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養子を迎えましょう②


「まぁ! オーガスタ殿下は情熱的なんですのね!!」


 大急ぎでドレスへと着替えて応接間へと行けば、扉の外から楽しそうな笑い声がする。

 これは、急ぐ必要がなかったやつでは?

 そう思いつつ、ノックをして扉を開くのを待つ。


「ベラ、遅かったわね。急げなかったの?」


 私を見た瞬間に飛び出したお姉様の声と表情に、開いた扉を閉めなかった私を褒めてあげたい。


 ちょっと、どういうこと?


 アリウムに視線を向ければ、お母様をチラリと見て苦笑される。


 あ……、ただお母様得な時間だったということか……。


「お姉様、オーガスタ皇子を温室にご案内してはいかがでしょうか? 我が家の温室のバラは王国でも美しいと評判ですし」

「もう、ミルベラったら部屋に来て早々言うことじゃないわよ? 私、もっとエリーカとオーガスタ殿下の馴れ初めを聞きたいわ」


 お母様……。前半はおっしゃる通りだけど、後半に願望がダダ漏れだよ。

 ほら、お姉様イライラしちゃってるじゃん。


「お母様! さっきから似たようなことを何度も何度もオーガスタ様にお聞きになるなだなんて、失礼ですわよ!! いい加減にしてくださいまし!」

「まぁ、エリーカったら気が短いんだから。オーガスタ殿下、ごめんなさいね。この子の相手、大変でしょう?」


 あ、それ地雷……。

 サァーっと、血の気が引いていくのを感じる。


「お、おおおおお姉様っっ!!」

「エリーカは、私の女神ですよ。夫人と話せることも光栄ですが、エリーカと二人きりの時間を楽しませていただけませんか? 何分(なにぶん)、いつでも会えるわけではないので」


 爽やかな笑みを浮かべ、オーガスタ皇子はお母様に言うと、今度はお姉様の方を見る。


「私と二人きりになりたくて、焦ってくれたのかな? 嬉しいな、私も同じ気持ちだよ」

「違いますわ。お母様に腹が立っただけでしてよ」

「そうなの? まだ私の片思いなんだね。エリーカに好かれるように頑張るよ。そのチャンスをもらえないかな?」


 オーガスタ皇子の甘い言葉に、お姉様の怒りのボルテージは下がっていくのが見て取れる。

 愛されているということに、ご満悦の様子だ。


 オーガスタ皇子、お姉様の扱いうまいな。

 気の強い美人を手のひらで転がすのが趣味という設定も、伊達(だて)じゃないわぁ。


「そこまで言うのでしたら、チャンスを差し上げても、よろしくてよ」

「ありがとう、エリーカ。では、早速だけど温室を案内してくれない? 二人きりで話したいんだ」

「仕方ありませんわね」


 そう答えたお姉様にオーガスタ皇子は甘く微笑むと立ち上がり、お姉様に手を差し伸べる。


「では、一度失礼しますね」


 オーガスタ皇子は、お姉様を連れて応接間を出ていった。

 お母様はそんな二人を見れて、興奮気味である。

 そして、今度はキラキラとした目を私とアリウムへと向けた。


「アリウム、どうにかして私たちも逃げられませんか?」


 キャーキャー騒いでいるお母様に聞かれないよう、アリウムへとこっそり話しかける。

 すると、アリウムはニッコリと笑った。

 その笑みに、やっぱり今のなし! と言う前に、アリウムが口を開く。


「ラットゥース夫人、申し訳ないが、俺もミルベラと二人きりにしてもらっても? 俺はどこでも愛を語れるけれど、ミルベラは照れ屋だからね。そんなところも愛おしいのだが……」

「──っ! ちょっっ! アリウムっ!?」

「ほら、赤くなった」


 恐る恐るお母様を見れば、喜色満面の笑みを浮かべていた。

 こうしてお母様は応接間を出ていき、出会いから現在に至るまでの短い期間の出来事を根掘り葉掘り、恋愛方面にだけ聞かれずに済んだわけだが……。


「……もっと、やり方なかったんですか?」

「ミルベラと夫人の希望を両方叶えた結果かな」

「あとで私が大変なやつなんですけど」


 じとりと見れば、にこりと笑いかけられる。

 えぇ、知ってましたとも。確信犯ですもんね!


 何だかどっと疲れて、ぼすりと二人掛けのソファーへと行儀も気にせずに座る。

 もうアリウムなんか、知らん!


「いいね、そういうミルベラも新鮮だ」

「行儀が悪いと幻滅してくださって、結構ですよ」

「するわけないだろ。ますます魅力的だ」

「はぁ、そうですか。アリウムの女性の趣味疑うことにしますね」


 隣のソファーに腰掛けてきたアリウムをさらりと避けて、一人掛けのソファーへと移動する。


「……話が違う。二人きりの時は良いって言っただろ」

「避けないとも言ってません」

「ほぅ。そういう態度を取るんだな?」


 そう言うと、アリウムは私が腰掛けている一人掛けのソファーに無理矢理座ってきて、右側の座面が沈む。


「ちょっ! 信じられないんですけど!」

「ミルベラが俺を()けるからだ」

「別に避けてなんか……。いや、避けましたね」

「だろ!」


 そんなドヤ顔されましても……。

 というか、何故に寄りかかってくる。


「重いです」

「知ってる」

「どいてください」

「やだ……」


 ……子どもか?

 仕方ない、二人掛けのソファーに移動するかぁ。

 呆れつつ立とうとすれば、腕をつかまれる。


「どこ行くんだ?」

「二人掛けの方に移動するんです。こっちは並んで座るには狭いですから」

「なら、いい……」


 ちょっとふてくされたように言われ、頭が混乱する。

 アリウムって、こんな人だったっけ?


「アリウム、思ったより子どもっぽいところがあるんですね」

「……俺だって、自分がこうなるなんて思ってなかった」


 気まずそうにぼそりと呟かれ、思わず顔がゆるむ。


「笑うなよ」

「笑ってませんよ」


 そう答えて真面目な顔をするけれど、それも長くは保たなかった。


 困るんだよなぁ。

 こういうところを見せられると、突き放しにくくなる。

 うっかり可愛いと思っちゃったじゃんか……。


 まぁ、ヒロインが登場するまでまだ時間がある。

 たまには、こんな日があってもいいのかもしれない。


 ──コンコンコン。


 特に何をするわけでもなく、アリウムの相手をしていれば、扉が叩かれる。


「旦那様がお戻りになりました」


 執事の言葉に、私は慌てて立ち上がる。


「ごめんなさい。お出迎えに行かないと……」


 アリウムにそう告げて部屋を出ると、足早に玄関ホールへと向かう。


「あー、ドレスだよ。いや、笑顔が最大の歓迎だし、問題ないってことにしよう」

「あまり歓迎すると、ミルベラに懐くだろ。駄目だ」


 すぐ後ろから声が聞こえ、振り向けばアリウムがついてきている。


「長くはかかりませんから、応接間で待っていてください」

「断る」


 ギャーギャー言い合いながらついた玄関ホールには、一人の少年がいた。


 ……あれ? なんか、思ったよりも幼い? 

 十四歳のはずだけど、小学校中学年くらいに見える。


 近づいていけば、私を見た瞬間に痩せて目つきの鋭い少年は、お父様の後ろへと隠れてしまった。

いつもお読みいただきありがとうございます。


先日、短編「悪役令嬢は、トンズラすることにした」を投稿しました。

ざまぁなし、ドアマットなしですが、断罪されると勘違いして墓前に魚拓を願う主人公の悪役令嬢ならいます。

よろしければ、そちもお楽しみいただけますと嬉しいです。

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