表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』 ~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭(ホーム)を築きます~  作者: エリモコピコット
第2章: 夏空の開拓と、小さな鍛冶師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/58

第45話:糸紡ぎ棒と眠くなる午後

 11月に入ると、空気がぐっと冷たくなってきた。


 朝起きると、窓ガラスに霜がびっしり。吐く息も白い。


「さむーい……」


 モコが布団から顔だけ出して、ぷるぷる震えている。


「起きて起きて。今日は糸作りをするよ」


「いとー?」


「うん。フェルトで帽子とか作ったでしょ? 残りの羊毛で糸を作って、織物にするの」


「織物! マフラーとか!?」


「そうそう」


 モコがパッと目を輝かせて、布団から飛び出してきた。


  † † †


 糸を作るには、羊毛をねじりながら細く伸ばしていく必要がある。


「手だけでやると大変だから、道具を作ろう」


「道具?」


「うん。糸紡ぎ棒っていうの。棒をクルクル回すと、糸がねじれていくんだ」


 私が説明すると、トトがコクリと頷いた。


「……作る。どんな形?」


「えっと……細い棒の下に、丸い重りがついてるの。重りが回り続けることで、糸がねじれていく仕組み」


「……重り」


 トトが少し考え込んだ。


「鉄だと重すぎるかも。……粘土でいい?」


「うん、それでいこう!」


 私たちは早速、作業に取りかかった。


 まず、トトが納屋から真っ直ぐな木の棒を選んできた。


 指の太さくらいの、しっかりした枝だ。


「……これ、乾いてる。折れない」


「さすがトトちゃん」


 次に、重りを作る。


 私は粘土をこねて、ドーナツ型に成形した。


「この穴に棒を通すの。重りが下にあることで、棒が安定して回り続けるんだよ」


「へぇー!」


 モコが興味津々で見つめている。


 成形した粘土を、囲炉裏のそばでじっくり乾かす。


 その間に、棒の先端に小さな切り込みを入れた。


「ここに糸を引っ掛けるの」


 しばらくして、重りが乾いた。


 棒を穴に通して……完成だ。


「おおー! できた!」


 シンプルだけど、これが糸紡ぎ棒——スピンドルだ。


  † † †


 暖炉の前で、糸紡ぎを始めた。


「まず、羊毛をちょっとだけ引き出して……」


 私は毛の束から少しだけ繊維を引き出して、スピンドルの先に絡ませた。


「こうやってクルッと回すと……」


 スピンドルをクルクルと回す。


 重りの力で棒がくるくる回り続け、その勢いで繊維がねじれていく。


「おおー! ねじれてる!」


「でしょ? これを繰り返すと、糸ができるよ」


 クルクル、クルクル。


 スピンドルが静かに回り続ける。


 ねじれた繊維を少しずつ引き出していくと、だんだん細い糸になっていった。


「すごーい! 糸だ!」


「やってみる?」


「うん!」


 モコに棒を渡すと、嬉しそうにクルクル回し始めた。


「あっ、からまった!」


「ゆっくりゆっくり。焦らなくていいよ」


「んー……こう?」


 モコが真剣な顔でスピンドルを回している。


 尻尾まで一緒にクルクル回っているのが可愛い。


  † † †


 しばらくすると、みんなでスピンドルを回すようになった。


 私とモコが交代で糸を紡ぎ、トトは羊毛をほぐす係。


 ピコは……暖炉の前で丸くなっていた。


「ピコ、手伝わないの?」


「……見守り役よ」


 目を細めて、ウトウトしている。


 クルクル……クルクル……。


 スピンドルの回る音と、暖炉のパチパチという音だけが部屋に響く。


「……んー」


 気がつくと、ピコは完全に眠っていた。


 猫耳がピクピク動いている。


「ピコ、寝ちゃったね」


 モコがクスクス笑う。


「……ボクも、眠い」


 トトまでウトウトし始めた。


「ちょっとちょっと、みんな起きてよー」


 私が笑いながら言うと、モコが首を振った。


「だって、あったかいし……音が気持ちいいし……」


「それに、エリス姉が糸を紡いでるの見てると、なんか安心するんだもん」


 モコが暖炉の前でゴロンと横になった。


「モコ、ちょっとだけ目を閉じる……」


 そう言って、あっという間に寝息を立て始めた。


「……もー」


 私は苦笑しながら、スピンドルを回し続けた。


 クルクル……クルクル……。


 みんなが寝てしまっても、スピンドルだけは静かに回り続ける。


  † † †


 窓の外を見ると、木の葉がハラハラと落ちていた。


 赤や黄色の葉が、風に乗って踊っている。


(秋も終わりだなぁ)


 暖炉の火がパチパチと爆ぜる。


 ピコとモコとトトが、気持ちよさそうに眠っている。


 私は糸を紡ぎながら、この穏やかな時間に浸っていた。


 クルクル……クルクル……。


 スピンドルの音が、時計みたいにゆっくりと時を刻む。


 糸が少しずつ巻き取られていく。


 ふわふわで温かい糸。


 これで、冬の間に織物を作ろう。


 マフラーとか、膝掛けとか。みんなで使えるものがいい。


「……ふふ」


 私はスピンドルを回しながら、窓の外を見つめた。


 外は寒くなってきたけど、この部屋は温かい。


 みんながいて、やることがあって、作りたいものがある。


 それだけで、冬なんて怖くない。


 クルクル……クルクル……。


 スピンドルの音が、静かな午後に溶け込んでいく。


 私は糸を紡ぎながら、穏やかな幸せに包まれるのだった……。


少しでも「面白かった」「続きを読んでもいいよ」と思われましたら、

下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて応援していただけると、本当に励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ