、アリウムの自室だった。

 中に入った瞬間、カチリと乾いた音がして鍵をかけられる。


「座ってくれ」


 そう言われたけれど、立ち尽くす私の腕を再びアリウムは引っ張る。

 二人掛けのソファーへと座らされ、アリウムはその前にかけた。


「もう一度聞く、何が手遅れになる?」


 はくりと息が漏れた。


「ち、違うんです。私、本当に何も知りません」

「知らないでもいい。ミルベラは何をしようとしている?」


 息が、吸えない。

 やめて、探らないで。

 引きずり出そうとしないで──。


「言ってくれ。言ってさえくれれば、必ずミルベラを守る。今のままでは、すべて後手に回る」


 その言葉にいつものアリウムが見えた。

 気付けば肩の力が抜け、肺を空気が満たす。

 思考が回り始める。


「国が敵になるかもしれないですよ?」

「それでもだ」


 決意を宿した藤色に、奥歯を噛みしめる。

 それでも涙腺は緩み、視界が滲む。


「心配なら、誓約書を作ろうか」

「…………いえ」


 私が他者に危害を加える等をした場合、家に責任を問わず、私個人の問題として扱う。

 必要なことは、もう誓約書にもう書かれている。


「私を守らないでください」

「…………何故?」


 上を向き、涙が溢れないように大きく息を吸い、吐き出すと、アリウムへと視線を戻す。

 怖気づきそうになるほど何の音もなくて、アリウムの握りしめたこぶしが色を無くしている。


「あなたは国王になる人だから」


 息をのむ音が聞こえた気がした。

 切り替えるように、アリウムの纏う雰囲気が変わっていく。


「ならば、共に背負う。……それなら、いいだろう?」

「すべてを話さないかもしれません」

「構わない」


 迷いなく告げられ、私は暴れ出す心臓に気が付かないふりをして、意識的に瞬きをゆっくりとする。


「…………飢饉の対策をしています。起こるかはわかりません。けれど、何もしなくてその日が来れば、大勢の民が命を落とし、国は混乱に陥るでしょう」


 そう告げれば、アリウムは一つ頷く。


「詳しく教えてくれるか?」


 不確定な未来へ、協力という形で足を踏み出す。


「……そういえば、何でそんなにラットゥース領について詳しいんですか?」


 にこりと笑うアリウムに、まるで紙に走らせたインクが滲んでしまったような、感覚がした。

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