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年々父の愛と過保護が大きくなる共に、ジルもスクスクと育っていった。
折々、これ足りない、これあったら便利なのにねと言うものは父に製作を丸投げしたりしていたが、やはり父の血はジルにも流れていた様で、物を作り出す楽しみを知る様になっていった。
14歳の冬。
北の領地はすっかり冬籠り中だ。
今年も相変わらず雪が多く、吹雪く外を窓ガラス越しに覗き見るだけで、必要時以外は屋敷から出たく無いと思う様な天候が続いていた。
小会議室にいるジルの目の前には、書類の小山が出来上がっていた。
デビュタント用のドレスを作ってもらうにあたって、仕様書を作らねばならない時期であるのだ。
社交界デビューは貴族子女にとって一生に一度のお披露目の機会であり、本格的に貴族社会に受け入れて貰うための儀式でもある。
デビューを迎える者は、男女とも白い衣装を着ることになり、女性はティアラも着ける。
このティアラは、毎年の王城で行われる社交シーズンの始まりを告げる舞踏会と新年を祝う舞踏会、その他大きな式典などでしばしば着ける事になる。
その人物を表現する、象徴的なティアラともなるのでドレスと共に、どの家も力を入れて職人に製作を依頼する。
家柄によっては、とてつもなく時間がかかる事にもなり得るので、デビューの数年前から製作依頼をして、日にちが近くなってから微調整をお願いするのだ。
うちは父さまがアレな感じだから、めーっちゃ時間かかりそうよね。
父さま、すでに何年も前から取り掛かりはまだかまだかって言って、間に合うのか心配してたくらいだし。
そんな前から作っても、私自身の育ち具合とかイメージの変化とか色々あるんだからって、ドレスメーカーのマダムと一緒に毎年の様に説得して、今日まで待たせるのが本当に大変だった…
漸く今年からデビューに向けての準備がスタートするのだ。
ティアラと真っ白いドレスかぁ。
前世では結婚した記憶ないから、初めて結婚式のドレス選びするみたいな気持ちになってソワソワしちゃう…うわぁ、とにかく楽しみだなぁ。
明確なカタログは無いが、今まで作ってきた形のデザイン画のような素描が束で置いてある。
ドレスメーカーのマダム、ダフネが持ってきてくれたのだ。
工房の職人から預かったティアラの製作例も一緒に持ってきてくれたが、付けた途端に首の骨が折れそうなほどゴテゴテのティアラもあり、一体どんな人物が着用したのか興味は尽きない。
雪深い中、ドレスのあれこれが色々決まるまで、工房から屋敷まで何度も通ってくるのは負担になるだろうからと、ダフネは数日泊まり込むように父から親切なように見えて実際は明確な監禁宣言を受けている。
仕立て屋にとっては手仕事の季節で忙しいであろうこの時期に、トップが終わりの見えない合宿に強制連行。
父の暴挙を知ったジルはダフネに頭を下げたが、ダフネはこうなる事は事前に分かっていたからと笑い飛ばした。
ダフネの仕立て屋で今まで作ってきた物だというデザイン画は、それぞれ多少の違いはあれど殆どが同じ形で、前世で言う、ローブデコルテのような形が主のようだった。これがスタンダードでらしいので、デビューであんまり突飛な格好をするのも良く無いだろう。
デビュー後は多くは無いだろうが社交も増えるだろうからと、続けて幾つかドレスを作ることになる事は父からも聞いている。
あちこちの舞踏会に行ける様になったら是非、どんなドレスがこの世界にあるのか見てみたいとジルは思っている。
好奇心が疼くが、まずはデビュタントのドレスだ。
絶対にチューダー織の布地とチューダー文様の刺繍は使いたいって思うわー!
前世のジルは女友達と結婚式ではどんなドレスを着たいか、ネット記事を見ながらあれこれ話した事はあった。
これは華奢な子しか着れないよねーなんて、憧れはしてもあの頃の体型では絶対似合わないであろうドレスばかりでもあった。
今世!今世はイケる!
むしろ思いつくドレスはみんなジルに着せてみたい!
鏡を見るたびに他人事のように感じる時が未だにあるが、腰まで緩く波打つ白に近いような金の髪に、顔の半分は目じゃないの?と思うくらい大きなペリドットグリーンの瞳。
ほっそりとした首筋にすんなり伸びた手足や、まだ成長途中の胸や腰。
父がジルを天使や女神というのも少し頷ける。
最近は妖精や精霊と言う父からの称賛も増えた。確かにこんな子が森の木陰から出てきたら確かにそう思うかもしれない。
全部ジルだけの意識であれば、自分大好きな自意識過剰のイタい子になってしまうが、2人分の意識が混じっている分、他人から自分を見ている様な、俯瞰気味な位置にいるジルもいる。
そんな他人行儀なジルから見てもジルはとてつもない美少女である。
全体的に色素が薄めのジルが、白いドレスを着たらぼんやり薄くなっちゃわないのかな?
よくわかんないけど、でもでも、前世じゃ絶対着れなかったドレスは着てみたい!
エンパイアラインのドレスとかも着てみたいけど、デビューでやらかす勇気ないし、体も成長してからの方がカッコいいよね。今回はパスか。
デザイン画から目線を上げたジルは、ダフネに聞いてみた。
「あのね、チューダー織は絶対入れたいのだけど、それに綺麗な模様のレースも組み合わせたいの。
あとはチューダー織に白い糸でチューダー刺繍も入れられないかしら?」
ダフネは目を瞬かせるが、そんなダフネにジルは重ねる。
「基本夜会服だからデコルテは出さなくてはいけないでしょうけども、ここの肩部分にレースで飾り付けたいの」
デザイン画を指差しながら、ローブデコルテのネックラインから肩にかかる部分を指し示す。
「あとはそうね、肘あたりまで隠れるくらいの長さにボレロっぽく透けるくらいのレースをつけて貰うのもいいし、ファーも良いわよね。パフスリーブも可愛いかもしれないわ」
デザイン画では全て共布で作られているので、ジルは異素材を組み合わせる提案をしてみたのだ。
するとダフネの気配が変わり、瞳の赤紫色がメラメラと燃え上がる様に濃くなるのが分かった。
「お嬢様どうぞ詳しく!」




