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フォーサイスの王を含め、チューダーの屋敷の一番奥まった会議室で、シルフォレストの王城で決まった話をジルと伯母も揃って聞く事となった。
家令は中央まで父に随行したが、執事長は屋敷に残っていたのでそういった乳母や上級使用人も多く集められている。
まずはチューダーが公国となると発表された。
辺境伯から大公。
そもそもチューダーは辺境伯と便宜上名乗ってはいても、その成り立ちは昔、王弟が臣籍降下してできた公爵家でもあり、その王弟がこの様な僻地に根を下ろした理由も、今回の遺恨でもあった精霊狩りの一件があったからだった。
タリオンこと、タリーが言うには、国のせいで多くの精霊を亡くしてしまった悔いと鎮魂の意味もあったそうだ。
あの無駄なと思っていた緩衝地帯も、必要以上に精霊に近づきませんというご先祖の意思表示だったそうだ。
父が精霊族に忠誠を誓ってしまった件。
チューダーの国替えを引き止めるシルフォレストへは、領地と跡継ぎを救ってもらい、更には結界まで築いて貰った以上は忠誠を誓うのも釣り合いが取れた行為であると言い訳をしてきたそうだ。
そして今回の最大の被害者である妖精族の王、タリオンの登場。
シルフォレストでは何百年も顕現していなかった、もはや伝説上の生物であった精霊、その王が満を持して王城に現れたのだ。
今回の騒動の主たる者は様々な形で命を落としていき、そうでなくても繋がりのあった者は失脚したり、監査を受け入れて浄化される事になる。
首謀者であるフーアもまた風前の灯火だと言う。
南部にはフーアからの難民が雪崩れ込み始めていて、戦争のために向かっていたあちこちの領の連合軍が、治安維持の為に暫くそのまま駐留する事になったそうだ。
これらのキッカケ全てはこの精霊王の差金であろう事は明白。
絶対的な力を持つこの王に逆らえば、シルフォレストすらもどうなるかは分からない。
これらを総合して裏切り者を出したシルフォレストには、チューダーを置いておけないというタリーの意見にも止む無しという雰囲気が流れたそうだ。
そこに待ったをかけたのは、意外な事にフォーサイスの王であったと言う。
「発展著しく、精霊の愛し子がおられるチューダーは確かに魅力的ではあるが、かと言って我が国に組み込むのもおかしな話ではある。
それならばこの国と我が国との間の公国とすれば良いのではないかな?」
チューダーの大元はシルフォレストの王族。
チューダーの先祖には精霊族。
独立権力を持つには十分であると言う判断だ。
「タリオン様、領土を取った取られたなど新たな遺恨を未来に残すよりは、真っ新から始めさせるのも良いのではないですかね?
さすればデニス様も独立を果たした第二の故郷へ大手を振って戻られる事も出来るようになられます。
二度とこのような事が起きぬようにシルフォレスト、フォーサイス、チューダーの三国で正しい記録を残しましょう。チューダー公国の成り立ちと共に。
ーーーそして新たな道を共に歩むのです」
これが決定的な一言となり、チューダー公国が誕生する事となったのだった。
「それにしても公国…ですか」
「ああだが、大して今までとは変わらないよ。ジル、だから何も心配はいらないよ」
安心させるように父がジルの肩を抱く。
「変わるのもほぼ名前だけだね。まあ国から自立するわけだから、多少は自助に力は入れなければいけなくなるけども、両隣国とも友好国であるわけだから、お互い助け合う共助の協定も結べたからね。
流通も今まで通り、税を上乗せするとかも考えてないから、自由貿易協定も結んできた。
ね、今まで通りだろう?
ただ精霊族も含めてお互いに尊重し合うために、うちを公国とするだけなんだよ」
なるほどと腑に落ちる反面、自分がこの先、一国の主となる未来にジルは足が竦むような思いがした。
辺境伯の跡継ぎでも上手くいかなかったらどうしようって思ってたのに、公国って独立国家よね?
話がデカすぎてもうよく分かんないけど、とにかく荷が重いって事だけは分かるー!
黙り込み、下を向いてしまったジルをいかにしようと父が口を開こうとした時、場違いな陽気な声が響いた。
「やあやあ!我が孫娘は元気にしておるかのう?」
ジルが顔を上げると、先ほどまでいなかったはずのデニスがニコニコと立っていた。
「おお!おったおった。ジルやー!元気だったか?
おお?我が孫のデイビットも先程ぶりだの」
少なくはない会議室内の人混をスイスイと掻い潜り、父を跳ね飛ばし、ジルの横にデニスが腰掛けた。
「ジルや、爺は決めたぞ。
この地が憎きシルフォレストの土地で無くなるならば、爺はまたしばらくこの地に根を下そう。
そして可愛らしい孫たちと共にいよう。
だからの、何も不安に思うことなど何もないのだぞ」
優しい笑顔でデニスが微笑む。どこかで話は聞いていたが、ジルの不安を察して出てきてくれたのだろう。
「お祖父様…」
「だんだん大公という名に沿うていけばいいのだ。
まだまだお前の父もおる。焦ることは何もない」
ジルが思わず抱きつけば、デニスも受け止めてくれた。
「ジル!ジル!私もこちらに居を移すぞ!」
テーブルの反対側からタリーがハイハイと手を挙げてジルにアピールするが、父がピシャリと突き放す。
「あなたには大公権限で居住許可は出しません」
「私は妖精王であるぞ!お前はずっと態度がデカくて頭も高いのじゃ!生意気なんじゃ!」
「王がこんな事を申されたと私のお祖父様に言いつけますよ?」
なかなか止まらぬ喧嘩が始まった事で、その後はフォーサイスの王が進行役となって今後についての話し合いが続けられる事になった。
だが度々父とタリーが喧嘩を始めるのでなかなか話が進まず、結局フォーサイス王は三日ほどチューダーに滞在し、観光と買い物まで済ませて帰っていったのだった。




