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「出せー!出せ!俺はここの王子だぞ!この国の王となる者であるぞ!」
このような事が許されるはずはないのだ。
それに何でこうなったのかなど全く考えつかない。
愚図で間抜けな司令官と話した後に近衛に言いつけ、散々急がせてやっと城に帰る準備が整ったと言うので、馬車に乗り込み走り出したかと思えばすぐに馬車が停まった。
「一体何をやっておるのだ!グズグズするな!さっさと馬車を出せ!」
と怒鳴った記憶はある。寒く陰気臭くて薄気味の悪い北部から早く出たかったのだ。
…ああ、そういえば誰かに頭から網を被せられたのを思い出したが、その後の記憶は無い。
気付いたらここにいた。
あの時、網に包まれた状態で俺は目を覚ました。
目の前には見覚えのない銀色の髪色をした男が立っている。
俺は慌てて立ちあがろうとしたが動けない事に気づいた。頭から黒い網状の物に包まれているからだ。
「おい!どう言う事だ!何だこれは早く外せ!」
俺は男に怒鳴った。
「目覚めて早々それか。本当に無駄に偉そうでうるさい男だな」
その男は心底嫌そうな顔で俺を見る。王族である俺をそんな目で見る奴など今までいたことはない。なんて無礼な男なんだ。
「何だと!?貴様…」
「ではご希望通り虫取り網から出してあげよう」
男が指を振ると途端に周りの網は取れたが、俺は檻の中に入れられていた事を知る。
それにそれは俺が動くだけで、どういう事か不気味にギイギイと音を立てて右に左にと揺れる。
足元には床など無く、足裏よりもやや小さいくらいの間隔の格子状なので、立つにしても揺れと相まって不安定だ。
何とかして立ち上がり更に気付くと、格子の下は空中だった。
腹の下の方がキュウと縮む様な心地がして、慌てて横の格子に掴まると更に檻は激しく揺れた。
安心したくてしがみついたはずなのにどうやっても怖い。
これは相当の高さではないか!
「ど、ど、どこだここは!」
下を見る目線を何とか引き剥がして左右も見渡してみると、檻の横にある建物は見覚えのある形と色をしている。
まさかここは我が城か?
慌てて景色を見渡してそれは決定的となった。
城の中でも一番高い尖塔の屋根辺りに俺はいた。
そして男は檻の外、宙に立っていたのだった。
きっとあの男は無知で、これも何らかの誤解でもあったのだろうが、俺の血筋を知らしめ誤解を解き、何とか男を屈服させねばならない。
恐怖に押しつぶされそうな気持ちを奮い立たせ、男を睨みつけ俺は怒鳴った。
「おいお前!早く出せよ!俺を誰だと思ってるんだ!早く出せ!まだ今なら相応の罰だけで許してやるぞ」
「おおこれは素晴らしくよく鳴く虫ケラだ。やっぱりお前には虫籠がお似合いだった」
男は会話すら面倒くさくなったのか、ただそう言うと掻き消えた。
ちょっと待て!俺の話を聞け!誤解を解く暇すら無いではないか!
焦って叫び出そうと俺が口を開けた瞬間、男がまた現れた。
「ああそうだ。言い忘れておったが、虫ケラには我が孫娘は勿体無い。虫ケラなどに絶対にやらぬよ。言いたかったのはそれだけだ」
俺の声が出る前にもう男の姿は消えていた。
「おい!おい!待て!孫娘って何だ!?おい!俺をこのままにして行くな!」
何度叫んでも、もう二度と男が戻ってくる事はなかった。
騒ぎを聞きつけ慌ててやって来た城の魔導士が、尖塔の小窓経由で檻を破壊しようとしたり、俺を転移出来ないか色々手を尽くしたが、檻はビクともしなかったし、魔導が通らないとか訳の分からない事を言うばかりで何の役にも立たなかった。
休もうとしても床は無いので横になることも出来ず、座ろうとしても凍てつく様に冷たくデコボコとした鉄の檻は、体の何処かしらに食い込む様に当たって痛む。
それに常に不気味に揺れていて、いつか落ちるのではないかと気が気では無いし、とにかく居心地が悪い。
檻の隙間から食料などは渡してもらえたが、垂れ流す以外排泄する場所もない。
高い場所のせいか風は吹きすさび、昼間も寒いが夜はもっと冷える。
隙間を通る衣類は受け取れるが、暖を取る魔道具は檻に入れた途端に壊れたように動かなくなる。
まだ数日も経っていないが、既に俺は弱ってきているのがわかる。
俺はここでこのまま死ぬのか?
嘘だろう?俺は王になる男だぞ!?
「出せーーーー!ここから出せーーーー!
一体俺が何をしたって言うんだ!」
俺はあの銀色の髪をした男に聞こえるようにと、声の限りに叫び続けた。




