第54話:雪だるまと冬の一日
翌日。
朝起きると、窓の外が真っ白だった。
一晩で積もった雪が、世界を銀色に染めている。
「わぁー! 雪! 雪!」
モコが窓に張り付いて、尻尾をブンブン振っている。
「すごいね。こんなに積もったの、初めてかも」
「エリス姉、外行こう! 雪で遊びたい!」
「寒いよ?」
「大丈夫! モコ、全然寒くないもん!」
モコが元気よく胸を張った。
ピコが毛布にくるまったまま、こちらを見ている。
「アタシはパス。寒いの嫌い」
「えー、ピコも来てよぉ」
「嫌よ。猫は寒いのが苦手なの」
ピコがふわふわの毛を逆立てた。
「……ボクは、行く」
トトが静かに立ち上がった。
「トトも来てくれるんだ! やったー!」
モコが飛び跳ねた。
「じゃあ、行こうか」
† † †
外に出ると、冷たい空気が頬を刺す。
サクッ、サクッ。
雪を踏む音が心地いい。
真っ白な雪原が、どこまでも広がっている。
「うわぁ……きれい……」
モコが息を呑んだ。
今まで誰も踏んでいない、ふわふわの新雪。
太陽の光を反射して、キラキラと輝いている。
「モコ、あんまり走ると転ぶよ」
「大丈夫だよ! モコ、雪の上でも走れるも——わっ!」
ドサッ。
モコが雪の中に転んだ。
「……言わんこっちゃない」
「えへへ、ふかふかで気持ちいい!」
モコが雪の中でゴロゴロ転がり始めた。
† † †
「エリス姉、見て見て!」
モコが雪玉を作って投げてきた。
ポフッ。
私の肩に当たって、雪が崩れる。
「あ、やったなー」
私も雪を丸めて投げ返す。
ポフッ。
「わっ! 冷たい!」
モコが笑いながら逃げ回る。
「……ボクも」
トトが無言で雪玉を作った。
そして——。
ビュンッ。
すごい速さで雪玉が飛んできた。
ドサッ。
「きゃっ! トト、強すぎ!」
モコが雪まみれになった。
「……ごめん」
「ううん、楽しい! もう一回!」
モコが尻尾を振りながら雪玉を投げ返す。
しばらく、雪玉合戦が続いた。
† † †
「ねえねえ、雪だるま作ろうよ!」
モコが目を輝かせた。
「雪だるま?」
「うん! 大きいの!」
モコが両手を広げて「こーんなに大きいの!」と示した。
「いいね。みんなで作ろう」
私は雪を丸め始めた。
コロコロ……コロコロ……。
雪玉を転がすと、どんどん雪がくっついて大きくなっていく。
「モコも手伝う!」
モコが雪玉を押し始めた。
コロコロ……コロコロ……。
「……ボクも」
トトも無言で雪玉を転がし始めた。
トトの作る雪玉は、ものすごいスピードで大きくなっていく。
「トト、すごい! もう胴体できちゃったよ!」
「……力、入れすぎた」
トトが少し恥ずかしそうに耳を伏せた。
† † †
気がつくと、大きな雪だるまができていた。
胴体はトトが作った巨大な雪玉。
頭はモコと私で作った、丸い雪玉。
「目と口がないね」
「炭でつけよう!」
モコが納屋から炭を持ってきた。
ポチッ、ポチッ。
黒い炭で目をつける。
「鼻は……」
「にんじん!」
モコが走っていって、備蓄からにんじんを一本持ってきた。
ブスッ。
「できた!」
雪だるまが完成した。
まんまるの目に、オレンジ色の鼻。
なんだか間抜けな顔になったけど、それがまた可愛い。
「名前つけようよ!」
「えー、名前?」
「うん! この子、なんて名前がいい?」
モコが雪だるまを見上げた。
「……ゆきお」
トトが静かに言った。
「ゆきお! いいね!」
モコが拍手した。
「ゆきおくん、よろしくね!」
モコが雪だるまに手を振った。
† † †
そのとき——。
ビュウウウウ……。
急に風が強くなってきた。
「あ、吹雪になりそう」
「帰ろう! モコ、寒くなってきた!」
モコが私の手を引っ張った。
さっきまで「寒くない」と言っていたのに。
「ゆきおくん、また明日ね!」
モコが雪だるまに手を振りながら、家に走っていった。
† † †
家に入ると、ペチカの温もりが体を包んだ。
「あったかーい……」
モコがペチカの上に倒れ込んだ。
「ほら、言わんこっちゃない。体冷えてるでしょ」
ピコが毛布にくるまったまま、呆れた声を出した。
「でも楽しかったもん!」
「はいはい」
私は鍋に火をかけた。
こういう日は、温かいスープが一番だ。
備蓄してあった野菜と、燻製ベーコンを鍋に入れる。
コトコト……コトコト……。
優しい音が響き始めた。
† † †
しばらくして。
ふわぁ……。
いい匂いが部屋に広がってきた。
「なんかいい匂いする!」
モコが鼻をヒクヒクさせた。
「ベーコンとお野菜のスープだよ」
私は鍋の蓋を開けた。
湯気がふわっと立ち上る。
ベーコンの旨味が溶け出した、黄金色のスープ。
野菜がゴロゴロ入っている。
「美味しそう……!」
モコの目がキラキラ輝いた。
「ピコちゃんも食べる?」
「……まあ、もらうわ」
ピコが毛布から顔を出した。
† † †
みんなで器を持って、ペチカの上に集まった。
ふーふー。
熱いスープを冷ましながら、口に運ぶ。
ズズッ。
「んー! 美味しい!」
モコの尻尾がブンブン振れた。
「冷えた体に、温かいスープが染み渡るわね……」
ピコが目を細めた。
「……うまい」
トトが小さく頷いた。
ベーコンの塩気と脂の旨味。
野菜の甘さ。
冷えた体に、じわーっと温もりが広がっていく。
「おかわり!」
モコが空になった器を差し出した。
「はいはい」
私は微笑みながら、スープをよそった。
† † †
お腹がいっぱいになると、みんなでオセロを始めた。
カチ、カチ、カチ。
石を置く音が響く。
「あー! また負けた!」
モコが悔しそうに尻尾を垂らした。
「……もう一回」
トトが石を並べ直す。
「今度こそ勝つんだもん!」
モコが気合を入れ直した。
外では吹雪がゴーゴーと唸っている。
でも、ペチカの上は温かくて、みんなの笑い声に包まれている。
† † †
カラン、コロン……。
オセロに飽きたモコが、ピンボールで遊び始めた。
「入れー! 入れー!」
パチン。
玉が釘に当たって、不規則に跳ねていく。
カラン、コロン、カラン……。
ポトン。
「やったー! 入った!」
モコが両手を上げて喜んだ。
「アタシの番よ」
ピコが毛布から出てきて、ピンボールに近づいた。
パチン。
カラン、コロン……。
ポトン。
「ふふん」
ピコが得意げに尻尾を揺らした。
† † †
夜になっても、誰も遊びをやめなかった。
オセロをして、ピンボールをして、たまにスープをおかわりして。
外は吹雪。でも、ここは天国だ。
「ねえ、ゆきおくん大丈夫かなぁ」
モコが窓の外を心配そうに見つめた。
「大丈夫だよ。雪だるまだから、雪には強いよ」
「そっかぁ。明日また会えるといいなぁ」
モコが尻尾を揺らした。
「……明日、もっと大きくする」
トトが静かに言った。
「うん! もっと大きいゆきお作ろう!」
モコの目がキラキラ輝いた。
(こうやって、冬を過ごすんだな)
私はみんなの顔を見ながら、思った。
雪遊びして、温かいスープ飲んで、みんなで遊んで。
それだけで、こんなに幸せだ。
私は温もりに包まれながら、穏やかな冬の夜を過ごすのだった……。
忙しくて投稿頻度がちょっと下がるかもしれません…ごめんなさい。




