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 ジルが乳母と一緒に部屋に戻ってしまうと、タリーはデイビットに応接室へと案内された。


 席に着くとまずはデイビットが口を開いた。

「改めまして我が領地と娘をお救い下さいましてありがとうございました。我々は精霊族へ恒久の忠誠をお誓い申し上げます」

「先ほども申したが良いのだ。あれは我々とて許せるものではない。精霊族にとっては約束とは絶対。それが破られたのだからの」

「……私共も肝に銘じます」

その様な気は一切無いとは言え、この女王を裏切った場合の事を考えただけで、デイビットは薄寒くなる様な思いがした。


「それで?」

片眉を上げたタリーが先を促す。


「はっ。現状国軍は体を成しておりません。

昨夜のうちに司令官が逃走。その上、第二王子が総司令官として従軍しておりましたが、逃げた司令官よりも更に先に王都へ逃げ帰ってしまっている様です」


 執事長の入れた茶を一口飲んだタリーは口を挟んだ。

「ああ、その王子ならもう捕まえておるよ。

そんなに国許に帰りたいのなら、早く連れ帰ってやった方が本人も喜ぶであろうと気を利かせてやったそうだ。

あいつは気遣いも仕事も出来るやつで誇らしいが、反面孫娘を傷付けられて怒り心頭であるからの、抑えつけるのが大変ではあったが、まだ生かしておくようには申し付けておるよ」

「孫娘?…でございますか?多少ジルの手紙にもありましたが、その他の内容に気を取られ過ぎておりましてその点の詳細までは…」

「過去、まあ相当の昔話であるが、ここの娘に婿入りしていた事のある者がおってな、ジルは遠い孫娘に当たるわけだ。おおそうか、お前にとっても爺になるのう」

「そんな事が…」

「身元は明かさず入婿したようであるし、当時は今時よりも身分制度も緩かった時代であったようであるから、家系図には名が残っていたとしても、詳しい文献も残っておらぬであろうよ」


 新たな親族まで飛び出て、一瞬の動揺を見せたデイビットであったが、ジルが戻るまでに聞かせたくない話は終わらせなければならない。その話の詳細は後回しにする。


「なるほど…して始末はどうなされますか?」

「そうだなぁ。纏めて全て終わらせた方が面倒も無くて良かろう。我々が王都に着いてからかのう。細かい調整はお前のおじいちゃんがどうにかするそうだ。孫可愛さで年寄りが久しぶりに張り切っておるよ。

この地の結界は強化しておくゆえジルは置いていく。血生臭い話はジルの耳に入れたくはない」

「はっ。では明朝出立と手配をしておきます」

それを聞いて一礼をして執事長が部屋を出て行く。使用人たちに準備を始めさせるためであろう。


 その後戻ってきたジルには表面的な話だけ聞かせる。

知らなくても良い事はこの世には沢山あるのだ。


ーーーーー


 城の尖塔に見覚えのない物体がある。


 デニスによる例の微調整にまだ時間がかかるからと、久々に旅がしたいと言うタリーの為に転移ではなく、馬車に乗ってやってきた二人は王城の前庭にいた。


 デイビットが目を凝らすと、尖塔の屋根部分に太い鉄筋のような物が突き刺さり、その先の方に無骨な四角い籠がぶら下げてあった。

その中からなにやら叫ぶ様な大きな声が聞こえてくる。

何を言っているかまではハッキリ聞こえないが、人が入れられているようだ。


「あれは…もしや?」

デイビットの疑問にタリーが答えた。

「ああ第二王子だ。精霊族を羽虫呼ばわりしていたそうでな。ハハハ、あやつらしい面白い意趣返しであろう?」


 怯えた顔の侍従に謁見の間に案内されたが、王が座る椅子は空席だった。

その代わり、第一王子のカインと宰相を含む主な貴族たちが立って待っていた。


 その対面に長身の銀髪の男が立っている。

「おおデイビット。あれがお前のおじいちゃんのデニスじゃ」

タリーに楽しそうに言われても、事前に聞かされていたとは言え、急な親族の登場にデイビットが戸惑っているのが分かる。

「くくく…後ほど交流を持つと良かろう。感動の対面のその前に、面倒事をさっさと片付けてしまおう」


 そう言うとタリーは冷たい目を既に顔面蒼白な第一王子に向けた。

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