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養子を迎えましょう③


「……アリウム殿下、ご挨拶申し上げます」

「あぁ、邪魔しているよ」


 何故ここに殿下がいるんだ? という、お父様からの視線が痛い。

 オーガスタ皇子も来ています。と伝えたいけれど、アリウムの前で堂々とは言えない。


 ……うん。私にどうにかできないことは一度置いておこう。

 このあと執事がこっそり伝えてくれるはずだ。

 なら、私の最優先事項は決まっている。


「はじめまして、ルミアス。私は、ミルベラ・ラットゥース。これから、少しずつ家族になっていきましょうね。ルミアスと呼んでもいいかしら?」


 視線が同じ高さになるように(かが)んでルミアスへと話す。

 すると、家族という部分にルミアスは肩を小さく揺らした。


 あ、しまった。いきなり家族は嫌だったかも。

 なかなかクセの強いご両親だとしても、ルミアスにとっては生家が家族だもんね。

 いきなり距離詰めすぎたかぁ……。


「ごめんなさい。いきなり家族って言われても困るよね。でも、ルミアスを家族のように思うって気持ちは本当だから」

「ぁ……はい。ありがとうございます。ミルベラ様」


 小さな声で、ぼそぼそとルミアスは話す。

 黒の長い前髪で表情がわかりにくい。……というか、怯えているのは伝わってくるけれど、その他の感情が見えない。


「様なんてつけないで、ベラって呼んでくれないかしら」

「……ベラ……姉様?」


 私の様子を窺うように、恐る恐る発せられた言葉に、心臓がギュンッとつかまれる。

 か、可愛い……。

 前世は一人っ子で、今世は妹だけど、下の子ってこんなに可愛いものなの!?


「姉様って呼んでくれて、ありがとう」


 ルミアスはこくりと頷いた。

 行く行くはラットゥース家を裏切るなんて信じられないほど、素直な反応だ。


 きちんと信頼関係を築いていければ、大丈夫かもしれない。そんな淡い期待が胸で広がっていく。


「可愛い弟ができて嬉しいわ。仲良くしてね」

「よ、よろしくお願いいたします」


 お父様の後ろからでてきてぺこりと頭を下げてくれる。

 なんていい子!


「何でも聞いてね」


 自然と頬がゆるんでしまう……んだけど、何だか視線が痛い。

 えっと、お父様もアリウムも、何故そんな目で私を見てるの?


「ミルベラ……。ルミアスは二つしか歳が変わらないぞ」

「へ?」


 お父様の言葉に、彼が十四歳だということを思い出す。

 けれど、やはり小学校中学年くらいにしか見えない。


 実はもっと年下だった……ってことはないのかぁ。こんなに可愛いのに。可愛いって正義というか……。

 ……いや、それじゃ駄目だよね。ルミアスに失礼だし。


「ルミアス、ごめんなさい。子ども扱いするつもりはなかったんだけど」

「い、いえ、嬉しかったです。ベラ姉様が僕のことを受け入れてくれたんだって」


 ルミアスがへにゃりと笑う。

 うん、これは可愛がらないという方が無理。ということで、節度を持って可愛がろう。

 そう決意していれば、ぐいっと腰を抱き寄せられる。


「ルミアス。ミルベラは俺の婚約者だ」

「あ、はい……。えっと……」


 戸惑ったようにルミアスはアリウムを見上げた。


「ルミアス、このお方はアリウム・ファルコスタ様だよ。どなたかは分かるね?」


 そうお父様が言った瞬間、ルミアスは片膝をつき臣下の礼を取る。


「大変失礼いたしました」

「非公式の場だからね、そう畏まることはないよ」

「恐れ入ります」


 ゆるゆると顔を上げ、ルミアスは立ち上がる。


「殿下、この場でルミアスを指導してもよろしいでしょうか?」

「かまわないよ。ルミアスがミルベラに近づき過ぎなければね」


 にこりとアリウムが笑うと、ルミアスの顔に緊張が走った。顔に出過ぎるというのも、今後のルミアスの課題になりそうだ。


「では、失礼して。ルミアス、いくら緊張していたとはいえ、アリウム殿下だと気付く機会はいくつかあったはずだ。まず、ミルベラと顔を合わせたタイミングで、私は『殿下』と呼んだ。たとえそこで気が付かなくとも、我が家には息子がいないこと、ミルベラが殿下と婚約していること、白銀の髪と藤色の瞳という特徴。そこから推測するのは難しいことではない」

「はい。申し訳ありません……」


 年の割に小さな体を縮こませ、ルミアスは頭を下げる。


 養子として引き取られたという時点で、ルミアスはラットゥース家の人間になる。

 そのことはわかっているけれど、初めての場所と人にどれだけ緊張していたのか……。

 もう少し優しくしてあげてもいいと思う。


 フォローした方がいいかもしれないと、口を開こうとしたところで、アリウムの私を抱く腰の力がわずかに強まった。

 アリウムに視線を向ければ、小さく首を横に振られる。


「駄目だよ。成長の機会を奪うのは」

「ですが、たった今着いたばかりですよ」

「そうだね。だけど、今の学びはいつか必ず役に立つ。社交界に出る前に、身をもって学べる機会は多くないから」


 なるほど……。

 私は、つい可哀想だと思ってしまった。

 慣れ親しんだ家から来て、何も知らないままに王族と対面するというハプニング。

 けれどアリウムの言う通り、こういう学びは大切だ。


 それでも、フォローはやっぱり必要な気がするんだけど……。


「大丈夫。公爵は冷徹だという評価が目立つけれど、人心掌握は得意だからね。心配ないよ」


 その言葉にお父様とルミアスを見れば、お父様の大きな手がちょうどルミアスの頭に乗るところだった。

 怯えるように、一瞬だけビクリと動いたルミアスは呆然とお父様を見上げている。


「さ、注意はここまでだ。気付けなかったことは良くなかったが、それはこれから学べばいい。すぐに臣下の礼をとり、謝罪できたことは良かったぞ」


 わしゃわしゃと頭を撫でられ、ルミアスの髪はぐちゃぐちゃだ。

 けれど、ルミアスは嬉しそうに頭を押さえている。


 空気も柔らかなものになり、何だかすごくいい感じだ。


「あら、もう到着してたのね。って、髪はぐちゃぐちゃだし、服もなんて見すぼらしいのかしら! 信じられませんわ!!」


 柔らかな空気は一瞬で拡散し、不機嫌そうなお姉様の声が響いた。




❁お知らせ❁


3/13(金)にビーズログ文庫様より、

『好きです。騎士団長様の婚約者にしてください!! (あれ? 一方通行だと思っていたのに、最近視線が熱い気がします)』

の発売が決定しました!!


強面騎士団長と暴走令嬢の制御不能な恋を描いてます。

イラストレーターはぽぽるちゃ先生です!!


元の話は小説家になろうに投稿している

『好きです。騎士団長様の愛人にしてください!!〜公認ストーカー令嬢は、強面騎士団長様に執着される〜』

になります。


全改稿しているため、書籍では更にパワーアップしておりますが、Web版でも雰囲気はお楽しみいただけるかと思います。


好きです。騎士団長様もよろしければ是非!!


引き続き、悪役令嬢の妹もよろしくお願いいたします。

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