第48話:凍る野菜と床下のむろ
朝起きると、窓の外が白くなっていた。
霜だ。ガラスの代わりに張った油紙にも、うっすらと氷の結晶がついている。
「さむさむ……」
私は毛布にくるまりながら、棚に並んだ保存食を眺めた。燻製ベーコン、ジャムの壺、乾燥させた野菜たち。
(これだけあれば、冬は乗り越えられる……はず)
でも、一つだけ心配なことがあった。
「ねえ、みんな。ちょっと相談があるんだけど」
朝食の後、私は暖炉の前に集まったみんなに切り出した。
「なーに? エリス姉」
モコが首を傾げる。
「保存食のことなんだけど……外に置いておけないかなって思ってたの」
「外? 寒いから冷蔵庫みたいになるってこと?」
ピコが片眉を上げた。
「そう。外気で冷やせば、野菜も長持ちするかなって」
「いいんじゃない?」
ピコがあっさり賛成した。モコも尻尾を振っている。
でも、私はふと手を止めた。
「……待って」
「どうしたの?」
「冬って、外のほうが寒いよね」
「当たり前じゃない」
「ってことは……野菜が凍っちゃう!」
私は頭を抱えた。
そうだ。冷蔵庫は「冷やす」けど「凍らせない」のがポイントだ。でも真冬の外気は氷点下。ジャガイモも人参も、カチカチに凍って、解凍したらグズグズになってしまう。
「やばい、全滅しちゃう……」
「ど、どうするのエリス姉!?」
モコが慌てた。
私は必死に考えた。凍らない温度で、でも腐らない程度に冷たい場所……。
「地下だ」
「地下?」
「うん。地面の下って、年中ほぼ同じ温度なの。夏は涼しくて、冬は凍らない」
私は床を指差した。
「だから、床の下に穴を掘って、そこに野菜を入れれば……」
「凍らないし、腐らない!」
モコが目を輝かせた。
「そういうこと。むろって言うんだよ」
† † †
早速、床板を外して、作業開始だ。
「よーし、モコがんばるー!」
モコが気合を入れて、土に手を突っ込んだ。
ザクッ。ザクッ。ザクッ。
素手なのに、土がザクザク掘れていく。
「モコー! いい調子!」
私が声をかけると、モコは振り返ってニコッと笑った。尻尾がブンブン回っている。
トトは黙ってモコの横に立つと、掘り出された土を両手ですくい始めた。
「……」
コクリと頷いて、外へ運んでいく。
誰に言われるでもなく、自然と役割分担ができていた。
ドサッ、ドサッ。
モコが掘る。トトが運ぶ。私も一緒に土を外へ出す。
ピコは暖炉のそばで、温かいお茶を準備していた。
「休憩したくなったら言いなさいよ」
そう言いながら、時々こっちをチラチラ見ている。尻尾がゆらゆら揺れていた。
† † †
お昼過ぎには、人が一人入れるくらいの穴ができていた。
深さは腰くらい。幅は両手を広げたくらい。
「ふぅー、できたー!」
モコが穴の中から顔を出した。全身泥だらけだ。
「お疲れ様、モコ。トトちゃんも」
(モコがいなかったら、こんなに早く終わらなかったなぁ。ありがたい)
私は穴の中に降りてみた。
ひんやりとした空気が、足元から這い上がってくる。
でも、外のような刺すような冷たさじゃない。
しっとりとした、生暖かい空気。
「ここ、外より暖かいね」
私がそう言うと、ピコが覗き込んできた。
「本当?」
「うん。触ってみて」
ピコがそっと手を伸ばす。
「……あら、ほんとだ」
耳がピクピク動いた。
「ここなら、野菜も安心だね」
私は穴から上がると、木箱を運んできた。
「ガラムさんに納品する木箱、しばらく使わないし……ここに置いちゃおう」
モコが木箱を穴の底に降ろす。
ドスン。
その上にもう一つ。
ドスン。
「よし、ぴったり」
木箱の中に、ジャガイモや人参を入れていく。藁を敷いて、その上に野菜を並べる。
「これで、冬の間も凍らないよ」
「やったー!」
モコが両手を上げた。
「よし、じゃあお部屋に戻ろうか。みんな汚れちゃったし」
私は床板を元に戻しながら、みんなを促した。
† † †
夕方。
私たちは暖炉の前に集まって、温かいスープを飲んでいた。
モコは濡れた布で身体を拭いて、すっきりした顔をしている。
「今日はたくさん働いたね」
「うん! モコ、いっぱい掘ったー!」
モコが胸を張った。
「トトちゃんも、ありがとね。土運び、すごく助かったよ」
「……ん」
トトが小さく頷いた。耳がピョコンと動く。
「ピコちゃんも、お茶の準備してくれてありがとう」
「べ、別に。アンタたちが勝手に疲れて倒れたら困るから準備しただけよ」
ツンとそっぽを向くピコ。
「ふふ。でもありがとね」
スープの湯気が、ふわりと立ち上る。
私はみんなの顔を見回しながらスープを啜って、穏やかな達成感に包まれるのだった……。




