第53話:オセロ盤と転がる玉
翌日。
外は吹雪だった。
ゴォォォォ……。
風の音が家を揺らす。
(今日は外に出られないな……)
私は窓の外を見つめた。
真っ白で、何も見えない。
「エリス姉ー、暇だよぉ」
モコが尻尾を垂らして近づいてきた。
「そうだね。することがないね」
「モコ、何かして遊びたい!」
モコが尻尾をブンブン振った。
(そういえば……)
私は納屋に置いてある端材の山を思い出した。
「ねえ、みんな。面白いもの作ろうか」
† † †
「これは……?」
ピコが首を傾げた。
私の前には、木で作った白黒の石が並んでいる。
「オセロだよ。二人で遊ぶゲーム」
私は白黒の石を盤面に並べた。
端材を削って作った、平たい丸い石。片面を炭で黒く塗ってある。
「ルールは簡単。相手の石を挟んだら、自分の色にひっくり返せるの」
「ふーん……」
ピコが興味なさそうに尻尾を揺らした。
「まずはモコとやってみよう」
「うん!」
モコが目を輝かせた。
† † †
数分後。
「あっ、ここに置いたら……わぁ! いっぱいひっくり返った!」
モコが尻尾をブンブン振っている。
「モコ、そこは駄目だよ。次の手でピコに取られちゃう」
「えっ、本当!?」
私がそう言った瞬間、ピコがスッと石を置いた。
パチン。
「ほら」
ピコが得意げに尻尾を揺らす。
「あー! ピコ、ずるい!」
「ずるくないわよ。モコが下手なだけ」
「むー!」
モコが頬を膨らませた。
† † †
「……ん」
トトが近づいてきた。
「トトちゃんもやる?」
「……ボク、やる」
トトがゆっくりと頷いた。
私はトトとピコを対戦させてみた。
カチ、カチ、カチ。
石を置く音だけが響く。
静かに、でも真剣な戦いが続く。
「……」
「……」
二人とも無言で盤面を見つめている。
ピコの尻尾が、ゆらゆら揺れている。
トトの耳が、ピクピク動いている。
(二人とも、真剣だなぁ)
そしてついに——。
「……終わり」
トトが最後の石を置いた。
盤面を数える。
黒が圧勝だ。
「な、なんで!?」
ピコが尻尾を膨らませた。
「アタシ、すごく考えたのに!」
「……運が良かった」
トトが静かに答えた。
「嘘つき! 絶対計算してたでしょ!」
「……もう一回」
トトが石を並べ直した。
「望むところよ!」
ピコの瞳がギラリと光った。
† † †
気がつくと、みんなオセロに夢中になっていた。
カチ、カチ、カチ。
石を置く音が心地いい。
モコは負けても「もう一回!」と元気いっぱい。
ピコはトトに勝てなくて、ムキになっている。
トトは静かに、でも楽しそうに指を動かしている。
(みんな、楽しそう)
私は微笑みながら、その光景を見つめた。
そして——。
(そうだ)
私の頭に、あるアイデアが浮かんだ。
前世で見た、懐かしいゲーム。
木の板に釘を打って、玉を転がすだけの、シンプルな遊び。
(あれなら、ここでも作れるかも)
でも……。
(今声をかけたら、邪魔しちゃうかな)
みんな、すごく楽しそうだ。
私は静かに立ち上がって、納屋に向かった。
† † †
(必要なのは……)
大きめの板。釘。木の玉。
私は静かに材料を集めて、部屋の隅で作業を始めた。
カン、カン、カン。
釘を打つ音が響く。
「エリス姉、何してるの?」
モコが覗き込んできた。
「あ、ちょっとね。新しい遊びを作ろうと思って」
「新しい遊び!?」
モコの目が輝いた。
「オセロは楽しくなかった?」
「楽しかったよ! でも、もっと遊びたい!」
モコが尻尾をブンブン振った。
「ふふ。じゃあ、ちょっと待っててね」
† † †
しばらくして。
私は大きな板を持ってペチカの前に戻ってきた。
「これに……釘を打っていくの」
私は板に、少しずつ釘を打ち始めた。
カン、カン、カン。
釘が板に刺さっていく。
「何作ってるの?」
モコが覗き込んできた。
「これはね、玉を転がして遊ぶゲームだよ」
「玉?」
「うん。この釘に当たって、不規則に落ちていくの。それが面白いんだ」
私は釘を何本も打って、板にジグザグの壁を作っていく。
そして、板の下の方に小さな穴を掘った。
「ここに玉が入ったら、点数が入る仕組み」
「おおー!」
モコが目を輝かせた。
† † †
次は、玉を弾く装置だ。
バネがないから……木の弾力を使おう。
私は細い木の枝を、板の端に取り付けた。
しなるように、少し曲げて固定する。
「これを……こう引いて、離すと……」
パチン。
木の枝が跳ね返って、玉が飛び出す。
カラン、コロン、カラン……。
玉が釘に当たって、不規則に跳ねていく。
そして——。
ポトン。
穴に入った。
「入った!」
モコが拍手した。
「すごい! もう一回!」
「どうぞ」
私はモコに玉を渡した。
モコが木の枝を引いて——。
パチン。
カラン、コロン、カラン……。
ポトン。
「やったー! 入った!」
モコが尻尾をブンブン振った。
† † †
「アタシもやるわ」
ピコが興味津々で近づいてきた。
パチン。
カラン、コロン……。
ポトン。
入った。
「ふふん。簡単ね」
ピコが得意げに尻尾を揺らした。
「……ボクも」
トトも挑戦する。
パチン。
カラン、コロン、カラン……。
ポトン。
「……入った」
トトが小さく頷いた。
そして、みんなで順番に遊び始めた。
パチン、カラン、コロン。
パチン、カラン、コロン。
同じ動作の繰り返しなのに、全然飽きない。
玉が釘に当たるたびに、どこに転がるかわからない。
そのドキドキが、たまらなく楽しい。
「ああー! 外れた!」
「ふふん、アタシは入ったわよ」
「……もう一回」
みんなが夢中になっている。
† † †
気がつくと、夕方になっていた。
外の吹雪は相変わらず轟音を立てている。
でも、部屋の中は温かくて、笑い声に包まれている。
「エリス姉、これ楽しいね!」
モコが満面の笑みで言った。
「うん。みんなが楽しそうで、私も嬉しいよ」
私は微笑んだ。
「……この音、好き」
トトが呟いた。
「音?」
「……カラン、コロン。心地いい」
「ああ、確かに」
私も頷いた。
玉が釘に当たる音。
それは、規則的なようで不規則で、聞いていて心地いい。
「吹雪の音より、ずっといいわね」
ピコが尻尾を揺らした。
「外は真っ白で何もできないけど……中は楽しいもん!」
モコが尻尾をブンブン振った。
† † †
夜になっても、誰も遊びをやめなかった。
ペチカの上で、順番にオセロをして、ピンボールボールをして。
モコは何度負けても「もう一回!」と挑戦する。
ピコはトトに勝とうと必死になっている。
トトは静かに、でも確実に勝ち続けている。
そして私は——。
(こうやって、冬を過ごすんだな)
みんなの笑顔を見ながら、思った。
外は吹雪。でも、ここは天国だ。
カチ、カチ、カチ。
カラン、コロン、コロン。
オセロの石の音と、玉の転がる音が、部屋に響く。
それは、私たちの冬の音だ。
私はその音を聞きながら、穏やかな冬の夜に包まれるのだった……。
ピンボールゲームは小学生とかに作った記憶…また遊びたいなー
オセロとピンボールゲーム(原型はビリヤード?)の歴史
・イギリスで19世紀後半に考案されたリバーシ(Reversi)の一形態が1973年に日本でオセロとして発売
・起源 (14~15世紀): 棒で石を突く戸外スポーツが発祥。フランスの宮廷で流行し、石版テーブルで穴に落とす遊びに。
発展 (16世紀以降):ビリヤードの名称が誕生。
1777年、フランスのバガテル城で開かれた、国王ルイ16世が出席してのパーティで、ピンが立てられたビリヤードの台を傾け、キューを右下に固定したゲーム盤が披露されました。
今回はイメージしやすいようにピンボールゲームってしましたが、実際はスマートボールになります。
スマートボール:棒を立てたり、少しななめにして、玉を打ちだすところを右側に固定したもの
ピンボール:『左右にあるバネ』でボールを弾き返すのがピンボール




