表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』 ~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭(ホーム)を築きます~  作者: エリモコピコット
第2章: 夏空の開拓と、小さな鍛冶師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/58

第26話:夏の汗とはじまりの水音

7月も下旬に差し掛かり、夏の太陽はいよいよ本気を出してきていた。


 ジリジリと肌を焦がす日差し。立っているだけで体力が奪われていくような酷暑の中、私たちは「日課」という名の重労働に追われていた。


「……お、重い……」


 両手に木のおけを提げて、私はよろよろと坂道を登る。


 桶の中には、川から汲んできたばかりの水がなみなみと入っている。


「エリス姉、まだやるのぉ……? モコ、もう腕が上がらないよぉ……」


 後ろから、モコがへろへろになってついてくる。自慢の怪力も、この暑さと単純作業の繰り返しには勝てないらしい。舌を出して、ハァハァと荒い息を吐いている。


「……無駄よ。こんなバケツリレーで畑全体に水を撒くなんて、日が暮れるわ」


 最後尾のピコに至っては、すでに桶を地面に置いて木陰に座り込んでいた。


(……ピコちゃんの言う通りだわ)


 先日、モコが開拓してくれた新しい畑。土はフカフカで最高だけれど、川からは少し距離がある。  


 作物を育てるには水が必須だ。でも、毎日何往復もして水を運ぶのは、今の少人数パーティには限界がある。


(うーん。自動化……しなきゃ)


 私はドスンと桶を置き、額の汗を拭った。


 私の知識と技術で、水を「運ぶ」のではなく「流す」仕組みを作るんだ。


   † † †


 休憩を挟んで、私は二人に提案した。


「『水道管』を作ろうと思うの」


「スイドウカン?」


「そう。川から畑まで、水を運ぶための長いトンネルだよ」


 私は地面に図を描いた。


 長い木をくり抜くのは大変だ。だから今回は、細長い板を円筒状に並べて、たるのように組み合わせる「木製パイプ」を作る 。


「板を並べるだけじゃ、水が漏れちゃうんじゃない?」


 ピコが鋭い指摘をする。


「その通り。だから普通は、外側から鉄のタガを嵌めて、ギュッと締め付けるんだけど……」


 今の私たちには、鉄を加工する設備がない。先日手に入れたゴブリンの鎧は、まだただの鉄板だ。


(鉄がないなら、代わりの素材を使えばいい)


 私は家から、とある素材を持ってきた。


 前に雑貨屋で買っておいた生皮や、使い古した革のベルトだ。


「革? そんなので締まるの?」


「ふふ、革の性質を利用するのよ。……モコ、この革紐を水に浸けてくれる?」


「うん、わかった!」


 モコが桶の水に革紐を放り込む。


 数分後。たっぷりと水を吸った革は、ずっしりと重く、まるで生き物のようにヌメヌメとしていた。


「うひゃぁ……なんかヌルヌルするぅ」


 モコが指先でつまんで顔をしかめる。冷たくて、生々しい感触。


「これを、木のパイプに巻き付けるの。濡れた革は柔らかくてよく伸びるから、今のうちに限界まで引っ張って巻くんだよ」


「なるほど。乾いた時に縮む性質を利用するわけね」


 さすがピコ、察しがいい。


「よし、やるよ! せーのっ!」


 私たちは円筒状に組んだ板の周りに、濡れた革紐を巻き付けた。


「モコ、引っ張って! 緩まないように!」


「任せて! うぉぉぉーっ!!」


 モコが足を踏ん張り、全体重をかけて革を引っ張る。


 ミシッ、ミシッ。


 水を含んだ革が悲鳴を上げ、木の表面に食い込んでいく。


「いい感じ! そのままもっと強く!」


「んんんーっ! モコの全力だぁぁぁーっ!!」


 ブチンッ!!


「えっ」


 乾いた音が響き、モコが勢い余って後ろにひっくり返った。


 手には、無惨に千切れた革紐が握られている。


「いたたた……あうぅ……ごめんなさい……」


 モコが涙目で見上げてくる。お尻をさすりながら、しょんぼりと耳を垂れている。


「出たわね、クラッシャー」


「うー……」


「……大丈夫だよ、モコ」


 私は苦笑しながら手を差し伸べた。一生懸命やってくれた結果だもん、怒れるわけがない。


「怪我はない? ……ちぎれた短い革は、つなぎ目の補強に使おう。無駄にはならないから」


「……エリス姉ぇ……」


 モコがうるうるとした瞳で私に抱きついてきた。泥だらけだけど、可愛いから許す。


   † † †


「次は、力半分でお願いね。50パーセントだよ?」


「わかった! 半分!」


 気を取り直して、二回目の挑戦だ。


 今度は三人で、綱引きのように声を掛け合う。


「せーのっ、よいしょ!」 「よいしょ!」


 ヌルヌルの革紐を、三人で息を合わせて引っ張る。


 ギュッ、ギュッ。


 筋肉がきしむ。革が伸びて、木を締め付ける感触が手に伝わってくる。スポーツみたいな爽快感だ。


 そうして何十箇所も留め、私たちは夕方まで待った。


 夏の太陽は仕事が早い。あれだけ濡れていた革は、すっかり水分を飛ばしていた。


「……よし」


 私は指先で、乾いた革を弾いた。


 カチッ、カチッ。


 高い、乾いた音が返ってきた。


 あんなに柔らかくてヌメヌメしていた革が、今は鎧のように硬化し、木に深く食い込んでいる。


「カチカチだ! 石みたい!」


 モコが驚いて突っついている。


「さあ、通水試験だよ!」


 川の上流に設置した取水口を開く。


 チョロチョロ……という音が聞こえ、やがてパイプの中を水が走り抜ける音がした。


 最初は、板の隙間から霧のように水が吹き出した。 プシューッ!


「わっ、冷たっ!?」


「失敗じゃない!?」


 ピコが濡れた顔を拭う。


「待って! ……木が水を吸えば……!」


 私の言葉通り、数分後。


 水を吸って膨張した木材同士が、内側から押し合い圧着した。外側からは、縮んだ革が締め付ける。  内と外、両方からの圧力で、隙間が完全に塞がったのだ。


 水漏れが、ピタリと止まる。  


 そして——。


 ジョボボボボ……!


 畑の端に設置した出口から、勢いよく透明な水が溢れ出した。


「わぁぁぁっ! 水だーっ!」


「すごい……本当に流れてきたわ」


 モコが水しぶきを浴びてはしゃぎ、ピコが感心したようにパイプを撫でている。


「成功……!」


 私はへたり込んだ。


 もう、重い桶を持って往復しなくていいんだ。


 カチカチに固まった革のタガを見つめる。


 これはあくまで応急処置。革はいずれ腐るし、雨にも弱い。


 いつか、本当の鉄で配管を作るその日まで。


(……それまでは、この革に頑張ってもらおう)


 夕日に輝く水流を見ながら、私は心地よい疲労感に包まれていたのだった…。  

少しでも楽しい!と感じて頂けたら

ブックマック、評価、スタンプを頂けたらうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ