表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』 ~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭(ホーム)を築きます~  作者: エリモコピコット
第2章: 夏空の開拓と、小さな鍛冶師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/58

第33話:黒いフライパンと極上の目玉焼き


「トトちゃん、これ直るかな?」


 モコが心配そうに差し出したのは、柄の付け根でポッキリと折れたクワの鉄部分だった。  畑の開拓中に石を強く叩いてしまって折れたらしい。


「……ん。直せる」


 トトは折れた断面をじっと観察し、頷いた。今日は、我が家の鍛冶場の初仕事だ。


「でも、ただ熱して叩くだけじゃくっつかないよね?」


 私が聞くと、トトは小袋から灰色の粉を取り出した。わらを燃やした灰と、泥を混ぜた魔法の粉らしい。


「……これがないと、鉄が嫌がる」


 トトはその粉を接合面にパラパラと振りかけた。これで鉄同士が仲良くくっつく準備は完了だ。


  † † †


 トトがクワを炉に入れ、モコがふいごを引く。  鉄が赤くなっていく。でも、くっつけるにはまだ熱が足りない。


「……鉄が、溶ける寸前まで」


「よし、私の出番ね! 『一点送風ピンポイント・ブロー』!」


 私は炉の前に立ち、指先から鋭く圧縮された空気を送り込んだ。  ボッ!!  炉の中の炎が、赤から眩い青白色へと変わる。  バチバチッ!  鉄の表面から小さな火花が飛び散った。鉄が沸騰している合図だ。


「……今!」


 トトが叫ぶ。  白熱した鉄を素早く金床に取り出し、折れた部分を重ね合わせる。


「モコ!」


「うんっ!!」


 カン、ズン! カン、ズン!


 トトの小槌がリズムを刻み、モコの大ハンマーが重低音を響かせる。  二人の息の合った乱舞によって、真っ赤な鉄の境目が消え、完全に一つに溶け合った。


「……よし。新品より、頑丈」


 冷やして強度を確認したトトが、満足げに頷いた。すごい。折れたことすら分からないくらい綺麗に直ってる!


  † † †


「クワも直ったし、まだ炭も残ってる。……次は、あれを作ろう!」


 私は炉の脇に置いてあった、余りの分厚い鉄板を指差した。次に作るのは、私の悲願。生活の質(主に食)を劇的に向上させるアイテムだ。


 一枚の厚い鉄板を熱し、叩いて円形にする。さらにふちを叩いて立ち上げ、底を平らにならしていく。


 数時間後。完成したのは、黒光りする無骨でずっしりと重い――「鍛造たんぞうフライパン」だった。


 † † †


 さあ、いよいよお披露目だ。


 完成したてのアツアツのフライパンを炉の上にセットし、貴重な油を敷く。


 今日の食材は、奮発した厚切りのベーコンと、新鮮な卵だ。


「いくよ……!」


 まずはベーコンを並べる。 ジューッ!!


 脂が溶け出すいい音が響く。そこへ、卵を割り入れた。


 バチバチッ! ジュゥウウウゥーーーーーーッ!!!


 その瞬間、裏庭に爆発したような激しい音が響き渡った。今までの煮炊き生活では聞いたことのない、食欲を刺激する暴力的な音だ。


「わぁぁっ! いい匂い!」


 瞬く間に透明な白身が白く染まり、ふちがチリチリと狐色に焦げていく。ベーコンも自身の脂で揚げ焼き状態になり、カリカリに縮れていく。私たちは焼き上がったばかりのご馳走をお皿に移し、急いで食卓を囲んだ。


「いただきまーす!」


 私はベーコンと目玉焼きを一緒に口へ運んだ。


 カリッ。……ジュワァ。


「んんっ……!!」


 噛んだ瞬間、衝撃が走った。白身の表面はサクサクと香ばしいのに、黄身は濃厚なソースのようにトロリと舌に絡みつく。  


 そして何より、ベーコンだ。 外側はカリカリでスナックみたいなのに、中から熱々の肉汁が溢れ出してくる。


(すごい……! 旨味が全部、閉じ込められてる!)


 横を見ると、モコも目を輝かせて仰け反っていた。


「なにこれ! 白いところがカリカリでお菓子みたい!おいしい! 」


 ピコもハフハフと言いながら、夢中で口を動かしている。ひとしきり味わった後、ピコは不思議そうに呟いた。


「……ねえ。前のも、別にまずかったわけじゃないんだけど」


 ピコが、空になったお皿とフライパンを交互に見る。


「あの薄い鉄板で焼いた時って、今のと比べると、なんだか水っぽかった気がしない?」


「あー……」


 モコが口元の黄身を拭いながら頷いた。


「なんかこう、ベチャッとしてたかも?」


「そうでしょ? 卵がダラ〜ッと広がっちゃってたものね」


 そう、以前の薄っぺらい鉄板は、冷たい卵を乗せるとすぐに温度が下がってしまっていたのだ。


 当時はそれでもご馳走だったけれど、この本物を知ってしまった今となっては、違いは歴然だ。


「ふふん、それがこの『分厚いフライパン』の力だよ!」


 私はえっへんと胸を張った。


「トトちゃんが鍛えたこの分厚い鉄が、熱をガッチリ捕まえて離さないの! だから一瞬で焼けて、旨みを逃がさないの!」


「なるほどねぇ……。ただ重いだけじゃなかったのね」


 ピコが感心したように、フライパンの縁についた焦げ目を指先で撫でた。そして、指についた油をペロリと舐める。


「……ん。いい仕事、した」


 トトも自分の作ったフライパンで焼いた目玉焼きを頬張り、小さくガッツポーズをした。


 カリカリのベーコンと濃厚な目玉焼きのハーモニーは、どんな高級なご馳走よりも贅沢に感じられたのだった……。

ミニ知識:薄いフライパンで肉が水っぽくなるのは、肉を乗せた瞬間に温度が下がるから。(先に水分がでちゃう)

同じ理屈で、現代でもフライパンを温めてから、乗っけたほうが温度が下がらずカリッと焼ける!おいしい!


少しでも「面白かった」「続きを読んでもいいよ」と思われましたら、

下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて応援していただけると、本当に励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ