第51話:ぬくぬくとベーコン
第51話:生きる湯たんぽ
翌日。
目を開けると、まだ薄暗かった。
でも、寒くない。
ペチカのレンガがじんわりと温かくて、毛布の中がぽかぽかしている。
(ああ……幸せ……)
私はうとうとしながら、隣を見た。
モコが私の腕にしがみついて眠っている。銀色の髪が寝癖でくしゃくしゃだ。
反対側にはトト。小さく丸まって、垂れ耳だけがピョコンと見えている。
ピコは……ペチカの一番暖かい場所を陣取って、ぐでーんと溶けていた。
ふふ。みんな幸せそう。
私はもう少しだけ目を閉じた。
† † †
次に目を覚ましたときには、窓の外が明るくなっていた。
雪がちらちら降っている。風はないけど、寒そうだ。
「……んにゃ……」
モコがもぞもぞと動いた。
「おはよ、モコ」
「……エリス姉……おはよ……」
まだ半分寝てる。
「……さむい」
トトが目を開けた。毛布からなかなか出てこない。
「ペチカあったかいでしょ。もうちょっとゆっくりしてていいよ」
「……ん」
トトがまた丸まった。
ピコは……動く気配がない。完全に溶けてる。
(今日は外に出たくないなぁ……)
雪の日に無理して作業する必要もない。
「ねえ、今日は休みにしよっか」
「……やったぁ……」
モコが寝ぼけながら喜んでいる。
† † †
簡単な朝ごはんを食べて、みんなでペチカの上に戻った。
やることがない。でも、それがいい。
モコは窓の外を見ている。トトは毛布にくるまっている。ピコは……相変わらず溶けてる。
しばらくして、ピコがもぞもぞと動き出した。
「……のど渇いた」
「水持ってこようか?」
「……いい。自分で取る」
そう言いながら、ピコはなかなか動かない。
「……でも寒い」
暖かい場所から離れたくないらしい。分かる。
すると、モコがぴょんと立ち上がった。
「モコが取ってくる!」
「え、別に頼んでな……」
「いいのいいの!」
モコがペチカを降りて、コップに水を汲んで戻ってくる。
「はい、ピコ!」
「……ありがと」
ピコが小さな声で言った。照れてる。
モコはニコニコしている。
……あれ?
「モコ、寒くないの?」
「え? 全然」
ピコも気づいたみたい。
「嘘でしょ。この部屋、ペチカから離れると結構冷えるわよ」
「んー……でもモコ、平気だもん」
モコがペチカに戻ってきて、私の隣に座った。
私は何気なく、モコの手に触れた。
「……あったかい」
「え?」
「モコ、すごいあったかいよ」
ピコがモコの反対側の手を掴んだ。
「……本当だ。何これ」
「獣人は体温高いって聞いたことあるけど……モコは特に高いかも」
「へぇー」
モコは不思議そうに自分の手を見つめている。
(湯たんぽみたいだなぁ……)
「モコ、すごくあったかいね。抱きついてるとぬくぬくだ」
「ぬくぬく!?」
モコの目がキラキラした。
「モコ、ぬくぬくなの!?」
「うん。みんなをあっためられるよ」
「えへへ…」
尻尾がブンブン回り始めた。
† † †
気づいたら、みんなでモコを囲んでいた。
ペチカの上で、モコを真ん中にして座る。
私が左側。ピコが右側。トトはモコの後ろにぴったりくっついている。
「……あったかい」
トトが呟いた。垂れ耳がピクピク動いている。
「ペチカ+モコで最強じゃない?」
「だね。ダブル暖房だ」
モコがニコニコしている。尻尾がずっと揺れてる。
「モコ、動かないでね。暖房なんだから」
「うん! モコ、動かない! ……お腹すくまで!」
「もう空いてるでしょ、どうせ」
「……バレた」
グゥ〜……。
モコのお腹が鳴った。
「ほらね」
ピコがため息をついた。でも、口元がちょっと笑ってる。
† † †
お昼ごはんの時間になった。
「何食べよっか」
「お肉!」
モコが即答した。
「燻製ベーコンあるよ」
「やったー!」
私はペチカを降りて、保存食を取りに行った。
燻製ベーコンの塊を取り出す。飴色に光っていて、クルミチップの香りがふわっと漂ってくる。
「いい匂い……」
モコが鼻をひくひくさせている。
「パンもあるよ。温めようか」
ペチカの端っこにパンを置いた。レンガの熱でじんわり温まる。
その間に、ベーコンを薄く切っていく。
サクッ、サクッ。
ナイフが入るたびに、断面から脂がじわっと滲む。
「……いい色」
トトが覗き込んでいた。
「だよね。燻製って本当にいい色になるよね」
切り終わったベーコンを、温めた鉄板の上に並べた。
ジュゥ……。
脂が溶け出して、パチパチと音を立てる。
「……いい音」
トトがまた呟いた。
「トトちゃん、お腹すいた?」
「……ん」
正直でいい。
ベーコンの縁がカリッと焼けてきた。香ばしい匂いが部屋中に広がる。
「もういい? もういい?」
モコがそわそわしている。
「もうちょっと。カリカリにした方がおいしいから」
「早くー……」
モコが尻尾をブンブン振りながら待っている。我慢できないって顔だ。
もう少し……。
よし。
「できたよ」
「やったー!」
温まったパンにカリカリのベーコンを乗せて、みんなに配った。
「はい、どうぞ」
「いただきまーす!」
モコがかぶりついた。
サクッ。じゅわっ。
「んー!! おいしー!!」
モコが幸せそうに頬張っている。ベーコンの脂とパンの柔らかさが合わさって、最高の組み合わせだ。
「……悪くないわね」
ピコも一口噛んだ。尻尾がゆらゆら揺れてる。
「……カリカリ、おいしい」
トトも小さく頷いた。垂れ耳がピクピク動いている。
私もパンをかじった。
温かいパンに、カリッとしたベーコン。口の中で脂がとろける。
(ああ……幸せ……)
「エリス姉、もう一枚!」
「はいはい」
「アタシも」
「……ボクも」
結局、ベーコンの塊は半分なくなった。
† † †
お腹がいっぱいになって、みんなでペチカの上でゴロゴロした。
モコが私にくっついてきた。
「エリス姉、あったかい」
「モコの方があったかいでしょ」
「エリス姉もあったかいの!」
モコが私の腕に頬をすりすりした。
ふふ。くすぐったい。
ピコは目を閉じている。寝てるのか起きてるのか分からない。
トトはモコの後ろで丸まっている。
(今日は何もしなかったなぁ……)
でも、こういう日があってもいい。
みんなで暖まって。だらだらして。おいしいものを食べて。
それだけで十分だ。
私はみんなの寝息を聞きながら、穏やかな一日の終わりを迎えるのだった……。
すいませんちょっとしばらく執筆が遅れ気味になります…




