第49話:冬将軍とピコの毛玉
朝起きたら、息が白かった。
窓には霜がびっしり。毛布から手を出すと、指先がすぐに冷たくなる。
「さむ……」
暖炉の火は燃えているのに、部屋がなかなか暖まらない。
ヒュー、ヒュー。
壁のあちこちから、隙間風が入り込んでくる音がする。
(せっかく暖炉があるのに、熱が逃げちゃってるんだ……)
「さ、さむい……!」
モコが布団の中から顔だけ出して、ぷるぷる震えている。
トトは小さく丸まって、布団から出てこない。垂れ耳だけがピョコンと見えてる。
ピコは……。
「……ピコちゃん?」
私は暖炉のそばを見た。
そこには、黒い毛玉があった。
真ん丸の。完璧な球体の。
「ピコちゃん……?」
おそるおそる近づいて、指で突っついてみる。
「シャーッ!」
毛玉から威嚇音だけが返ってきた。
「えぇ……」
暖炉のすぐそばにいるのに、こんなに丸まっちゃうなんて。猫人族って本当に寒さに弱いんだ……。
† † †
「このままじゃまずいね」
私は毛布にくるまりながら、みんなに相談した。
モコは布団の中から顔だけ出している。トトは私の隣で小さく震えている。ピコは……暖炉のそばで毛玉のまま。
「暖炉はあるのに、隙間風がひどくて全然暖まらないの」
「……さむい」
トトが小さく呟いた。
「うん。だから、家を暖かくしよう」
「どうするの、エリス姉?」
モコが首を傾げる。
「断熱だよ。家を服みたいに、温かいもので包むの。隙間風を止めれば、暖炉の熱が逃げなくなるよ」
† † †
私たちは納屋から材料を集めてきた。
乾燥した藁。フェルトを作ったときの端切れ。油紙。
「まず、壁の隙間に藁を詰めていこう」
私が壁を見ると、あちこちに小さな隙間がある。ここから冷気が入り込んでくるんだ。
「よーし、モコやるー!」
モコが藁を丸めて、隙間にぎゅうぎゅう詰め込んでいく。
「……ん」
トトも黙々と藁を詰めている。小さな手で、丁寧に。
私はフェルトの端切れを壁に打ち付けた。
コン、コン、コン。
小さな釘で、タペストリーみたいに飾っていく。
「これで壁からの冷気を防げるよ」
「すごーい!」
モコが尻尾を振った。
† † †
次は窓だ。
今は油紙を一枚張っているだけ。ここからも冷気が入ってくる。
「二重窓にしよう」
「にじゅうまど?」
「うん。窓を二枚にするの。間に空気の層ができて、暖かさが逃げにくくなるんだよ」
私は木枠をもう一つ作って、油紙を張った。
それを元の窓の内側に取り付ける。
「これでよし」
窓に触ってみると、さっきより冷たくない。
† † †
全部の壁と窓を処理し終わった頃には、日が傾いていた。
「ふぅ……」
私は伸びをして、部屋を見回した。
すると、何かが違う。
静かなんだ。
さっきまでのヒューヒューという音がしない。
「……しずか」
トトが呟いた。
「うん。静かだね」
そして、暖かい。
暖炉の熱が、ちゃんと部屋に留まっている。
「ふわぁ……」
暖炉のそばで、毛玉がゆっくりと解けていった。
丸まっていたピコが、ゆっくりと顔を出す。
「……あったかい」
「ピコちゃん、おかえり」
私が笑うと、ピコはそっぽを向いた。
「べ、別に毛玉になってなんかないわよ。ちょっと丸まってただけよ」
「えー、完全に球体だったよー?」
モコがニヤニヤしながら言う。
「う、うるさいわね!」
ピコの耳がピクピク動いている。
ふふ。みんなで笑って、温かいスープを飲んだ。
隙間風を止めただけで、こんなに暖かくなるなんて。
私はみんなの顔を見ながら、穏やかな安心感に包まれるのだった……。




