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『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』 ~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭(ホーム)を築きます~  作者: エリモコピコット
第2章: 夏空の開拓と、小さな鍛冶師

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第35話:退屈な朝と頼れる背中


「ぶぅ~~……」


 朝の食卓に、不満たっぷりの声が響いた。


 モコがテーブルに頬を押し付け、スプーンをいじりながら唇を尖らせている。


「どうしたのモコ? お腹痛い?」


「ちがうの……。ふいご飽きちゃった…」


 モコががっくりと肩を落とした。


「最初は楽しかったけど……ずーっと同じリズムで、押して、引いて、押して、引いてばっかりだから……。」


(鉄製品を修理したり作ってた間、いつもふいご係やってもらったもんね…)


「まあ…。あの単調な作業は辛いわよねぇ」


 ピコが紅茶をすすりながら、同情するように言った。


 でも、トトの鍛冶仕事が増えれば増えるほど、火力を維持するための風はずっと送り続けなきゃいけない。


(うーん……とはいったものの……どうしようっか……。)


 私は窓の外を見た。裏庭のすぐそばには、豊かな水量で流れる川がある。


 前世の記憶がふわりと蘇る。水車小屋。コトコト回る牧歌的な風景。


「ねえトトちゃん。あの川の力を使って、ふいごを勝手に動かせないかな?」


「……川?」


 トトがコテッと首を傾げる。どうやらピンと来ていないようだ。


 無理もない。この世界にはまだ、そんな便利な自動機械は普及してないし、トトはあくまで「武器や道具」の専門家だ。


「えっとね、水車はわかるよね?」


「……ん。粉挽き小屋にあるやつ。でも、あれは石臼を「回す」だけ」


 トトが首をかしげる。  ごもっともだ。普通の水車はクルクル回るだけ。対してふいごは「押して、引く」という直線の動きが必要だ。動きの種類が違う。


「そう! その『回る』動きを、『押して引く』に変えるの!」


 私は近くの木の枝を拾うと、地面にガリガリと円を描き始めた。


「えっとね、こう……川の中に水車を置くでしょ? 普通は真ん中の軸から力を取るけど、そうじゃなくて……」


 私は円のふちに近い部分に、グリグリと点を打った。


「ここ! 真ん中じゃなくて、端っこに棒をつけるの!」


「……端っこ?」


「そう。ここに棒をつけて、ふいごの取っ手に繋ぐとね……」


 私は描いた点から、直線を伸ばして見せた。


「水車が回ると、この点は遠くに行ったり、近くに戻ってきたりするでしょ? つまり、回る力が『行って、帰って』の動きになるの!」


「……『回る』が、『行って、帰って』?」


「そう! まさにそれ!」


 トトがハッとしたように私の手から枝を奪い取った。


 サラサラサラ……。


 私の図の横に、流麗な線が走る。  描かれたのは、水を受ける羽根車。そして、その中心軸から少しずれた位置に接続されたクランク


「……なるほど。回転する動きを、往復する動きに変える」


 すごい。私の説明図から、完璧な「クランク機構」を理解しちゃった。さすが天才鍛冶師。


「……これなら、勝手に動く。モコ、いらない」


「やったー! モコ、自由だー!」


 モコがバンザイをする。


 しかし、さらに詳細な図を描き込んでいたトトの手が、ピタリと止まった。


「……あ」


「どうしたの?」


「……ダメ。これ、動かない」


 トトが図の中心、水車の軸の部分をバツ印で消した。


「……ふいごを動かすには、水車は大きくないとダメ。……すごく、重くなる」


 トトの表情が曇る。


「……こんな重いのが木の軸で回ったら、すぐに削れてしまう。……ガタガタになって、折れる」


 トトの表情が曇る。


 言われてみればそうだ。


 数百キロにもなる水車を、ただの木だけで支えて回し続けるなんて、ヤスリで削っているようなものだ。


「じゃあ、ポンプと同じように軸を鉄にする?」


「……鉄が、足りない」


 トトが炉の脇にある鉄くずの山を見る。流石に水車を支えるような太くて長い鉄の棒を作るには、ゴブリンの鎧が何個あっても足りないのだ。


 アイデアはいいのに、材料と強度が釣り合わない。


 うーん、と二人で腕組みをして唸っていると、トトが何かに気づいたように顔を上げた。


「……全部、鉄じゃなくていいかも」


「え?」


 トトが地面の図を書き直していく。


「……本体は、木でいい。擦れる端っこだけ、鉄にする」


 なるほど!


 軸のメイン部分は太い丸太を使い、回転して負荷がかかる両端の部分にだけ、鉄のカバーを被せるんだ。いわゆる「ハイブリッド軸」だ!


「すごい! それなら鉄も少しで済むね!」


「……ん。これなら、作れる」


 方針は決まった。まずは、軸の本体となる頑丈な木が必要だ。


  † † †


 私たちは近くの森へと繰り出し、樹齢数十年はありそうな立派なカシの木を切り倒した。


 ズズーン……!


 地響きと共に巨木が倒れる。枝を落とし、長さ3メートルほどの丸太に加工した。


 さあ、これを家に運ぶだけなんだけど……。


「せーのっ!」


 ゴロン……。


 三人掛かりで押して、ようやく一回転したかどうかだ。


「うそ……こんなに重いの!?」


「あ、当たり前でしょ!切り出したばかりの生木なまきは水分たっぷりで、鉄みたいに重いのよ」


 ピコが肩で息をしながら言った。


 これでは、家まで転がして帰るだけで日が暮れてしまう。途方に暮れていると、


「……モコ、やる!」


 モコが、ふんす! と鼻息荒く前に出た。


「モコ、これ運ぶ! 力仕事なら、飽きないもん!」


 モコは丸太の下に潜り込むと、二の腕にグッと力を込めた。


「んんっ……ふんぬっ!!」


 メリメリッ……!


 地面にめり込んでいた丸太が、ゆっくりと浮き上がる。


「うそっ……持ち上げた!?」


 ピコが目を丸くする。モコは顔を真っ赤にしながらも、自分の体よりも大きな丸太を肩に担ぎ上げたのだ。


「へ、へっちゃらだよ……! はやく、帰ろう!」


 一歩、また一歩。地面に深い足跡を残しながら歩くモコ。


 その背中は、どんな重機よりも頼もしかった。


 私たちはモコに感謝しつつ、その背中を追って帰路につくのだった……。


※今回前半途中でおわっちゃったので、18:10に後半あげます!

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