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第24話:何もしない一日と、甘い特権


 体の痛みは引いたけれど、私の心はまだ布団の中から出られずにいた。


「……やる気が出ない」


 窓の外は快晴。でも、指一本動かしたくない。いわゆる「燃え尽き症候群」というやつだ。昨日の今日で、精神的な疲れがどっと出ているらしい。


「エリス姉、村長さんが来たよー」


 モコの声で、私は渋々玄関に向かった。


「昨日は本当にありがとうございました。これは村からの感謝でしてな」


 村長さんが差し出したのは、籠いっぱいの贈り物。


「おや? 驚かれましたかな」


 中身を見た瞬間、私の目がカッと見開かれた。


「こ、これは……『鶏の卵』と『新鮮なミルク』!?」


「いえいえ、昨日の働きに比べれば安いものですよ。滋養がつきますから、ぜひ食べてください」


 この世界では、どちらも貴重なタンパク源だ。その瞬間、私の脳内で「休息のためのレシピ」が組み上がった。


「よし。今日は全力で『ダラダラするための努力』をするよ!」


   † † †


 まずは腹ごしらえだ。私は保存しておいた、カチカチに硬くなったパンを取り出した。そのまま食べたら歯が欠けそうなやつだ。


「これを、さっきの卵とミルク、あと少しの砂糖を混ぜた液に浸します」


「パンがびちゃびちゃになっちゃうわよ?」


 ピコが不安そうに見ている。


「乾燥したパンほど、水分をよく吸うの。スポンジと同じ原理だよ」


 たっぷりと卵液を吸わせて、パンがずっしりと重くなったところで、フライパンへ。貴重なバター(以前、ミルクから分離させて作った虎の子だ)を溶かす。


 ジュワワワワァ……。


 甘くて濃厚な香りが、部屋中に爆発した。


「んん~っ! いい匂い!」


 モコが尻尾を振ってコンロに張り付く。両面に綺麗な焦げ目がついたら、お皿に盛り付け。仕上げに、森で採っておいた「ハチミツ」をトロ~リとかける。


「完成! 『黄金のフレンチトースト』!」


「「いただきまーす!」」


 モコが大きな一口を頬張る。


「はふっ……んぐっ! ……あまーーーーい!!」


 モコが頬を押さえて悶絶した。


「なにこれ! パンじゃないよ! プリンみたいにプルプルで、甘くて、幸せの味がする!」


「……ん。悔しいけど、疲れが吹き飛ぶわね」


 ピコも目を細めて、ナイフで切り分けている。


「糖分は脳のガソリンだからね。疲れた時は甘いものに限るよ」


 カチカチだったパンが、卵とミルクの力で極上のスイーツに変わる。口いっぱいに広がるバターのコクと、ハチミツの甘さ。私たちは無言で、甘い特権を堪能した。


   † † †


 お腹が満たされた後は、メインイベントだ。私は丈夫な布とロープを持って庭に出た。


「エリス姉、何するの?」


「『究極のおひるね装置』を作るの」


 庭の木と木の間隔を見繕い、ロープを渡す。結び方は「巻き結び(クローブ・ヒッチ)」。体重がかかっても解けにくく、木への負担も少ない。そこに布の両端を固定すれば——。


「完成! 特製『ハンモック』!」


 私はさっそく、布の上にゴロンと寝転がった。ゆら~り、ゆら~り。木漏れ日が揺れ、風が通り抜ける。地面の硬さも感じない。


「……最高」


 意識が溶けそうだ。


「ズルイ! モコも乗る!」


 ドサッ!モコが遠慮なく飛び乗ってきた。


「ぐえっ。ちょ、ちょっとモコ、狭いってば」


「……ふん。そんな不安定な布切れ、何がいいのよ」


 ピコが腕を組んで見ている。でも、尻尾がウズウズしているのが丸わかりだ。


「ピコちゃんも、おいでよ」


「……っ。ま、まあ? 乗り心地のテストくらいなら、してあげてもいいけど?」


 ピコがおずおずと足をかけ、コロンと転がり込んできた。


 その瞬間だった。


 ミシッ……。


 不穏な音が、頭上の枝から聞こえた。三人の動きが止まる。


「……ねぇエリス。今の音、なに?」


「……定員オーバーの警告音かな」


 冷静に考えれば、育ち盛りの三人分だ。合計で100キロは超えている。即席の支柱が耐えられるわけが——。


 バキィッ!!


「「「きゃああああああっ!?」」」


 視界が回転し、私たちは団子状態になって地面に転がり落ちた。


「いったぁ……」


「もう! だから言ったじゃない!」


 ピコが怒って、モコの背中の上でジタバタしている。その様子がおかしくて、私は吹き出してしまった。


「あははは! やっぱり三人じゃ無理だったかぁ」


「笑い事じゃないよぉ~」


「……はぁ、もう……しょうがないわね」


 モコもつられて笑い出す。空を見上げると、青い空と新緑が眩しかった。地面に寝転がったまま、私はふと思った。


(……でも、このハンモック、支柱を太くすればいけるかも)


(庭の柵も、もっと頑丈な組み方があるはず)


 甘いものを食べて、大笑いして。空っぽだった心に、少しずつエネルギーが戻ってくるのを感じた。


「……よし!」


 私は立ち上がり、服の泥を払った。


「明日から『リフォーム計画』始動だよ! 庭も家も、もっと良くしてやるんだから!」


「おー!」


   † † †


 翌朝。昨日のハンモック騒動で耕された庭の片隅に、小さな新しい芽が出ていた。季節はもうすぐ、暑くて賑やかな夏を迎えようとしていた。

そういえば!昨日に総合評価100ポイント行きました!やったー!

ありがとーございます!ᐢ. ̫.ᐢv 毎日ギリギリだけどあと数日は3話更新頑張ります…!


少しでも楽しい!と感じて頂けたら

ブックマック、評価を頂けたらうれしいです!

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