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一家全員、処刑確定!? 悪役令嬢の妹のはずでした   作者: うり北 うりこ@3/13『好きです。 騎士団長様』発売


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養子を迎えましょう⑤


 ***


 近すぎるのは毒だと言ったアリウムの言葉の意味がわからないまま、早一月(はやひとつき)

 お姉様の機嫌は常に悪く、ルミアスとの距離は開いたままだ。


「ミルベラ様、できました」

「うーん、ここはもう一度考えてみようか」


 ルミアスの作った書類にチェックをいれつつ、気になる箇所をできるだけ丁寧に教えていく。

 少しずつだけれど、着々とルミアスはラットゥース領についてと、領主としての役割を学んでいる。


 勉強の進捗(しんちょく)は悪くない。

 けれど、チラチラと私の顔色をうかがっているのが気になる。

 このままだと、まずいよなぁ。


「よし。これは、ここまでにしようか。もうすぐマナーの先生がくるから、ルミアスはここで待っててね」

「わかりました」


 頷くルミアスの頭を一つ()で、私は部屋を出た。


 ルミアスのことも気がかりだけど、未来で起こるであろう飢饉(ききん)問題にそろそろ備えないと……。

 私は用意した資料を片手にお父様の執務室へとやってきた。


 ──コンコンコン。


 ノックをすれば、執事が中へと通してくれる。


「ミルベラ、何の用だ?」


 書類からほんの一瞬だけ目を離し私を見ると、お父様は淡々と言う。


「ルミアスのことで相談があってきました」

「少しだけ、そのソファーにかけて待ってなさい」

「何か手伝えることはありますか?」

「……いや、大丈夫だ」


 少し前であれば、断られることはなかった。

 けれど、ルミアスが来てからというもの、私は以前と比べて領地に関する書類に触れられていない。


「待たせたな」

「いえ。お忙しいところ、申し訳ありません」


 頭を下げれば、お父様は小さく笑う。

 その顔は、先程までの領主としての父ではなく、昔から私たち家族に向けてくれるもの。


「お仕事、大変なんですか?」

「いつも通りだから、問題ない。それより、ルミアスのこと、任せっきりになって悪いな」


 どこか疲れたお父様の顔を見て、私の中にあった領地に帰るという選択に迷いが生まれた。


「エリーカのことで困ってるのか?」

「……それもあります」

「では、ルミアスののみ込みが悪いか?」

「とても頑張ってくれています」


 なかなか私が用件を言えずにいれば、お父様から聞いてきてくれる。


「言いにくいことなんだな」

「そう……ですね」


 私が領地に帰れば、お父様の仕事量は更に増える。

 もう少し、時期を遅らせた方がいいかもしれない。

 けれど、新しい作物を育て、備蓄を行っていくことを考えれば、少しでも早い方がいい。


 結局、なんと言ったらいいのか決められないまま、用意してきた十数枚の資料を渡す。

 その資料には、過去の飢饉についてや、雨につよい麦の品種、飢饉時に必要になると予想される備蓄量などが書いてある。


 お父様は、一枚一枚資料に目を通していく。

 新しいことを始めるのは、費用も時間もかかる。人員も必要だ。

 ましてや、私が話すのは、いつか起こるかもしれないという、不確定要素しかないこと。


 どう、説得する?


 最後の一枚を見終え、お父様が視線を私に向けたのと同時に、私は口を開く。


「飢饉は、いつ何時起こるかわかりません。対策をさせてもらえませんか?」


 声が震えた。

 お父様なら、対策の必要性は理解してくれるだろう。

 けれど、もし急にこの話をした理由を聞かれたら?


 ドクリドクリと心臓の音が大きくて、無意識にギュッと手を強く握る。


「……なるほど。ミルベラの言いたいことと、したいことはわかった。だが、まずは国へ許可を求めなければならない」

「…………え?」

「特に備蓄に関しては、必ず申請がいるな」

「どうしてですか?」


 そんなことをしたら、私に未来がわかるのではないかと疑う人が出てくるかもしれない。

 先見の力があると(あざむ)くことは重罪だが、能力を隠すこともまた罪になる。


 小説で未来を知ってはいる。それでも、先見の力は持っていない私にとって、疑われることは命取りになりかねない。


「食糧の大量備蓄は、反逆の準備だと疑われる」


 お父様の言葉に、ヒュッと(のど)がなる。


「申請は、どの程度時間がかかりますか?」

「最低でも一月(ひとつき)から二月(ふたつき)だな。その間、雨に強い麦などの作物を試験的に栽培する分には問題ないだろう」


 それなら、申請を出して先に領地に帰るのはあり……かな?


「で、何故これを今のタイミングでやることにした? ここまで調べてあるんだ。かなり前から計画していたんじゃないか?」

「あ、それは……」


 な、何て誤魔化す!?


 返す言葉がみつからず、背中を嫌な汗が流れていく。

 沈黙が流れる中、お父様がため息をついた。


大方(おおかた)、殿下との婚約が決まったから、今のうちにと動き出したんだろう。まさか、ルミアスの手柄として譲るつもりだったんじゃないだろうな?」

「…………へ?」

「気持ちはわからないでもないが、ズルを覚えさせるわけにはいかない。これは、きちんと自身の手柄にしなさい」


 困った子だ……と言わんばかりの表情に、入っていた力が抜ける。


「では、進めてもいいんですか?」

「あぁ、構わないよ。けれど、ミルベラが領地に行くのは駄目だ。殿下の婚約者が長期に渡って、王都を留守にするわけにはいかないだろう?」


 たしかにお父様の言う通りだ。

 だけど、それじゃあ誰が実行するの?


「優秀な家令を数人つけるから、ルミアスにやらせなさい。実践は彼を育ててくれるはずだ。手紙を通じて指示を出すのはミルベラに任せる」

「ですが、それでは突発的な状況に対処が──」

「農業未経験はミルベラもだ。お前は過保護すぎる」


 そう言われても、心配なのだ。

 それに私は過保護なのではない。サポートが必要だと思っているだけ。


「ルミアスが後継者として適任でなければ、次を探さなくてはならないんだ。見定めるのに、あまり時間はかけてやれない。ミルベラ、お前の甘やかしで、ルミアスの成長が遅くなる可能性を考えなさい」


 あぁ、そうだ。

 ラットゥース領は広大で、守るべき市民も多い。

 彼等を守れるだけの力がなければ、後継にはなれないんだ。

 当たり前のことを、やっと私は思い出した。

 

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