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『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』 ~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭(ホーム)を築きます~  作者: エリモコピコット
第2章: 夏空の開拓と、小さな鍛冶師

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第55話:過去の冷たさと今の居場所

 夜。


 外は相変わらず、ゴォォォォと吹雪が唸っている。


 でも、ペチカのおかげで部屋の中はポカポカだ。


 私たちは夕食を終えて、ペチカの上でまったりと過ごしていた。


「あー、楽しかったぁ」


 モコが手足を大きく伸ばして、ペチカの温かい台の上に寝転がる。


「明日はもっとゆきおくんを大きくするんだー」


「まだやるの? 飽きないわね」


 ピコが呆れたように言いながら、ちゃっかり一番暖かい場所を陣取って丸くなっている。


「だって、トトが手伝ってくれれば、お家の屋根より大きくできるかもよ!」


「……それは無理」


 トトが静かに突っ込んだ。


 その手には、今日雪遊びで濡れた手袋が握られている。焚き火の熱で乾かしているようだ。


「えー、トトならできるよー」


「……雪が足りない」


「そこ!?」


 私は思わず笑ってしまった。


 パチ、パチ。


 焚き口で薪が爆ぜる音が、会話の合間に心地よく響く。


 私はマグカップに入った白湯を啜りながら、みんなの顔を眺めた。


 みんな、頬が少し赤い。


 雪焼けしたのか、それとも部屋が暖かいからか。


「……ねえ、エリス姉」


 モコがゴロンと寝返りを打って、私の方を見た。


「あのね、モコ、思ったの」


「ん? 何?」


「冬って、寒いし、お腹空くし、嫌いだったけど……」


 モコがへへ、と笑う。


「今年はなんか、楽しいね」


「……ふん。まあ、家があるだけマシってとこかしら」


 ピコが素っ気なく言うが、その尻尾はパタパタと機嫌良さそうに揺れている。


「……暖かい」


 トトもポツリと漏らす。


「そうだね。暖かいね」


 私が頷くと、モコが嬉しそうに目を細めた。


「エリス姉がいてくれて、良かったぁ……」


「えっ」


「だって、エリス姉がいなかったら、こんなポカポカのお家も、美味しいスープもなかったもん」


「……」


 真っ直ぐな言葉すぎて、少し照れくさい。


「それは、みんなが手伝ってくれたからだよ。私一人じゃ無理だった」


「えへへ、そうかなぁ」


 モコは嬉しそうに笑うと、大きなあくびをした。


「ふわぁ……なんか、眠くなってきた……」


「遊びすぎよ、アンタは」


 ピコも言いながら、うとうとと船を漕ぎ始めている。


「……ん」


 トトも、乾かしていた手袋を握りしめたまま、壁にもたれかかって目を閉じた。


 パチ、パチ。


 薪の音だけが、静かにリズムを刻む。


 一人、また一人と、寝息が聞こえ始めた。


  † † †


 ……気がつくと、みんな夢の中だった。


 私はマグカップの残りを啜りながら、改めて部屋を見渡した。


「……みんな、寝ちゃったな」


 ペチカの上には、三つの塊が転がっている。


 思いっきり遊んで、お腹いっぱい食べて、暖かい場所で眠る。


 なんて幸せな光景だろう。


「むにゃ……ゆきお……まてぇ……」


 モコが大の字になって寝言を言っている。


 さっき言っていた通り、夢の中でも雪だるまと遊んでいるらしい。


 布団を蹴飛ばして、お腹が丸出しだ。


 私は苦笑して、布団を掛け直した。


「風邪引くよ。……まあ、この部屋なら大丈夫か」


 その隣では、ピコが小さく丸まって眠っていた。


 さっきまで「飽きないわね」なんて強がっていたのに。


 今は長い尻尾を抱き枕のように抱えて、すやすやと寝息を立てている。


(普段は「監視役よ」なんて言ってるけど……)


 こんなに無防備に寝ている。


 警戒心なんて欠片もない。


 ピコの頭を少し撫でてみる。


「……んー……」


 喉をゴロゴロ鳴らして、私の手に頭を擦りつけてきた。


「ふふ、甘えん坊さん」


 起きたら絶対に怒るだろうけど、今だけは許してもらおう。


 そして、トト。


 トトは壁際で、静かに寝息を立てている。


 手袋を大切そうに抱えて。


 不器用だけど、誰よりも丁寧で、真面目な子。


「お疲れ様、トト」


 私は焚き火に新しい薪をくべた。


 パチン。


 小さな火の粉が舞う。


 静かだ。


 外のゴォォォォという吹雪の音さえ、遠くのBGMのように聞こえる。


 私の周りには、寝息と、火の音しかない。


 スー、スー。


 クークー。


 その不規則なリズムが、不思議と心地いい。


(……一年前は、こんな夜を過ごせるなんて思わなかった)


 ふと、去年の冬を思い出した。


 勇者パーティにいた頃の冬。


 テントの中は寒くて、隙間風が容赦なく入り込んでくる。


 私の毛布は一番薄くて、震えながら膝を抱えていた。


『おい、火が消えそうだぞ! 何やってんだ!』


『これだから役立たずは……』


 レオンや他のメンバーの苛立った声。


 どれだけ尽くしても、失敗を責められる恐怖。


 いつ捨てられるか分からない、冷たい不安。


 眠る時でさえ、私は「ここには居場所がない」と感じていた。


 でも、今は。


 私はマグカップの温かさを掌で確かめた。


 ここには、暖かい火がある。


 美味しいスープがある。


 そして何より、安心して眠る家族がいる。


「……っ」


 胸の奥が、熱くなった。


 さっき、モコが「エリス姉がいてくれて良かった」と言ってくれた。


 でも、違う。


 救われたのは、私の方だ。


 ここは、ただの「冬越しの避難所」じゃない。


 私が、自分で選んで作り上げた場所。


 役立たずと言われた私が、知識と、魔法と、仲間の力を借りて、必死に守ってきた場所。


(私は……ここにいたい)


 春になって、雪が溶けても。


 勇者たちが迎えに来ても。


 私は、この子たちと一緒にいたい。


 モコの豪快な寝相も。


 ピコのツンデレな優しさも。


 トトの静かな信頼も。


 全部、私の宝物だ。


「……よし」


 私は小さく呟いて、飲み干したマグカップを置いた。


 明日もまた、楽しい一日になる。


 もっと雪だるまを大きくするって、トトが言ってたっけ。


 モコはまた雪に飛び込むだろうし、ピコはペチカから出ないだろう。


 そんな明日が来るのが、楽しみで仕方ない。


 私は三人の真ん中、少し空いたスペースに潜り込んだ。


 左にはモコの体温。


 右にはピコの毛皮の感触。


 足元にはトトの安心感。


 最高の湯たんぽたちに挟まれて、私も目を閉じる。


 パチ、パチ。


 薪の爆ぜる音が、子守唄のように聞こえた。


 私は深い安らぎの中で、ゆっくりと意識を手放すのだった……。


半年ぐらいぶりの更新になります…ゴメンナサイ

更新頻度は激遅ですが、エタらないように頑張ります

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