第一章 :〈無色〉という烙印と、一片の希望
オイコウメンに転生してから、八年の歳月が流れた。
この小さな体は、未だに不器用で、どこかよそよそしい。
エルズベス――そう呼ばれるこの名前は、どうにもしっくりこない。
しかし、この脆い殻の内側には、一度はGペンで世界を描いた二十五歳の漫画家、月城沙耶香の魂が、未だに閉じ込められたままだ。
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母は傷だらけの食卓に座り、疲れではなく集中して肩を落としていた。
彼女の前には、わずかな硬貨が曇った光の中で鈍く光っている。
ほとんどはくすんだ銅貨で、ひとつだけ、つかの間の銀の閃きがあった。
「チャリンチャリン」と数えるかすかな音が、息を殺した部屋で唯一の音だった。
「また足りない」彼女は呟いた。
その言葉は私に向けたものではなく、静寂そのものへの告白だった。
続く彼女のため息は、私の知る限りで最も静かな音、希望がしぼむ音だった。
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私は裸足で近づき、擦り切れた床板の冷たさと馴染みのある感触を足の裏に感じた。
「お母さん?」
彼女の疲れた横顔から視線が離れ、部屋の隅へと移る。
一本の床板が目に留まった。
色の薄い木肌に、深い溝が刻まれている。
前からそこにあったのだろうか。
それとも、苦闘が人だけでなく、家という骨格にも痕跡を残すことに、ただ気づかなかっただけなのか。
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見回せば、私たちの生活の全てが一望できた。
右側には両親の部屋へのドア。
左側には私自身の小さな部屋への隙間。
ヴィルヘルムの簡易ベッドは炉端に巻かれて置いてある。
廊下もない。
余分なスペースもない。
ただこの単身の部屋だけが、床の溝と、わずかで、希望に満ちた硬貨の山と共にあった。
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母は私が見ているのに気づいて少し驚くと、硬貨を革の袋に集めた。
その動作はきちんとしていて、慣れた、決定的なものだった。
「何でもないよ、darling」彼女は優しく言った。
しかし彼女の目は、もう一度、擦り切れた溝の方へと一瞬泳いでから、私の目を見た。
部屋はその視線を反響しているようで、静寂は息を殺したように私たちの周りで膨らんでいった。
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彼女は立ち止まり、久しぶりに本当に私を見るように、私の顔に視線を留めた。
悲しみと決意が入り混じった、複雑な表情が彼女の顔をよぎった。
「さあ、エルズベス。この世界でお金がどういうものか、そろそろ教える時ね」
「これがドラックスよ」彼女はろうそくの光にかざして言った。
「パンコインよ」そう呼んでいた。決して十分にはなかったからね」
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次に銀貨に親指をかざした。
「プルシュンド。百ドラックスだ。酷い冬のために取ってあるの」
彼女は銀貨を袋に隠し、声をひそめた。
その仕草は収納というより、埋葬のように感じられた。
「必要にならなければいいけどね」
市場の噂で聞いた金貨のマンフィルについて尋ねるのは、私も差し控えた。
それはよその家の物語であって、私たちのものではなかった。
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彼女が話す間、私の頭の奥で、冷たく古い何か、私が置いてきた人生からの計算の亡霊がうごめいた。
数字が独りでに動き出し、何年も使っていなかった言葉に翻訳されていった。
パンひとつが一ドラックス、と母は言った。
パンひとつ…それは昔、約二百円だった。
だから…一ドラックスは二百円。
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私の視線は、彼女が数え終えたばかりの硬貨の山へと移った。
二十、いや二十五ドラックスかそこらの銅貨だ。
私の頭は止められる前に計算を始めた。
四千円。maybe五千円。
それが全て?食料、修繕、家賃、そして生活そのもののために?
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それから、彼女が隠した袋にしまわれた銀のプルシュンドを思い出した。
一プルシュンド、百ドラックス。二万円。
息が詰まった。
たった一枚のコイン、彼女たちの「酷い冬」への最後の手段が、安物の携帯電話よりも、私がかつて知っていた世界でのたった一週間の快適さよりも価値が低い。
あの世界では使い捨て。ここでは神聖。
あのチャリンチャリンいう銅貨と一切れの銀貨の全てが、私たちと飢えの間にあるすべてだった。
私の過去の人生の尺度で言えば、私たちは単に貧しいだけではなかった。
私たちは、パンそのものが金のように価値ある世界に生きていた。
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「さあ」彼女は袋をベルトに結びつけ、目の届かないところまで届かない明るさを声に無理矢理込めて言った。
「今日は市場で何か甘いものが買えるか見てみましょう」
私はうなずき、彼女について外に出た。
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市場は音と色に満ち、家の静かな緊張とは対照的だった。
私は母のスカートにしがみつき、露店の間を縫うように進んだ。
空気は焼きたてのパンと踏みしめられたハーブの香りがした。
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石鹸とハーブの露店に近づいた時、ひとつの会話の切れ端が、鋭くはっきりと、ざわめきを切り裂いた。
「…フリーダの娘の話、聞いた?あの小さな子の?」
女性の声が、病的な好奇心を込めて尋ねた。
「もちろん、聞いたよ」
もうひとつの、年を取り、粗い声が答えた。
「老マルタから直接ね。なんて悲劇だ。ヴィルヘルムはあんなに才能があるのに、父親同様に強い火の祝福を受けているというのに。その妹は…無色だ」
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その言葉は音としてではなく、胸を殴られるような衝撃として私に届いた。
足取りがよろめた。
一瞬、肋骨が、行き場を失った心の周りで縮んでいるように感じた。
母が私の手を握る力が強まり、彼女の指の関節が白くなった。
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露店に静寂が訪れた。
店主のヒルダは顔を上げて私たちを見た。
彼女の目は少し見開かれた。
彼女は他の女たちを鋭く戒めるような視線で見つめ、声をひそめて言った。
「しっ!本人たちが来たわ」
それから、広すぎて脆すぎる笑顔を作った。
「フリーダさん!エルズベスちゃん!ごきげんよう」
彼女は、人工的に明るい声で甲高く言った。
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他の二人の女は突然、カウンターの上のタイムの束に強い興味を持ったふりをし、私たちと目を合わせようとしなかった。
母は先ほどの会話には触れなかった。
彼女の顔は静かな尊厳の仮面だったが、彼女がカウンターに硬貨を置く手の震えを感じ取れた。
「今日はタイムだけお願い、ヒルダ」
「もちろん、もちろん」
ヒルダは素早くハーブを包み、母の目を避けた。
露店の周りの沈黙は、市場の騒音よりも大きかった。
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私はこの遅く、退屈な儀式を見つめ、いらだちの塊が胸の中で締めつけられていくのを感じた。
彼女が文字通り私たちのお金を噛んでいる間、私たちはここに立っていなければならない。
ATMも、タップ決済も、おそらくはバーコードさえない。
この世界の後進性の重みが、その瞬間、物理的に感じられた。
私が毎日、もがきながら進まなければならない、濃く、遅い泥沼のように。
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母は小包を受け取り、会釈ひとつして、私を連れて去った。
私たちが去った後も長く、憐れみと好奇心と冷たい批判のまなざしの重みが、背中に焼き付くのを感じた。
今、囁きには顔があった。
声があった。
私の運命は単なる状態ではなく、見世物だった。
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家に帰る道すがら、私は再び魔法を見た。
私と同い年くらいの二人の少女が、街灯に火を灯すために、小さな火花を指先に散らしていた。
彼女たちが私を見ているのに気づくと、炎は消えた。
私は母の隣を歩き、一歩一歩重く、彼女たちの無関心の重みが、私の小さな肩を押しつけるのを感じた。
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その夜、寝る前に鏡の前で髪を梳かしながら、かつて描いた漫画のことを思い出した。
世界に見捨てられた少女、キャサリンのこと。
"彼女たちが私が見ているのに気づくと、炎は消えた。"
今ではよくわかる。
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鍛冶場に行くたび、熱気が壁のように襲いかかる。
中では、父とヴィルヘルムが完璧なリズムで動き、ハンマーと炎の舞を踊っていた。
「もう一度だ」父が怒鳴った。
ヴィルヘルムは打ち方を調整した。
火花が星のように石の床に散った。
父はヴィルヘルムの肩をポンと叩いた。
「良い。炎がお前と話しているな、小子供」
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彼は炉から背を向け、火影に汗で輝く顔をした。
ほんの一瞬、彼の視線は私を見つめた。
そして、砕け散った。
彼は私を見つめ、彼の目の中の炎がひるみ、消えた。
その砕けた一瞬の中で、私はそれを見た…怒りではなく、生々しい、腸が捩れるような恥の感情を。
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その晩の夕食では、空気は言葉にされないもので厚くなっていた。
父とヴィルヘルムは、その日の仕事、熱さ、鋼の質について話した。
私は食べ物をお皿の上で動かしながら、露店の女たちの囁きがまだ耳にこだましていた。
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母は残ったドラックスで小さなハニーケーキを買うことができた。
珍しいごちそうだ。
彼女はそれを四つに分けた。
ヴィルヘルムの目は、自分の分を受け取ると輝いた。
彼はそれを食べ尽くそうとしたが、そこで止まった。
彼は私の手つかずの一切れを見つめ、それから私の顔を見た。
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ヴィルヘルムの嬉しそうな表情が曇った。
何も言わず、彼は自分のケーキの半分を割り、私のお皿に滑り込ませた。
その仕草は私の喉を締めつける力で襲いかけ、感謝の言葉をすべて奪った。
私の返事は静かなこだまだった。
私は自分の一切れを半分に切り、まず小さな方を食べた。
父はそれを見つめ、顎の筋肉がピクッと動いた。
彼は何も言わず、ただマグカップからゆっくりと、deliberateに一口飲んだ。
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翌日、母と私が鍛冶場に行った時、私の頭の中にある計画が浮かんだ。
彼らが話している間、私はただ歩き回るだけではなかった。
使命があった。
私は捨てられた羊皮紙の一片と、バケツから炭の塊をひったくった。
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静かな隅で、私の手が動いた。
それはGペンの滑らかな流れではなく、炭の粗い、引っ掻くような引きずる動きだった。
私はデザインを描いた。
木の根のように複雑に織り込まれた柄の、小さく優雅な短剣の詳細な設計図だ。
私たちの鍛冶場が決して生産したことのない、一種の独特な仕事、ヴィルヘルムのための何か独特なものだ。
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羊皮紙を握りしめ、私は冷めつつある炉に近づいた。
くず鉄の小片が、まだ温かい炉端近くに転がっている。
もしそれを金敷の上に持っていき、もしハンマーを握ることができれば…私の指が擦り切れた木の柄を握った。
「何をするつもりだ?」
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父の怒鳴り声が石に反響した。
彼は歩み寄ると、私の手からハンマーを、もう一方の手からは羊皮紙を奪い取った。
彼の顔は煤と怒りで覆われていた。
「ここは鍛冶場だ、遊び場ではない!」
彼の声は金属のように割れた。
「お前は何かを学ぶ前に火傷をするぞ」
彼は炭で描かれた設計図を睨みつけた。
「そしてこれは何だ?落書きか?お前がここでこれを失敗しているのを人に見られたら、何と言われるか分かっているのか?これで…役に立つと思っているのか?お前はただここに歩いてきて…炭と夢で、何かを作り出せると思っているのか?奴らはお前を役立たずと呼ぶぞ、娘よ。私が馬鹿を育てたと言うだろう」
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私は後ずさりした。
彼の怒りの熱は、どんな火よりも焼けつくようだった。
彼の睨みつける視線は物理的な重みであり、私をその場に釘付けにした。
そして沈黙の中で、私は次の一撃に備えた。
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しかしその時、ヴィルヘルムが前に出て、静かだがしっかりした声で言った。
「父さん。きっと彼女には理由があるはずです」
彼は父が投げ捨てた破れた羊皮紙を拾い上げた。
「見てください。これは…美しいです。村で誰もこんな風には描きません」
彼は設計図から私へと視線を移し、無色の少女ではなく、理解できない才能を持つ妹を見つめた。
「彼女は無頓着だったのではありません。役に立とうとしていたんです」
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父は私たちを見比べ、怒りとショックが戦っていた。
ヴィルヘルムが私を守り、彼自身が恐れている「でたらめ」そのものに価値を見出している光景は、彼を言葉なくさせた。
彼は私をまた叱ることはなかった。
彼はただ振り返り、母の方へ歩いて行った。
彼の肩は、彼が扱う鋼よりも硬く、沈黙は今、新しく、より複雑な緊張で満たされていた。
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鍛冶場の空気は冷めたが、父は私を再び見ようとはしなかった。
ヴィルヘルムは破れた羊皮紙をしまい込み、エプロンの中に秘密のようにしまった。
初めて、私はどちらがより熱く燃えるのかわからなかった…炉か、それとも父が去った後に残された空間か。
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その夜遅く、母は私の手の煤の汚れを見つけた。
彼女はかすかに微笑み、布が灰色に変わるまでこすった。
「取れないわね」彼女は呟いた。
それから私の額にキスをした。
「そのほうがいいのかもしれないわ」
エルズベスがこの世界で初めて「描いた」ものは、紙ではなく鉄の上でした。
魂の記憶は、どうやら簡単には消えないようです。
次回――彼女の“炎”が静かに目を覚まし、運命が動き出します。
来週、同じ時間、同じ場所で。
読んでくださり、ありがとうございます。




