未知と未来と猫の遭遇
ジリリリリリ、ジリッ
ふふぁ……
目覚まし時計の音で起きる。
背中に手を伸ばす。翼が無い。少し残念だ。はぁ。
……ということはもしかして世界が元に戻ってるんじゃ!
「おはようございます。マスター。血糖値、血圧共に安定。良い目覚めですね。」
「だ、誰っ!?」
「マスター。目覚めた直後に急に起き上がる事は体に大きな負担が掛かります。安全に目覚めるためのポイントを教えましょう。まずは起き上がる前に横になったまま深呼吸をし、」
「わかった、わかったって。ごめんよ。」
なんだこいつ?ロボット?なんか丸っこくてちっちゃくてモフモフ。おまけに猫耳みたいなの生えてるし……
「で、お前はなんなんだ?」
「私の事ですか?ひどいですね。忘れたのですか?私は最新AI搭載で対話可能の“独立型日常生活支援ロボットOKUMEO”ですよ。ですがこれはただの名称に過ぎず、私のニックネームは初回起動時にマスターから名付けてもらって……。」
「ん、どした?」
「???おかしいですね。該当項目がありません。どういうことですか?」
「んなもん知らねえよ……」
「このままではいけません。直ぐにニックネームを設定して下さい。」
「はぁ?」
「直ぐにニックネームを設定して下さい。」
「わかって。えと、名前だろ。んー。」
いきなりそんな事言われてもなぁ。名前、名前……。こいつ猫っぽいしそんな感じでいいか。
「にゃこ。」
「既にその名前は使われています。他の名前を入力してください。」
「はぁ?ペットに名前被りぐらいあるだろ。」
「ペットではありません。“独立型日常生活支援ロボットOKUMEO”です。同じ名前だと他の方の私と混同してしまったとき見分けが付かなくなります。」
「見分けぐらい付くだろ……」
「管理者側が困るんです。」
「めんどくせー。」
「いいので早くニックネームを設定して下さい。」
「にゃーこ。」
「既にその名前は使われています。他の名前を入力してください。」
「なんなんだよ!」
「ニックネームを設定して下さい。」
「にょこ。」
「……設定完了しました。『にょこ』……ネーミングセンス無いですね。マスター。」
「てめぇ電源ボタンどこだよ。」
「教えません。というか時間大丈夫ですか?ここからマスターが通っている高校まで10分掛かりますよ。」
「やべっ。て、お前のせいだからな!」
「お前ではなく『にょこ』wです。」
「笑うなよ!……て、ちょっと待て。ここから学校まで10分?」
どういうことだ、学校まで全力で激チャしても20分がいいところだぞ。
「どうやったらそんな早く学校に行くことができるんだ?」
「? ごく一般的なスマートトラックでの移動ですよ?」
「すまーととらっく?車なんて誰が運転するんだ?」
「自動運転ですが。」
「ほへ?」
「さぁ早く支度して行きますよ。」
「お、おう……」
―――――――――――――――
無機質な街の中をただ坦々と進んでく。人の気配が感じられないハリボテの様なビル街や、綺麗に整備されたインフラ。『にょこ』の話や街の様子を見る限り今日は“AIが超発達した世界”のようだ。世界中が未来都市になっているのだろう。
思えば昨日もSFみたいな街だった。縦横無尽に敷かれた道に、高くそびえ立つビル。しかしどちらも似た特徴を持っているが、雰囲気は正反対だ。
昨日は本当にうるさかった。いろんな意味で人と人が街中の至る所で出会っていた。だが今日は違う。決してうるさくないわけではないのだ。様々な音に溢れている。しかし何処か物寂しい。元気が無いというか、心が無いというか。
感傷的な気分に浸りながら世界の事を考えていると直ぐに目的地に着いた。
―――――――――――――――
「おはよう玲王。」
「ああお前か、おはよう。」
ここまで発展した世界でも普通に学校があることに驚いた。こんな世界ならリモート授業だったとしても何らおかしくないのに。教材が全てデジタルだから荷物がほぼ無いのは有難いけど。教室をぐるりと見回した。やはり所々違っているとけどクラスメイトは同じだ。
「あ。」
金瓜さんがいた。忘れないうちに昨日の傘を返さないと。……でも待てよ。昨日のあの出来事は翼が生えていたから起きたのであって、この世界の彼女は何も知らないんじゃ?んーでも傘はあるしなぁ。このまま持ってても金瓜さん困るだろうし、一応返しに行くか。
「あの……金瓜さん?」
「き、鬼虎君?おはよ……。どうしたの?」
「か、傘の事なんですが、」
「あ、昨日の?持って来てくれたんだ……。」
「そうそう!」
昨日のこと覚えているんだ。でもそれなら矛盾するんじゃ?
「昨日は大変だったね。アリニは雨が降るなんて言ってなかったのに。それに車も故障するし……」
「アリニ?」
「あぁ、私のロボの名前。」
「こんにちは。私はアリニと申します。」
アリニは俺のとは違い可愛く飾り付けられていた。へ~こいつって色々カスタムできるんだ。
「マスター。私も可愛くカスタムしてくれていいんですよ。」
「はいはい。検討しとくよ。」
「えへへ。鬼虎君のはなんて名前なの……?」
「あー。にょこ。」
「え、?」
「にょこ。」
「にょ、にょこ?」
「にょこ。」
「か、かわいい名前だね……」
「無理に慰めなくていいよ……」
「マスター。ぷぷぷ。」
「お前はもう一生しゃべんな。」
空が黄緑色になってから3日。
今日も世界は狂ってる。




